第四中学校 2学年御一行様 〜口碑〜

作:



ここは京都のとある旅館。
教師と数人の女子生徒が就寝前の点呼におわれていた。

「1組女子、全員揃いましたぁ〜」
「はーい! 1組オッケー…っと。 お疲れさま〜未夢ちゃん!」

教師の隣で確認をとっていた小柄な少女が振り返った。
2組の委員長、広瀬果那。いつもポニーテールの黒髪が今はおろされていて、ふわりと肩にかかる。


「お疲れさま、果那ちゃん。 学年リーダーも大変だね〜」
「あはは。 あたしはほら、元々委員長だし、慣れっこだよぉ。
 未夢ちゃんこそ、修学旅行で慣れないクラスリーダーなんて大変じゃない?」
「ん〜周りの友達が助けてくれてるから、なんとか…。 ホント、なんでわたしなんだろう〜〜〜」
うなだれる未夢に、クスクスと果那が笑う。
「未夢ちゃんがいなかったら1組は、リーダー争奪戦だもんねぇ〜」



2週間前―――

「さ、今日のホームルームは修学旅行の行動班を決めまーす!」
2年1組で担任・水野の声が響いた。途端に教室がざわつく。

「あ、その前に女子のリーダーを決めなきゃねー。 誰か立候補いるー?」
「はい! はい! はーい!」
「私がやりまーす!」
あちこちから一斉に手が上がる。女子の大半、十数人が立候補するらしい。
「そうよねーそうなるわよねー」
うんうん、と頷きながら水野が一人納得している。

リーダーとは言うものの、基本はただの点呼係。宿泊先などで、男女別の集合のときに女子の人数を確認して、学年リーダーに報告するのが主な仕事。
誰もやりたがらない、ただ面倒なだけの役回りである。
ただし1組には、1組特有の特典(?)があった。

男女のリーダーは同じ班になることが決まっている。そして通常のクラス点呼を行う委員長は、リーダーを兼任する。
ということは…

「だって女子リーダーは委員長の補佐! そして西遠寺くんと同じ班になれるんですもの!」
クリスが瞳をキラキラさせて立ち上がった。


こうして始まった激しい争奪戦(ジャンケン)はなかなか決着がつかず、見かねた水野がある提案をした。
「そうだ! 光月さんにお願いするのがいいんじゃない?」
「………はい?」
ひたすらあいこを繰り返す女子の集団をぼんやり眺めていた未夢は、突然の指名に目を瞬いて素っ頓狂な声をあげる。
ジャンケン中のクリスたちも、拳を振りかざしたまま水野に注目した。

「だってどうせあなたたち、誰が勝っても不満なんでしょう?
 だったらここは従兄妹同士の光月さんにお願いして、みんなフェアにいきましょうよ。 光月さんも、いいわよねー?」
ニッコリと教壇で微笑む水野。数秒遅れて状況を掴んだ未夢は、対照的にひきつった笑顔を向ける。
「そんなぁ〜」
「せっかく立候補したのに、先生の推薦で決めてしまうなんてあんまりですわっ」
立候補集団から鋭く刺さる視線に、思わずたじろいだ。
「………あ、あの…」

「…いーんじゃねーの?」
未夢が返答に困っていると、水野の隣でなりゆきを見ていた彷徨が口を挟んだ。
「別に俺は補佐いらねーし、点呼ぐらいおまえでもできるだろ。
 あと10分でホームルーム終わるし、早く班決めたいんだけど」
「そうよねぇ。 先生もこの時間中に班決めて貰わないと困るのよねぇ…。 決まらなかったら先生がテキトーに…」
クラス中の注目、その中に請けろ、請けるな、相反する視線が入り混じっている。
「うっ…わ、わかりましたっ! やればいいんでしょ、やればっ!」




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「ほらほら、点呼が済んだら部屋に戻って、寝る準備しなさーい。 あとで見回りに行くからね〜」
「あっ、はーい。 じゃあお先に、果那ちゃん。 おやすみ〜」
「うん、おやすみ〜」
水野に注意されてそそくさと部屋に戻る未夢に、果那が小さく手を振って見送った。


「ただいま〜」
「おっかえりー未夢」
「未夢ちゃん、お疲れさま〜」
部屋に戻るなり、敷いてある布団に倒れ込む。

「あ〜〜〜もう、こんなの引き受けるんじゃなかったよぅ〜〜〜」
「まぁまぁ、明後日までの辛抱だから、頑張れー」
「他のクラスは委員長の補佐もやってるんだから、未夢ちゃんは楽なほうだよぉ〜?」
「そうだけど…。 でも、もとはと言えば! 彷徨があそこで余計なこと言わなかったら、わたし断ったのに」
「いやー無理じゃない? 水野先生は押し切るつもりだったもん」
「だね〜。 西遠寺くんだって、未夢ちゃんに負担かけないように、補佐はいらないって言ってくれたんじゃない? 西遠寺くんに感謝だよ〜」
「え〜あれはホントに自分一人の方がいいんじゃない? 居てもかえって邪魔だと思ってるんでしょ〜」
「そんなことないよ。 大変そうだよ〜委員長。 西遠寺くんも他のクラスの委員長も、みんなバタバタしっぱなしだもん」
「みんな伝説のジンクスにあやかろうと燃えてるからねー。
 班行動から抜け出して迷子になったり、消灯時間過ぎてから旅館の非常階段に呼び出したり、毎年必ずあるんだって」
「去年は呼び出した旅館の裏庭で先生に見つかって、一夜のうちに学年中の噂になったカップルがいたって聞いたよ〜」
「へぇ〜〜〜。 …ね、ねぇ綾ちゃん、ななみちゃん?」
「ん??」
「なぁに〜?」
がばっと上半身を起こして、二人の顔を交互に見やる。
「伝説のジンクスって何?」


「そっか、未夢は知らないよねぇ」
ななみが思いついたように人差し指をたてた。
「四中の伝説でね、修学旅行中に告白して付き合ったカップルには永遠の幸せが訪れるんだって!
 ベタな設定だけど、ラブロマンスにはかかせないよねっ!」
「設定じゃないって…。 ってまぁ、確かにベタベタなジンクスなんだけどねー。
 あ、でも実際に結婚した人がいるから出来たジンクスらしいよ」
瞳を爛々と輝かせる綾に、ななみが苦笑して肩をすくめる。
「ふぅ〜ん…」
「今日の市内散策は班行動だったから、そんな人には遭遇しなかったけど、
 その分、有名な縁結びの神社とかお寺とか行った班がたくさんあるみたいだよ〜」

ななみが照明のスイッチに手をかけると、綾と未夢がもぞもぞと布団にもぐりこんだ。
「あのクリスちゃんでさえ、うちの班追いかけずにお守り買いに行ったみたいだし。 消すよー」
「うんっ」
「あっ、待って〜」
時計の針が22時を過ぎ、三人の部屋の灯りが消されると、障子越しに月の光がぼんやりと室内を照らした。


「明日の清水寺の自由時間とか、告白ラッシュに見舞われそうだね。 西遠寺くん」
遅れて布団に入ったななみが未夢の方に枕を寄せた。片肘をついた手のひらに頬を乗せる。
「え〜〜うちにお土産買わなきゃいけないのに…。 わたし勝手に選んじゃおっかな」
「うちの班、予定通りに見て回れるかなぁ。 集合に遅れちゃったりして」
綾も枕を抱えて未夢の方に寄る。
「やだやだ、それはシャレにならないよぉ〜。 …今頃も呼び出されたりしてるのかなぁ?」
真ん中で、西遠寺とかわらない旅館の天井を仰いでいた未夢が、身を反してうつ伏せになった。
「さすがに消灯時間過ぎては行かないんじゃない? 委員長だし」
「呼び出す方も、委員長にそれはしないよね〜。 それだけで印象悪くなっちゃうもん」
「そっかぁ〜みんな考えてるんだね〜…」

(そういえばこのリーダーだって、みんな好きな人と一緒に居るために立候補してたんだもんね…
 恋する女の子のパワーはすごいですなぁ〜)
しきりに感心する未夢には、ジンクスも恋も、どこか他人ごとのようだった。そんな未夢をななみと綾がじっと覗きこむ。

「どーしたの? ふたりとも」
「未夢はどーなの? 告白」
「そうそう、せっかくジンクスも知ったことだし。 しないの?」
ふたりの問いに未夢はきょとんとしている。
「こくはく? わたしが?」
両サイドで力強く二人が頷く。
「誰に?」
「「西遠寺くん」」
「だっっ! 誰があんなヤツ―――!!!」
思わず声を荒げた未夢の口に、左右からななみと綾の手がのびたが。
「こらっ! 早く寝なさい!」
すぐに戸が開き、見回りの先生に一喝された。
「「「はぁ〜い」」」


シ――――――
布団を頭までかぶって、顔を見合わせる。
「あーあ、怒られちゃった」
「そろそろ寝よっか、明日も早いもんね〜」
「うん、また明日ね〜」



はじめまして、杏と申します。
読んでいただけて光栄です(*^^*)
読みにくかったらごめんなさい。。

どちらかとゆーと原作派の杏ですが、ななみちゃんと綾ちゃんが好きです。
未夢を含めた三人娘も好き。
でもやっぱり彷徨くんが好き。

いろいろ自分で書きためてはいるのですが、うまく完結させるのって難しいですね(><)
目指せ、完結!(目標低ッ!)

次回もご覧いただけるとありがたいです。
よろしくお願いします♪


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