作:かなめ ゆき
一応、恋人未満なのです。
顔がいいひとは、何をやってても絵になるなぁ、と思った。
クラスどころか、学校中の女子から騒がれ、もてはやされている彼の端正な顔立ちは、きっとおそらく絶対お母さん似(おじさま、ごめんなさい)。それは決して女顔というわけではないのだけど、作りが繊細で、パーツのひとつひとつがあるべきところにおさまっているという感じ。つり上がった目を縁取るまつ毛は長く、唇の血色もいい。スポーツ万能のくせに、家で本ばかり読んでいるせいか、肌だって男の子の割に白くてきれい。
そして、この寝顔も。
「…うーん、美形ってずるいなぁ…」
居間の畳の上に転がってすぅすぅ寝息を立てる同居人を見下ろし、未夢は感嘆のため息を漏らした。休日で、誰とも遊ぶ約束をしていない日は、彷徨にとって絶好の読書日和なのだが、天気が良いせいで眠くなってしまったらしい。窓から見える快晴と彷徨の寝顔、彼のそばに落ちている本を見比べて、未夢はひとり頷いた。そうしてまた彷徨の顔を見つめて、きゅっと眉根を寄せる。
「私の寝顔より、絶対きれいだよね…」
自分の寝顔など見たことがないが、それは確信を持って言えた。平凡な容姿である自分と、美人な母親にそっくりな彼。比べるまでもなく、彼の方がきれいだ。
「うー、悔しいよー」
悔しい、とても悔しい。生まれもったものはどうしようもないとわかっているのだが、これは女としてのプライドの問題なのだ。美しさで男に負けるのは、女として、心から悔しい。
未夢はうつぶせに寝転がり、彼ににじり寄って、至近距離から見つめた。顔だけでなく、首からのびる均整のとれた上半身や、すらりと長い手足までくまなく視線をやる。そのあとに、己の体を見て。
「…せめてもうちょっと、…スタイルがよければ…ねぇ、」
谷間の薄い胸、くびれのない腰、張りのないお尻、細いとは言えない手足…
あ、なんか悲しくなってきた。
「っ、い、いやいやいや、私まだ中学生だし…これからよ、これから!」
自分を慰めつつ、彷徨と同じように、仰向けに寝転がる。あー、こうやって、すぐにごろごろするから体重が減らないのかなあ。ちょっとお外に出て、運動した方がいいのかも。あ、ワンニャーの買い物、ついていけばよかった。それとも今から、石段の上り下りでもしてこようか…
「…こんなんじゃ、女の子として見てもらえないよね…」
しょんぼりした呟きを残し、未夢の意識は眠りの淵に落ちていく。最後に思ったのは、なるべくおやつは控えよう、という、すぐに挫折しそうな目標だった。
「……睡眠妨害だ」
健やかな寝息を耳に入れながら、彷徨はむくりと身を起こす。不機嫌としか呼べないような独り言は、しんとした居間の空気に溶けて消えた。
「……」
ちらり、自分が今まで寝ていた場所のすぐ隣に目を向ける。
無防備に眠る、ひとりの少女。
「こいつ、最悪、だ…」
はああ、と大きくため息を吐いて、頭を抱える。いい気持ちで寝ていた彷徨を散々眺めまわしていたかと思えば、でかい独り言で彷徨を完全に目覚めさせ、爆弾発言を残して勝手に眠った。…安眠妨害にも程がある。
「…俺がきれい、ね…」
再度吐息して、顔を覆った指の間から少女の寝姿を眺める。
畳に散らばる輝く金糸と、健康的な薔薇色の頬、さくらんぼみたいなちっちゃな唇。寝顔はあどけなくて、でも伏せられたままの瞼と頬に陰るまつ毛が妙に色っぽい。触れたら折れてしまいそうな細い首から続く、しなやかな体。胸はないけど、中学生ならこれで十分だし、腰だって彷徨と比べたらずいぶん細い。ミニ丈のワンピースから伸びる手足は白くてやわらかそうで、マシュマロみたいでおいしそ、
「…ああああああああ待て待て待て!」
思考、強制終了。大きく頭を振って、寺の息子らしからぬ不埒な考えを追い払う。幾度か深呼吸して気持ちを落ち着かると、こちらにまでのびている長い長い金糸をひと房手に取った。まっすぐで、細くて、絹糸のような極上の手触り。
「…オンナノコ、か…」
熱く火照った顔に気づかないふりをして、なんでもないことのように呟く。
そんな心配しなくても、彷徨の中ではとっくに女の子、なんだけど。――――――もう、ずっと前から。
「…男にきれいとか言うんじゃねーよ、ばぁか」
悪戯に、金糸を引っ張って。
震える唇を、そっと、寄せた。
(君の方がきれいだ、なんて、言えるはずもなく、)
未夢たんにめろめろ(せいてきないみもふくめ←)な彷徨氏がすきです^^
そして私、初めて拍手でコメントをいただけて、はしゃぎ浮かれておりますwww18日にコメントくださった方、ありがとうございましたー!
…これからもがんばろう、うん(^q^)