作:さくら
暑かった8月が終わり、夏の終わりをひぐらしが告げようとしている。
日中はまだ暑いが、夕方になると涼しい風が吹くようになってきた。
そんな残暑のある日、彷徨は居間で本を読んでいた。
汗が流れているが、読書に集中しているため気にならない。
聞えるのはミーンミーンと鳴くセミの鳴き声とカサリと本をめくる音のみ。
去年の夏からは想像もできないぐらい静かだった。
去年の夏、毎日はしゃいで騒いでいた2人と1匹はもういない。様々な事情を抱え西遠寺に居候していた彼女らだったが、4か月ほど前に両親のもとへ帰っていった。
修行を終え帰ってきているはずの宝晶は、檀家さんとの旅行に出かけていて2日は帰ってきていない。
こうして彷徨は、1人静かな夏を過ごすことになったのだ。
「ふぅ…」
小説がひと段落ついたところで汗をぬぐう。
少し休憩しようかな。
そう思った時だった。
「こんにちは〜」
外から元気な声が聞こえる。
「あの声は…」
彷徨は本を閉じると声のする方へ向かった。
縁側の前に1人の少女が立っていた。彷徨はしゃがんで目線を合わせ、微笑んで言った。
「こんにちは、ももかちゃん」
「おにいたんひさしぶりね」
「そうだね。ちょっと待ってて。今麦茶持ってくるから」
「うん!」
ルゥとワンニャーがオット星に帰ってからも、ももかは頻繁に西遠寺に遊びに来ていた。なぜわざわざあの長い石段を上って西遠寺にくるのか、最初彷徨にはわからなかった。
ある日、ももかは彷徨にこう言った。
「ここにくるとルゥにあえるきがするの」
それがももかが西遠寺に来る理由だった。
「はい、どうぞ」
氷を入れた冷たい麦茶をももかに差し出す。そして縁側に腰掛けてたももかの隣に座る。
「ありがとう」
ももかは麦茶を飲んだ。冷えた麦茶が喉を気持ちよく通る。
しばらく二人は何も話さず麦茶を飲んでいた。
ふと、思い出したようにももかが話しだした。
「おにいたん、あたちたちってどうちね」
「え?」
「えんきょりれんあいどうちよ」
「遠距離…恋愛…」
「そうよ」
ももかは少し寂しそうに笑った。
「ももかちゃんはそうだけど、俺は少し違うかな」
「そうなの?」
「あぁ。俺は…両思いじゃないから…」
彷徨は空を見上げた。蘇る、あの日。
あの日、未夢が帰る日、彷徨は言えなかった。
「好きだ」の一言なのに。
言おうとずっと思っていたのに。
(ホント、バカだよな…)
彷徨は自嘲気味に笑った。
「でも、おにいたんはおばたんのことすきなんでしょ?」
「あぁ」
そう答えた彷徨の表情はさっきとは全く違って、とても優しかった。
「いわないの?すきだって」
彷徨はももかを見た。寂しそうなももかの表情、目で彷徨に何か訴えていた。
はっと彷徨は気づいた。
そうだ、ももかは言えないんだ。
どんなに愛していても、ルゥに直接その言葉を言うことはできない。
そもそもこの先会えるのかもわからない。会っても赤ん坊だったルゥが覚えているのかもわからない。
4歳の女の子にはあまりにも辛すぎる現実。
なのに自分は…自分はいつでも会えるのに、いつでも言えるのに言おうとしない。
先に進もうとしない。
情けない…
彷徨はますます自己嫌悪におちいっていくのを感じた。
「いわないの?」
ももかはもう一度聞いた。そしてじっと彷徨の答えを待つ。
彷徨はしばらくももかを見つめた。そしてある決心をし、ゆっくり前を向いて、言った。
「言うよ。今度会ったら。絶対。絶対に」
彷徨の目は力強かった。もう、迷いはない。
言おう。あの時言えなかった言葉を。
先に進もう。
今までの思いを全て詰め込んで。
ももかのルゥへの思いの分も詰め込んで。
「おばたん、よろこぶわよ」
ももかは笑顔で言った。そこには先ほどの寂しさは感じられなかった。
「そう・・かな」
「しょうよ。ぜったい」
『だって、おばたんもかなたおにいたんがすきだもん。』
ももかはその言葉を心の中で呟いた。
周りの人は皆未夢と彷徨の互いへの気持ちに気づいている。気づいてないのは本人たちだけ。
そのことを伝えるのは簡単だけど、伝えてはいけない。自分達の口で言わないと…。
「そう…か」
ももかは不思議な女の子だ。彷徨は改めてそう思った。
まだ4歳なのに、何もかもお見通しなその瞳。他の人が言うと信じられないことも、この子が言うと信じられる気がする。
信じてみよう、ももかの言葉を。未夢が、彷徨の言葉にこたえてくれることを。
コップの中の氷がカランと音をたてた。
そして二人は空を見上げた。
彼女に何て言おうか。
「好き」の一言では言い表せないくらい、彼女の存在は大きくなっていた。
自分のこの気持ちに彼女はなんて言うだろうか。
自分が求めていた未来は待っているのだろうか…。
彷徨とももかは空の向こうにいる彼女(彼)へ、心の中で呟いた。
「愛してる」
え、えと、えとですね…、思いついた時に書かないとダメですね(・∀・;)最初に思いついたのといろいろ変わってる気がします(汗)
そして文章力のない自分が悲しい><文章力とボキャブラリーがほしいです。
彷徨とももかの組み合わせって結構珍しい?新鮮で結構好きかもw