十五夜の甘いもの

作:



「何してるんですかぁ〜未夢さぁん」

眠ったルゥを抱いて縁側を飛んできたワンニャー。
パジャマ姿で庭に出ている未夢に小声で声をかけた。
「ワンニャー。 ルゥくん寝ちゃった?」
「はい〜」
「今日はね、十五夜なんだよぉ〜」
「じゅうごや…?」

空を見上げていた未夢が、サンダルを鳴らして縁側に寄る。ワンニャーの方、ではなく。
「ありがと、彷徨」
台所の方から来た彷徨から、湯呑を受け取る。
「ワンニャーも飲むか? お茶」
「あ、じゃ、じゃあルゥちゃまを寝かせてきますぅ〜」
「ルゥくんも一緒に見れたらよかったのになぁ〜」
「もう11時だぞ?」
「…だよねぇ〜」

ふぅふぅと、立ち上る湯気に息を吹きかけて、一口。
「寒くなっちゃったね〜」
「これからもっと、なー。 じきに雪降るんだなぁー…」
「それは気が早過ぎない〜?」
両手で包んでいた湯呑を縁側に置いて、クスクスと笑いながら、彷徨の肩にトンっともたれる。

「あ、あのぉ〜わたくし、お邪魔でしたかぁ〜」
「わっ! ワンニャー!」
「いるんなら声かけろよー」
背後の声にぱっと距離をとる未夢。彷徨が、その肩にまわそうとしていた手で、ワンニャーの頬をぶにっと潰した。
「か、かにゃたひゃん〜〜いひゃいでふぅ〜〜」



「で、ジューゴヤってなんですかぁ?」
「八月十五日の月のこと、かなー。 満月か、それにほぼ近い月の日で…」
「8月? 今は9月ですよぉ??」
縁側の端に座ったワンニャーは、短い足をひょこっと出す。
「うん、旧暦の、な。 こうやって月見しながら、月見団子食べて―――」
「おだんごですかぁ!? そういえば戸棚にみたらしだんごが…」
ぽんっと手を鳴らして、ふわりと浮かんだ。

「…行っちゃった」
「団子に勝るものはないんだろうなぁ〜」
台所に消えたワンニャーを眺める未夢を、彷徨が後ろから抱きしめる。
「ちょっと彷徨っ…、ワンニャーすぐ戻ってくるよぉ…」
「…来ないから平気」
あごを掬って、此方を向かせて。月の映る瞳が伏せられる。
ワンニャーの戻ってくる音を気にしながらも、縋るように彷徨の袖を掴む。

十五夜のキスは、月見団子よりも、柔く、甘く。



一方、ワンニャーは。
本堂の屋根にちょこんと座って、先程よりも大きく近い月を、ひとり、見上げる。
傍らには渋いお茶と、皿に山盛りのみたらしだんご。

「下の方は甘すぎていけませんねぇ〜」



今晩は十五夜!
さっき思い出して、ポチポチと、所要時間30分足らずの一発書き。

月でも見に行こうかなぁ〜。

では、ご覧いただきありがとうございます。杏でした。


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