作:どらむかん
前回作『雨のち雨』の続き物です。
一つ傘の下。隣を歩く少女に目をやりながらため息をつく。
彷徨はまだ先ほどのことにいら立っていた。
なんでこいつはいつもこうなんだ!今回は三太だったからいいものを…無防備すぎるだろ。
本人は自覚していないが、未夢は学校でもひときわ目立つ存在であった。
きれいな金の糸のような滑らかな髪。新緑の瞳。そしてなんといってもその笑顔は誰しも虜にする。
お嬢様のクリスも学校では気品があり上品な美少女として有名だが、並んで清楚で可憐な可愛らしい少女として未夢の名前も挙げられている。
そんな未夢が日常的に男性に声をかけられることも珍しくなく毎回彷徨は駆除に追われている。
そんなことも知らずに、傘を受け取るとき重なった手と手。
あの光景がいつまでも頭の中で再生されていた。
雨が強くなる。
「未夢。」
「え?何?」
「いや…なんでもない。」
「そ?あ、そういえば三太君大丈夫なの?一緒に帰る約束してたみたいだし…もし、私邪魔だったらこのまま走って帰るけど…。」
彷徨の顔がまた厳しくなる。
「別に約束なんてしてない。ていうかお前このまま走って帰るってここからだと10分はかかるだろうが!馬鹿でも風邪はひくんだからおとなしく傘の中に入ってろ!」
「なによ!そんな怒鳴ることないじゃない!」
「怒るに決まってるだろ!体調崩したりしたら俺が看病するんだからな!」
「だって!さっきから眉間にしわ寄せて黙って怒ってるんだもん!」
「それは!」
「なによ!?」
三太に嫉妬してる…なんて未夢には言えない。
「…言わない。」
「最近、彷徨おかしいよ!私に何か言おうとすればすぐ黙って…。聞くとなんでもないっていうし、私そんなに信用されてないんだ。」
「違う。そういうわけじゃない!」
ただ、言葉にしてしまえば未夢に対する独占欲があふれ出しそうで…
「じゃあ、何よ!」
未夢は涙目になりながらも彷徨の目を離なさない。
彷徨は溢れ出していく独占欲を必死に拾い上げるがその新緑の瞳によってそれはかなわなくなっていった。
あぁ、もうだめだ。
彷徨は傘を投げ捨て、ビックリしている未夢の肩を道路わきに植わっていた木に押し付けた。
雨は一層ひどくなり、二人ともびしょびしょである。
「彷徨??」
「俺が」
「え?」
「俺がどれだけお前のことが大事でどれだけお前のことを思っているか、お前は考えたことあるのか?」
「お前に群がる害虫を駆除するのに毎日目を光らしてお前を見て、それなのにお前は俺の苦労も知らず皆に笑顔ふりまいて男どもを誘惑して。」
「ゆ!誘惑って!?」
「お前がいつ俺のそばからいなくなるのかって思うと余裕も何もないんだよ。」
三太の手に触れたあの細い手がいつ俺のそばから離れていくかって考えるだけでも俺はお前を家に閉じ込めておきたくなるんだ。
「彷徨…。」
「俺が言ってる意味わかるか?」
「へ?えっと、家族としてすごく大事にされてたんだって。すごくうれしいかった…。」
ガクッ
「お前…今の話聞いてた?」
「な、なんでそんな落ち込んでるのよ〜!」
「俺はお前が好きだ。」
「え?」
「ずっとそばにいろ。」
彷徨の目は未夢の目をとらえ離さない。
「うそ…」
「ほんと」
「信じられない…」
未夢は顔を赤らめ涙ぐんでいる目をこすった。
「お前は俺のことをどう思っているんだ?」
「え?」
「お前は俺をただの『家族』かそれとも『好きな人』なのか。」
「そ、それは」
彷徨は未夢の肩をつかんでいた手の力を緩め離した。
「すまん。こんな話して…忘れてくれ。」
そういうなり捨てた傘を拾おうと未夢のそばから離れた。
未夢には彷徨がうっすら涙を浮かべているかのように見えた。
「彷徨!そうじゃなくて…。」
言わなくちゃ…。
「いいよ未夢。無理に答えなくて。」
「彷徨こそ…私の気持ち知らないで勝手に決めつけて。」
「は?」
傘を拾いに行った彷徨は足を止め未夢のほうを見た。
下を向いて一切顔を見せない未夢は雨でわからないが泣いている気がした。
「私がどれだけ思っているなんて考えたことないでしょ。」
「お、おい未夢。」
「私だって私だって、いつ彷徨が私のそばからいなくなって『家族』でもいられなくなったりしたらって考えると怖くて怖くて…。」
「未夢…。」
「私にとって彷徨は一番大事で嫌われたくない人なの…」
「彷徨のことが好き。好きなの…。」
未夢は泣いてる顔をあげ必死に彷徨にだけに思いを伝える。
彷徨は未夢を抱きしめた。
体が冷たく、震えているのがわかる。
未夢の体を温めるかのように抱きしめている腕に力を入れる。
「本当か?」
「本当よ。」
「俺はお前を異性として好きだ。お前もそういう意味でいいのか。」
「なによ。信じられないの?」
「そりゃ、家族として好きとか思ってるんじゃないかって心配になるだろ。」
「どういう意味よ!」
「好きだ。ずっとそばにいろ。」
「彷徨こそ。離さないでね」
二人は顔を真っ赤にして見つめ合った。
振っていた雨もいつの間にか止んでいる。
「帰るか。」
「そうだね、帰ろう!二人ともびしょびしょだし。」
「だな。」
二人は仲良く手をつなぎ雨が止んだ道を歩いて行った。
へたれな彷徨君になってしまってすみません(・_・;)
当初はこういう感じじゃなかったんです。
もっと男前な彷徨君だったんです。