七夕の願い事

作:ロッカラビット



――― もしも本当に願いが叶うなら、何をお願いする? ―――


今年の七夕は日曜日。未夢と彷徨は出掛ける予定もなく家でのんびり過ごしていた。

ワンニャーはルゥを連れてモモンランドへ行っている。七夕フェスティバルのプチイベントとして、みたらし団子世界一決定戦が行われるらしい。

彷徨は柱にもたれて小説を、未夢は寝転がって雑誌を。二人とも話をするわけでもなく、ただ同じ部屋でそれぞれの時を過ごしていた。それが心地よくお互いに安心を得る。

パラパラと本をめくる音だけが部屋に響く。

未夢の目があるページで止まった。


【七夕特集 〜あなたの願いを叶えます〜】


気になって読み進めると、おまじないのやり方が書かれていた。どうやら七夕になるとその効力が増すらしい。そんなことあるのかな?と半信半疑で読んでいると、ふと学校での会話を思い出す。


綾とななみとクリスといういつものメンバーでの楽しい食事の時間。もうすぐ七夕という話題になり、願い事について話をしていた。クリスは彷徨君と…と一人妄想を膨らませて真っ赤になって力尽き、綾は演劇留学について熱く語りだし、ななみは世界中の美味しい物を食べたいと言い出した。そして最後に未夢に注目が集まった。未夢はあれこれ悩んだが結局思いつかなかった。

そんな未夢に、それって幸せだね、と綾が呟く。

結局そこで時間になり、話を切り上げた。



願い事が無いのが幸せ?未夢は改めて考えていた。願いが全くないといったら嘘になる。でも本当に願い事が絶対に叶うと言われたら、どうしても叶えたい願いなんて…。

このままの生活は楽しい、けれどこのまま続いて欲しいかと言われるとそれは困る。ルゥ君を本当のママやパパの元へ帰してあげたい。だからと言って、それを願うのも切なすぎて寂しすぎて…。じゃぁ何か欲しい物があるか?と考えてみても、最低限欲しい物はお小遣いでなんとかなっている。行きたい所や食べたい物…考えるが思いつかない。

やっぱり何も思いつかない未夢は、今、自分が幸せなんだと思い知る。

パパとママとは離れて暮らしているけれど、ワンニャーやルゥ君、それに彷徨が居て毎日心が温かい。いつかはバラバラになる日が来るのはわかっているけれど、まだその日を想像することが出来ない。無意識に想像したくないという気持ちがそうさせているのかもしれないけれど、それでも今は幸せなのだ。


未夢はふと彷徨を見た。彷徨は何を願うかな?


きっとカボチャを死ぬほど食べたいとか本を沢山読みたいとかだろう。

そんな想像をして思わず声を出して笑ってしまう。

彷徨が不思議そうに未夢を見た。

ちょうどいいと、未夢は彷徨に聞いてみた。

七夕に、もしも本当に願いが叶うとしたら、何をお願いする?

少し考えた後、彼の口から出た言葉に未夢は驚いた。


――― 特にない。 今、それなりに幸せだからな。 ―――


彷徨はそれだけ告げるとまた本の世界へ戻ってしまった。


驚きの後に訪れた嬉しさに、ほんのり頬を染めて思わず笑顔になる。

彷徨も幸せだって感じてるんだ。

たったそれだけのこと。でもそのことが嬉しくて。

少しの間、本を読む彷徨を見つめた後、また雑誌のページをめくった。




――― もしも本当に願いが叶うとしたら、あなたは何をお願いする? ―――





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