青少年の健全なる妄想

作:



薄暗い外は雪まじりの雨。2−1の教室。

直前の授業が保健体育だったため、教室にいたのは保健の授業を受けていた1、2組の男子だけだった。

何気ない1組のクラス委員長の発言に、三太以外の誰もが鋭い視線を向けたとき…

女子がその場にいなかったのは、よかったのか、悪かったのか。




更衣室で着替えを終えた女子たちが戻ってきた。
はっとして逃げるように自分のクラスへ帰ろうとする2組の男子、固まったまま動かないクラスメイト。
男子特有のむさ苦しさの中の凍りついた空気に疑問を感じつつ、各々の時間へとつき始めた。

「…でさぁ、こないだ買った古着がねー…」
「あれ、可愛かったよね〜」
「うんうん! ななみちゃんによく似合って―――…」


いつものようにおしゃべりをしながら戻ってきた三人組がガラリと戸を開けたとき。

「な………なに…?」

その真ん中の、一等髪の長い女子に男子たちの視線は移された。彷徨と未夢を交互に見比べる者もいる。
「…………? ど、どうかしたの、みんな…?」
「「さぁ…?」」
周囲の女子の談笑が遠い背景に聞こえる中、おどおどと綾やななみと教室に入った。




◇◇◇


「…なんか変だよね〜?」
「うん…男子たちが遠巻きに変な視線を向けてるんだよねー。 未夢に」
「うんうん…って、わ、わたしっ?」
窓際の未夢の席で、弁当を広げながら、きょろきょろとあたりを見渡すななみ。男子数人と目が合ったらしい。
「うん、未夢ちゃんに〜。 …と、もうひとりいるけど、本人は全く気にしてないみたいだし」
「ま、保健の時間に変な想像でもしてたんでしょー」
「……? そうぞう…?」

「今日は競技ルールの詳細だったけどな」
「わぁっ!」
「! ……彷徨」
「…ったく、それで何を妄想するんだか」
「あはは、西遠寺くんも、気付いてはいるんだよねぇ〜」
丸めたプリントがポコンと未夢の頭に降ってきた。普段なら、何するのよ!と怒るところだけど、指摘された視線がより増えた気がしてそちらの方が気になる。
しかも、綾の言葉と彷徨の無言のため息から察すると、彷徨も同じ視線を受けているようで。

「……???? で、どしたのっ?」
「あ、あぁ。 これで今日の委員会の予定なくなったから、買い物当番付き合ってやってもいいぞ」
「ホントっ!? やったぁ!」
持ってきたプリントの束を逆に巻き直して整えながら、当初の用件を思い出したように告げると、途端に未夢はぱっと笑顔を返した。
「重いものばっかり頼まれちゃって、どうしようかと思ってたんだよねぇ〜」
「おまえなら余裕だろっ?」
「むっ! どーゆー意味よっ!」
「別にー?」
ひょいっと未夢の弁当箱から、ワンニャー特製の卵焼きをつまんで、逃げた。振り返って目が合った数人の友人は、なんだよ、と目で威圧しておいて。
「あ〜〜〜〜〜! わたしの卵焼きっ! 自分の食べたんでしょっ!」

「…見せつけてくれますねぇ、綾さん?」
「ですねぇ、ななみさん〜。 なんだか今日は輪をかけてラブラブな感じですねぇ〜」
蚊帳の外に放り出された二人から、ニヤニヤと楽しそうな声。両手を振り上げていた未夢はようやくはっとして、更に集まっていた注目に、小さくなる。

「な、何言ってるのよ、ふたりともっ! だぁれがこんなヤツとっっ」
「はいはいっ」
「そーゆーことにしといてあげましょ〜?」




◇◇◇


「そーいえば…」
「ん?」
辛うじて雨の上がった放課後、買い物を終えて、二人で袋に詰めながら。ふと、思い出した未夢が彷徨に訊ねた。
「なんだったの? 今日の男の子たち」
「……さぁ? 俺も知らねー」
いかにも理由を知っていそうな顔でべっと舌を出して、重い買い物袋を手に店を出た。
「あ、ちょっ、待ってよっ!」
未夢も急いで残りを放り込んで、カゴを戻す。
「絶対何か知ってるでしょっ! あのあと、三太くんと他の男の子たちに呼ばれたの知ってるんだからっ! …ねぇ、待っ」



「―――あ、あのっ!」

未夢が彷徨に追い付いたところで、背後から声をかけられた。どちらを呼ぶ訳でもない声に同時に振り向くと、そこには同じ学校の男子生徒。
「こっ、光月さんっ!」
見覚えのない顔に、彷徨に用事だろうと隣を仰いだところ。
「えっ、わたし??」

「お、おれっ、西遠寺に勝てるとこなんてないけど、でも…っ! 頑張りますから!」
「……は、い……?」
呼ばれて薄く作った笑顔の上に疑問符が浮かんでいた。
「これ以上、西遠寺のものになんてならないでくださいっっ!」
「へ……?」

「―――西遠寺っ! おれ、負けないからなっ!」
未夢の傍らでそれを聴く羽目にあった彷徨に、そう捨て台詞をはいた男子生徒は、まわれ右して猛ダッシュで去っていった。

「……? 彷徨…?」
「なに?」
「知ってる人?」
「…あぁ、4組のヤツ。 あいつもせめて名乗ってけよ…」
不審で遠回しな、それでもおそらく彼にとっては最大限の告白は、目的の未夢には全く通じていないだろうと察すると、ひそめた眉も同情に下がる。
なんでわたしが彷徨のものなのよ、と隣でブツブツ言っている未夢を、行くぞと目で促して、先に足を進めた。



「ねぇ、今日のおやつ何かなぁ?」
「……しばらくは落花生だろ」
「え〜〜〜〜? ピーナッツばっかりじゃニキビがぁ〜…」
「おまえがあんなに買ってくるから―――…!」

(……! …あぁ、それで、あのとき……)

「だって! 拾いそびれた大豆をルゥくんが食べちゃったりしたら大変じゃない!」
「…………」
立ち止まった隣に未夢が追い付いても、彷徨の足はその先へ動き出そうとはしない。
「? 彷徨??」
「…え? あ、あぁ…だ、だからって殻付きを全力で俺やワンニャーに投げなくたって…」
「そーだっけ? えへへ、ごめーん」
「来年は、おまえが鬼なー」
「えっ!? やだ! 思いっきり投げるつもりでしょっ!?」
ペロッと小さく舌を出した未夢の額を拳で小突いた。慌てる未夢に言葉は返さずに、前を歩く。


「言葉って、大事だよなー…」
斜め上を見上げてついた独り言は、また舞い降り始めた雪に吸い込まれた。






あのとき。

『なぁ彷徨、ソレどーしたんだよ?』
『?』
『首の後ろ、引っ掻いたみたいになってるぜぇ〜?』
『……あぁ、なんか痛いと思ったら…。
 昨夜は激しかったからなー…未夢のやつ、容赦なく攻めやがって…』

指先で小さな瘡蓋を確かめながらそう言ったら、教室中が凍った気がした。

『な、なんだ…?』

三太には、豆まきをすることは言ってあったから、深く考えずに放った言葉だった。
…そう。授業中、先生の話を聴かずに他のページを開いている奴が多いなんてことは、真面目に授業を受けている彷徨には思いもつかず。
三太が気付いたタイミングが、ちょっとばかり悪かったらしい。



(……まぁ、いいか…)






こんにちは〜杏です!
怪しいタイトルに惹かれた方、期待はずれですみません(笑)

今日は皆さん、恵方巻き食べますか!?
我が家は食べます!何故ならそれで夕ご飯が楽に終わるからっ(*^▽^*)b
今年の恵方は東北東♪それがどの方向かはテキトーです!
しゃべりながら食べます!むしろ食べにくいので切っちゃいます!(おいw

長編はどこ行ったんだと思うでしょう!私も思ってますw
思いながらも、次はバレンタインに逃げそうです。

地域の古来の風習や、近年は掃除などの利便性から殻付き落花生を撒くご家庭も、結構あるみたいですね(^^*
鬼さん…痛いだろうなぁ…。ルゥくんに飛ばされたやつとか…本気の本気だろうなぁ…。
と思ったところから生まれたお話でした。
彷徨くん、その殻で切ったんでしょうね、きっと。

言葉は大事です!
相手はどんなにツーカーな親友でも、周りで他の誰が聴いてるかわかりませんよ、彷徨くん!
…自分で書きながらこのセリフに悶えましたw
(主に未夢ちゃんに)確信犯な彷徨くんも大好きですが、こーゆーちょっと抜けてる(?)彷徨くんも書いてて楽しいです。

噂はもちろん、学校中。なんせ彷徨くんですから。翌日は3年女子に呼び出される予定の彷徨くん。ここからは確信犯彷徨くんが炸裂しそうだなぁ〜(〃v〃)
んふふふふ。

さ、長くなりましたので、この辺で(゜▽゜)ノシ
ご覧戴きありがとうございました〜!




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