作:ロッカラビット
「キャーーーー!!!」
月明かりが優しく照らす西遠寺に、突如響いた叫び声。
「どうした!未夢!」
「大丈夫ですか?未夢さん!」
ほぼ同時に到着した二人は、未夢の部屋の襖を開けた。
月明かりの中、微かに見える布団に未夢の姿は無い。
「だ・だ・大丈夫。」
小さな声を頼りに目をやると、開けた襖のすぐ傍に掛布団を被った未夢が座り込んでいた。
「うわっ!」
思わず驚いて声を出す彷徨。
「ごめん、ごめん。ちょっと怖い夢見ただけ。」
そんな彷徨の様子に気にもとめず、小さな笑みで答える未夢。
おかしい。
いつもの未夢なら「そんなに驚くことないでしょー!」と怒るか、「そんなに驚くなんて、まだまだお子ちゃまですなー。」と馬鹿にするはずだ。
彷徨が未夢の様子を窺っていると、向こうの部屋からルゥの泣き声が聞こえてきた。
「あっ大変です。ルゥちゃまが起きてしまわれたようですね。では、わたくしは部屋に戻りますので、未夢さんもゆっくり休まれて下さいね。では、彷徨さんも、おやすみなさいませ。」
そう言ってワンニャーは、シッポをクルクルと回しながらルゥが待つ部屋へと飛んでいった。
残された彷徨は未夢の方に目を向ける。
夜の暗さにもすっかり目が慣れてきた。
フーっと一息つくと、彷徨は自分の部屋へと歩き出した。
怖い夢を見た。目が覚めてもそれが夢と理解出来なくて、夢から続く暗闇に思わず叫び声をあげた。布団から這い出て明かりを求めた。でも、上手く動けなくて…。
ワンニャーと彷徨の声で冷静になったら、掛布団が体に巻きついた状態で部屋の襖にもたれていた。
中学生にもなって、恥ずかしい。きっと彷徨も呆れただろうな。
部屋から去っていく彷徨の足音を聞きながら、静まりかえった部屋を見渡す。誰もいなくなった敷布団が、まるで夢の続きをと誘うよう。
ブルブルと顔を振り、立ち上がろうとする未夢。
「あれ?」
思わず出た声に、後ろから声がした。
「どうした?どっか打ったか?」
「へ?」
予想していなかった声に、思わずまぬけな声を出して振り返った。
そこには先程部屋へ戻ったはずの彷徨がいた。
「あれ?彷徨。何で?」
「それより、どうした?立てないのか?」
未夢のへんてこな体勢に彷徨が怪訝な顔をする。
「あー・・・・。うん。」
誤魔化しようの無い未夢は、怒られるのを覚悟で返事する。
「はぁ。仕方ないな。もう少し落ち着くまで様子みるか。ワンニャーはルゥの寝かしつけ中だろうし。まぁ明日の朝になれば、ワンニャーの道具で診てもらえるだろ。」
そう言うと彷徨は、未夢の隣に腰をおろした。
よく見ると、さっきはパジャマ姿だった彷徨が上着を羽織って、手には小説を持っている。
「あっ。そういうことか。」
彷徨の行動を理解した未夢が呟く。
「おい、お前聞いてたか?」
未夢の的を射ない返事に、彷徨が呆れ口調で問う。
「うん、聞いてたよ。彷徨、ありがとね。」
今度は笑顔で返されて…。もう訳が分からないという顔の彷徨。
布団を被って小さくなって震える未夢を、俺が見逃すはずないだろう。
部屋に戻り、椅子にかけてあった上着を羽織る。
暗くて読めないだろうけど、読みかけの本を一冊。
もう一度未夢の元へ戻れば、どうやら立ち上がれなくなっている様子。
まったく、何が大丈夫なんだか。
これだから、放って置けない。
呆れるのは、そんな未夢に翻弄されている自分。
そしてそれが嬉しかったりもすること。
未夢の隣に腰かけて、本を開く。
月明かりの力は、やはりそんなに強くはなかった。
残念ながら文字は見えない。
隣に座る未夢の様子を窺おうとするが、こちらも布団を被っていてよくわからない。
さて、どうするか…と思った矢先、口を開いたのは未夢だった。
「誰もいなかったの。ううん。最初は居たんだよ。でも、だんだん離れていっちゃって。パパもママも。ルゥ君も、ワンニャーも。彷徨も。それで真っ暗の中を、一人で走ってた。皆を追いかけようとして…。でもダメだった。それで怖くて…。怖くて。」
最後は少しだけ涙声になっていた。
「未夢?」
闇に埋もれた未夢を探し出すように、彷徨がそっと布団をめくった。
「未夢?」
もう一度優しく呼びかけた。
「彷徨」
顔をあげた未夢を、自分の方へと抱き寄せた。
座ったままの体勢で、すとんと未夢がおさまった。
彷徨の腕の中で、小さな泣き声だけが聞こえていた。
まるで親を求めて泣きつくルゥのような姿の未夢。
でも求めていたのは親へとは異なる想いを秘めた人。
優しく髪を撫でる彷徨の様子は、ルゥをあやす姿に似ているが、それとは異なる想いも秘めていて。
どれくらい、そうしていただろうか。
彷徨がふと気が付くと、腕の中から小さな寝息が聞こえていた。
起こさないようにそっと未夢を抱きかかえる。
お姫様抱っこ。
腕の中、すやすや眠る姫様の顔が月明かりに照らされて、潤んだ唇が彷徨を誘う。
「無防備。」
小さく呟いて、そっと未夢を布団に降ろすと、置き去りにされていた掛布団を優しく掛け直した。
そのまま部屋を出て、もう一度未夢を振り返る。
幸せそうな顔をして眠る未夢の顔をみて、思わず口角が上がる。
音をたてないように襖を閉めて、月を仰ぐ。
「紳士だろ?」
自嘲気味に呟いて、自分の部屋へと戻っていった。
そんな彼の姿を見送って、月が静かに答える。
「君は立派な騎士だよ。」
静かな夜の物語。
お久しぶりです!!
久しぶりの投稿なのに、「 night (夜)と knight (騎士) 」という訳で…。
駄洒落かよっ!
大目に見てやって下さい(笑)
久しぶりに開いたら、コメントを頂いていました。
ありがとうございます!!
もちろん、拍手もありがとうございます!!
そしてふと心配になったのですが…。
拍手&コメントは2週間分しか残らないので、私がこのサイトへ来ていない間にコメント頂いていたら、残念ながら拝読することが出来ていないことになります。
もし、その間にコメントを送って下さった方がいらっしゃいましたら、ここでお詫びとお礼を申し上げます。ありがとうございました。
掲示板に書き込みたいのですが、今は難しそうなので、落ち着いたらまた改めてそちらでご挨拶させていただきますね♪
ご覧いただきありがとうございました♪