作:杏
「未夢さぁ〜ん。 ルゥちゃま寝ましたかぁ…? お茶にしま…
あらら、一緒におやすみでしたかぁ〜」
小さなルゥのお昼寝布団に、寄り添う未夢とルゥ。穏やかな寝息と、時折ふわりと風に揺れる二色の金の髪。
押し入れから出した薄手のタオルケットを未夢にかけて、ワンニャーはそっと部屋をあとにした。
「彷徨さぁーん。 お茶にしましょう〜」
「ああ、サンキュ。 未夢は?」
「ルゥちゃまと一緒にお昼寝ですぅ〜。 疲れてらっしゃるんですよぉ〜」
「だろーなぁ…」
居間に転がって本を読んでいた彷徨に冷たい麦茶を差し出して、戴きものの菓子折を開ける。
「当分はおやつに困りませんねぇ〜」
「毎年これをオヤジとふたりで消化するの、大変なんだぞ? まぁ今年はワンニャーがほぼ食べてくれそうだけどなー」
部屋の片隅には、無造作に置かれた菓子折の山。台所のテーブルには、桃にスイカ、メロン、ブドウ。
「戴けるのはありがたいですが、こんなにあると……どうしましょうねぇ〜」
お盆ももう終わり。テレビには昨夜のUターンラッシュの赤い蛇が映っている。
普段はあまり人の来ない西遠寺も、昨日までは墓参りに訪れる人があとを絶たなかった。
檀家さんはみな、住職・宝晶の不在を知っているので、その全員の相手をする訳ではないのだが、それでも、顔を合わせれば縁側や本堂の隅でお茶を出しては世間話。
馴染みの深い顔には、断り切れずに彷徨がお経を読むこともあった。
「か、彼女!? や、えと、あの、彷徨くんの従兄妹ですっ」
「うち、最近駆け込み寺みたいになってて…」
「わたくし、ここにお世話になっている親戚の者ですぅ〜」
未夢、彷徨、ワンニャーが、ここ数日で何度口にしたかわからないセリフ。
加えて、ルゥが何かしてはいけないと、気を張る。
西遠寺で初めてのお盆を迎える未夢とワンニャーは疲れ果てていた。毎年これをこなしてきた彷徨も、今年は辛い。
宝晶が居ないことはこれまでも間々あったけど、今回は自分一人ではない。ルゥやワンニャーのことがバレないかと、毎日ヒヤヒヤしていた。
「ルゥちゃまはいろんな人に会えてゴキゲンなんですが…、やはりたくさんの方と話すのは疲れますねぇ〜」
「お疲れさん。 今年はおまえらがいたからなー」
「ルゥちゃまが飛ぶんじゃないかと思うと気が気じゃありませんでした〜」
お菓子をつまみながら、ワンニャーは溶けるようにテーブルに突っ伏した。
「ワンニャーも一緒に昼寝すれば? 今日の夕飯は俺がつくるから」
「で、ですが彷徨さんだって、疲れてらっしゃるんじゃ…! 彷徨さんこそ、一緒にお昼寝…」
「バカ、出来るか! …お経読むことはないけど、俺には毎年のことだし。 夕飯ぐらい別に…」
「で、ではお願いしますぅ〜! これ食べたらわたくしもお昼寝に〜」
目をキラキラさせたワンニャーが両手にお菓子を抱えて頬張る。彷徨はまだ手をつけていないのに、一箱空けそうな勢い。
「……ワンニャー。 太るぞ」
本を読みながら、一言。その忠告に、ワンニャーの手が止まった。
「…ぅぐ! んん〜〜〜〜〜〜〜!!」
「ったく、何やってんだよ。 ほら、お茶!」
ワンニャーの後ろに回ってその白い背中をさする。ワンニャーの顔は真っ赤になって、青くなって。なんとかお茶で流し込む。
「あぁ〜〜〜し、死ぬかと思いましたぁ〜」
「そんなに詰め込むからだろ…」
「わぁにゃーっ! ぱんぱっ!」
「ルゥ、起きたのか」
「ぱんぱっ! まんま、まんまっ!!」
居間に飛び込んできたルゥが、彷徨の指をしっかりと握って来た方を指す。
「未夢さんはまだお昼寝ですか〜? 疲れてらっしゃるんですよ、ねんねさせてあげてくださいね〜」
「まんま! あっ、ちー、ねーんねっ! ぱんぱ! わーぁにゃっ!」
「…わかるか? ワンニャー」
「……さ、さぁ…」
ルゥは懸命に何かを伝えようとするけれど、彷徨とワンニャーには何が言いたいのかわからない。
力いっぱい握った指を引っぱって、連れて行こうとしているのは、指差す先、ルゥの部屋だろうか。
「わにゃ、ぱんぱっ!」
「彷徨さん…」
あまりに真剣な様子に、彷徨とワンニャーに不安がよぎる。
「わかった、行こう。 未夢になんかあったのか?」
「あーぁっ、まんまぁっ!」
「未夢さぁん…? あれ、さっきと何も変わらないですが…」
ルゥが目覚めても起きなかった未夢は、やはり今も目を覚まさない。
「まんま、あっ、あっち、っちー」
彷徨に抱かれて、握りしめたままだった指を自分の額に当ててみせる。ようやく二人ともピンときた。
「未夢が、熱いのか?」
タオルケットにくるまって、身を縮めるようにして眠っている未夢。いくら風が通るといっても、気温も高く、風もまだ熱風に近い時間。
そばに屈みこんで、そっと未夢の額に手を当ててみた。
「熱い…な」
「さすがルゥちゃま、偉いですよぉ〜」
「う? あいっ!」
さっき触れたルゥの、子供の体温より熱い。
(…ルゥが熱いってゆーんだから、当然か…)
「未夢、起きろ」
「……う、ん…?」
タオルケットごしに肩を揺らしたら、いつもより熱を帯びた未夢の声。
「布団敷いてやるから、部屋行って寝ろ」
「……ふぇ…?」
「おまえ、熱あるぞ」
「ねつ…?」
「寒いのか? どっか痛いとか、ないか?」
寝起きだからか熱のせいか、未夢はぼんやりと首を振った。
「まんまぁ…?」
「ルゥちゃまが教えてくれたんですよぉ〜」
「そうなの…? ありがと、ルゥくん」
ずっと不安そうに眉を下げていたルゥが、未夢に撫でられてほっとしたように笑った。
「わたし、風邪……?」
「お盆中ずっと気ィ張ってて疲れたんじゃねーの? この時期だけは人多いから、俺も子供の頃は盆明けによく熱出したしなー」
「…子供じゃないもん……」
布団に横になりながら、恨めしそうに唇を尖らせて、彷徨を見上げる。
「別にそんな意味じゃねーって。 今年はルゥたちのこともあるし、俺だって疲れたよ。
だから、初めてここで過ごしたおまえは、もっと…だろ? 気疲れしたんだって」
「お寺でのお盆がこんなに大変だとは思いませんでしたよぉ〜。 わたくしもくたびれましたぁ〜」
(あぁ、そっかぁ…)
「まんまぁ、ねんね?」
ルゥが自分も、と未夢のそばに潜りこもうとしたけれど、後ろから掴まれた。
「ルゥちゃま、うつっちゃいけませんからねぇ〜ワンニャーと向こうで遊びましょうね〜」
「あっ、やぁっ! まんまぁ〜〜」
「ごめんね、ルゥくん…」
ワンニャーに抱えられて暴れるルゥがなんだかかわいそうで、申し訳なく、思う。
―――ピピッ ピピッ
ふいに静かな部屋に響いた体温計の電子音。
その表示を確かめると嫌でも体調不良を自覚させられるから、手を出す彷徨にそのまま預けた。
「大したことないし、ちゃんと食ってゆっくり寝れば明日には治ってるだろ」
37.5℃。
微熱と言うには高めだけど、高熱って程でもないし。
本人は知る気がないようだから、自分が把握していればいいかと、彷徨もその数字には触れない。
改めて、その額を手のひらで覆う。
「あ―――気持ちいいー……」
「おまえが熱いんだって」
心地よさそうに目を閉じた未夢に、苦笑する彷徨。
「かなたが、体温ひくいんだよぉ〜…。 ねぇ、しばらくこのまま――……」
「しょーがねーなぁ…。 寝るまでだけなー」
「はぁ――い……」
(ひんやりつめたくて、でもあったかくて…。 ねちゃうの、もったいない、なぁ……)
名残惜しく思いながらも、ふわふわと心地よく揺れる未夢の意識は眠りへと引き寄せられた。
ちょっとご無沙汰でした!杏です。
このお話、もうちょっと早くに書き上げる予定だったのですが、私もちょこっと疲れでダウンしておりまして(^^;;
安静になんて言われましても、2日も休めばもう休めないのが日本人です!(笑)
明日は仕事します。
安静って退屈なんですヨぉ〜!
パソコンの前に座ってるのを安静と言うかどうかはさておき…w
てな訳で、お盆は過ぎましたけど、お盆ネタでした。
もうひとつ考えてるのは、長くなりそうなので来年に取っとこうかな〜。。
次は3日後に上げます。ネタは…あれですよ。
これはすでに書き上げてて、時を待つだけのものです。
このネタにピンときた方はぜひご一報ください(^^*
…って何も出来ませんが。。
ご覧いただきましてありがとうございましたぁ〜!