赤信号

作:夢羽



赤信号



「まってっ」

わたしは彷徨の背中に言う。
制服が、風を受けてぱたぱたと音を立てる。
髪も風にのった。
「なんだよっ」
彷徨は石段の途中でふりかえった。
茶色い瞳がわたしのほうに向いた。
ちょっと不機嫌そうな、顔。
心の中で、ごめんと謝る。
わたしは、靴を足に引っ掛けた。
「いってきますっ!」
後ろを見ずに、おっきな声で言う。
「行ってらっしゃい、未夢さん、彷徨さん!」
ワンニャーが手を振った、ような気がした。

はあはあと、息を整えながらわたしは立ち止まった。
目の前には彷徨の背中。
「ごめん、彷徨っ」
なんとなく、不機嫌そうな気がした彷徨。
わたしが言っても、答えは無い。
せっかく謝ってるのに、とため息。
「ねぇ、彷徨ってば」
「…」
無言。
わたしは声を少し荒げる。
「彷徨!」
「……」
「かーなーたーっ」
「………」
「彷徨ーっ!!!」
「…………」
繰り返して、呼ぶ。
反応、無い。
ここまで反応がないとわたしだって、むかつく。
わたしはあきらめる、ことにする。
ふん、とそっぽを向いて、どたどたと歩き出した。

信号。
彷徨なんか、おいてくもんとすたすた歩く。
地面に白い、線が見えた。
一歩、踏み出す。
―――ぐいっ
「わあっ」
突然、制服、引っ張られる。
後ろに、よろめいて。
目の前を、自動車通過。
「―――…」
思考、停止。
わたしは、車見て呆然とする。
「未夢!」
はっと、我に返る。
目の前には、彷徨の、あわてた顔。
わたしは、ぼけっとその顔を眺める。
―――相変わらず、かっこいいなぁ、なんて―って


「えええええええええっ!!!??」
自分の思考にびっくり。
な、なんてことっ、考えて…っ。
「おいっ、未夢!?」
「かかかかか、彷徨ぁっ!?」
ずざっと、後ずさり。
今日の、わたし、変…。
意味も無く、思う。

「おまえ、前見て歩けよ…」
彷徨の、呆れた声。
私はカチンときて、言い返す。
「あ、歩いてるわよっ」
たぶん。
心の中で、付け加え。
何しろ、今日は頭、おかしいもん。
声に出さず、反論。
「じゃ、おまえ赤信号わたるなって」
赤、信号…えっ?
「あ、赤信号っ??」
わ、わた、わたし、渡ってたっ?
あぶなー…い…。
そっか、それで。
引っ張って、くれて。
「あの…彷徨」
「ん?」
こっち、むいた彷徨。
さっき、怒ってたの、嘘みたい。
「ありがと」
ぽそって、つぶやく。
少し、照れくさい。

「ばか」
返ってきたのは、いつもの言葉。
でも、あったかくって。
瞳は、優しくて。
「どーせ、わたしはバカですよーだ」
はぶてると、彷徨は。
屈託なく、笑って。
「あ」
信号は、青。
横断歩道、渡る。
「ち、遅刻だぁっ!」
「げっ」
二人、あわてて走る。
こんな朝も、いいかも。
ふと、思った。


――――…
「ねぇ、彷徨」

「なんだよ」

「さっき、怒ってたのって、何で?」

「あー…あれは…」

「え?」

「…秘密」

怒った理由は、また、別のお話。




赤信号 終



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