作:さくら
放課後。
続々と帰っていく生徒たち。その様子を教室の窓から見ながらお菓子を広げる。
「…それでさ〜その公園に行ったのよ。そしたら〜」
「「「そしたら?」」」
「告られちゃったの!」
「「「きゃー!」」」
今行われているのはいわゆるガールズトーク。もはや放課後の恒例行事となっていた。
ルゥとワンニャーがオット星に帰ってから、未夢が平尾町から離れて3ヵ月。未夢はすっかり前の町での生活の感覚を取り戻していた。
平尾町にいた時とはまったく違う学校生活。今まで男子生徒がいるのが当たり前だったが、女子中にはいるわけがない。最初はそんなことに違和感を感じていたが、今ではこっちが当たり前のような気もする。
女子中だから出会いはないだろうと思っていたが実際は違っていた。ないどころか多い気がする。近くの男子中学校との多少の交流があるというのもあるが、女子中に通っているからという理由だけでいろいろなところに紹介されたりするのが大きかった。共学ではないような出会いも女子中では当たり前のようにあった。
「…ねぇ、未夢ちゃんは何かないの?」
「何かって?」
「恋愛よれ・ん・あ・い!」
急に話を振られて未夢は焦った。ないわけではない。だが話すようなことではないと思った。
「そ、そんなのないよぉ」
「「えぇ〜」」
「ごめんね」
「残念だなぁ〜」
未夢は「ふぅ」と小さくため息をついた。これでもう話を振られることはないだろう。
そう思ったその時、
「あれ?未夢ちゃんって確か彼氏いるよね?」
「えっ…」
未夢は固まった。まさかそんなことを聞かれるとは思わなかった。
「うそっ」
「ホントに?」
「どんな人?」
「「「教えて〜」」」
「えっとぉ…」
未夢には確かに彼氏がいた。顔もよし、頭もよし、運動神経もよし、そして何もかも器用にこなしてしまう完璧な彼氏が。
そんな彼氏、西遠寺彷徨と恋人同士になったのは3ヵ月前、未夢が平尾町を出る前日のことだった。
あれから未夢と彷徨は一度も会っていない。電話はしょっちゅうするけどなかなか予定が合わず会うことができていなかった。夏休みもお互い受験勉強であまり会えないだろう。
本当は今すぐ彷徨に会いたい、顔を見たい、そして抱きつきたい。離れてる時間が長くなるにつれ、どんどん彷徨への気持ちが強くなっていた。
「そ、そんなたいした人じゃないよっ」
「そうなの?」
「うん」
「そうなんだぁ〜。残念だな」
「え?」
「だって未夢ちゃんかわいいから彼氏もかっこいいのかな〜って思ってた」
「そ、そんなかわいいなんて///」
かっこいいよりもかわいいに反応する未夢。そんな未夢の様子が可愛くて友人たちも笑顔になる。
「ねぇ、写真とかないの?」
「え?」
「写真だよ写真!あるでしょ?」
「なっ、ないよ!そんなのっ」
「「「えぇ〜〜」」」
「残念!写真あったら見せてもらおうと思ったのに〜」
「ごめんね」
未夢は思わずホッとした。持っていたら…大変なことになっていたかもしれない。
その時、
ガラガラッ
「大変大変!みんな聞いて!」
先に帰ったはずの友人の1人が教室に駆け込んできた。
「何?」
「どうしたの?」
「今っ…校門に超かっこいい人がいるってっ、すごい騒ぎなのよ!」
彼女はそう息を切らしながら説明すると床に座り込んだ。
「ホントに!?」
「ちょっと、ベランダからだったら見えるかもよ!」
「行ってみよ!」
急いでベランダに駆け寄る。
校門のところに人だかりができていた。
「うっわ〜すごい人だね」
「うん、でも…ここからじゃ見えないね」
「…うん…」
ベランダからだと死角になっているので噂のイケメンは見えなかった。
「どうする?」
「こうなったら近くまで行ってみようよ!」
「そうだね!」
急いで帰る支度をする友人たち。未夢をその様子をポカーンと見ていた。
「どうしたの?未夢ちゃん。いこ!」
「えっ、あ、うん」
なんとかしてついて行こうと未夢も慌てて支度をする。あたふたしているうちに友人たちは次々と教室から出て行く。
「ちょっと待ってよぉ〜」
未夢も急いで教室を出て行った。
外に出てみるとその騒ぎの大きさがよくわかった。騒ぎの原因がわからない生徒たちもなんだなんだと集まっていた。
「うわぁ…」
「これはすごい」
未夢たちはその様子に思わず唖然とした。しかし、これだけすごいということはそれだけかっこいいということで…最初は乗り気ではなかった未夢もだんだんそのイケメン男子が気になってきた。
「うーん、見えないなぁ〜」
ピョンピョン飛び跳ねてみても見える気配はない。
「今日は諦めようか…」
「そうだね…」
「あーあ、ちょっとでもいいから見たかった」
そう肩をガックリ落としながら前を通り過ぎる。未夢は少し名残惜しそうに集団を見た。
その時だった。
「ちょっと、あの、困ります!」
「えっ…?」
少し低くて耳に残る優しい声。どこかで聞き覚えが…
「未夢ちゃん?どうしたの?」
友人の声は未夢には入ってなかった。声のした方をじっと見つめていた。
すると一瞬だけ、人ごみのわずかな隙間からそのイケメンの顔がチラッと見えた。
茶髪にダークブラウンの瞳、整ったきれいな顔。それは…
「彷徨!?」
未夢の声は思ったより響いた。野次馬たちが振りかえり未夢を見る。未夢と彷徨の間に道が開け、二人は向き合う形になった。
何で彷徨がここに…
未夢は固まった。いるはずのない人物がそこにいる。しかもその人は未夢がずっと会いたいと思っていた人。
夢なのではないかと思った。
「おっせーよ」
ちょっと不機嫌そうに彷徨が言う。
「なんで…ここに?」
「なんでって…」
彷徨は未夢の方に歩み寄り、その頭にポンと手を乗せた。
頭から全身に彷徨のぬくもりが伝わった。
本物なんだ…
その嬉しさに未夢の目が潤む。
「今日うちに泊まりに来るんだろ?」
「うん…」
未夢は何も考えずにそう答えた。けれど、彷徨の言葉に何か違和感を感じ頭の中で何回かリピートをする。
今日うちに泊まりに来るんだろ?
うちに泊まりに来るんだろ?
うちに…
西遠寺に…
……えっ!?
「えっ!?どういうこと?」
「何言ってんだよ。ほら、行くぞ!」
未夢の手を引っ張っていく。未夢は一体何が起きてるのかまだわからなかった。特に抵抗もせずされるがままその場を離れていく。
その様子を野次馬たちはを茫然と見ていた。
「ねぇ、あの人ってもしかして未夢ちゃんの彼氏…だよね?」
「そうだよね…」
「あの人が…」
友人たちは顔を見合わせた。目で会話をする。
そして、
「これは来週聞かなくちゃね!」
「今度は逃がさないぞ〜」
「うんうんうんうん!」
そして友人たちはニヤッと笑い未夢と彷徨が去っていった方向を見つめた。
「ねぇ彷徨、彷徨ってば!」
未だに無言のまま未夢の手をひっぱる彷徨に呼び掛ける。しかし返事はない。
「ねぇ〜。どうしたの?」
ようやく彷徨は立ち止まり、振り返った。
「あのなぁ〜。せっかく人が迎えに来てやったのに何だよ」
「何だよってこっちのセリフよ!大体泊まりに行くって何のこと?」
やっと口に出せたその疑問に今度は彷徨が固まる。
「え?」
「だから〜私が西遠寺に泊まりに行くってどういうこと?」
「まさかお前、聞いてなかったのか?」
「う、うん…」
信じられないという顔で彷徨は未夢を見つめた。
そして
「はぁ〜〜〜」
と大きなため息をする。
「お前の両親ってホント自分勝手だよな」
そう苦笑しながら言う。
「え?」
「明日から3連休だからうちに泊まりに来るって昨日おばさんから電話があったんだよ」
「そうなの?」
「あぁ。俺はお前が来たいって言ってたって聞いたんだけど…」
「ええっ!私そんなの言った記憶ない…」
その言葉を聞いて彷徨はしゅんとする。少し不安な顔をして未夢に聞く。
「来たくなかったか?」
未夢は彷徨の顔を見てはっとする。
やばっ。今の言い方じゃ会いたくないみたいじゃない…
未夢は首を横に振った。
「ううん、行きたいよ。ずっと彷徨に会いたかった」
「そうか。よかった」
「あ、でも私荷物持ってない」
そう。何も知らないまま学校から連れてこられたのだ。気がつくと駅はもうすぐ。今から家に引き返すのは正直面倒くさい。
「大丈夫」
ホラ、と彷徨は持っていたボストンバッグを未夢に見せる。
「さっき家に行って荷物貰って来たんだ」
「そうだったんだ…」
「しかし大変だったな〜。帰ってくるのが遅いから学校まで迎えに行ったらあれだからな」
「あはは」
先ほどの騒ぎを思い出して未夢も思わず苦笑する。
「すごかったよね」
「あぁ。慣れてると言えば慣れてるけど、あそこまではあまりないからな。さすが女子中!って感じだよ」
「まぁ普段男子に飢えてるからね…」
「でも…」
彷徨は未夢を見つめた。そして笑顔を見せた。
「気づいてくれて嬉しかったよ」
優しく笑う彷徨に未夢はドキッとした。顔が赤くなるのが自分でもわかった。恥ずかしくて見られたくないと、うつむいて、言った。
「当たり前だよ。だって、彷徨だもん///」
未夢の言葉を聞いて彷徨の顔も赤くなる。それを隠そうと横を向きながら未夢の手を再びひっぱる。
「い、行くぞ///」
「あ、うんっ」
そして二人は向かった。
思い出の場所、西遠寺へ。
思ってることを言葉にするのって難しいなと思いました。自分のボキャブラリーのなさに悲しくなります。まぁ、それはずっと前からそうなのですが(苦笑)名前のない友人たちも何気に難しかったですね。
予定ではもっと短かったんですけどねぇ。どんどん長くなっていってこの長さに。
もうちょっとコンパクトにきれいにかけたらいいなぁと思います。