作:かほ
「未夢」
かぼちゃの煮付けの番をしていた彷徨は、ワンニャーに
『か、彷徨さん、未夢さんがぼーっとしてるんですよ!!』
と言われて、見張り番を交代したのだった。
「あ、彷徨」
縁側に座っていた未夢は、名を呼ばれて彼を見た。
「ハロウィンの準備は終わったのか?」
「うん。ばっちり!期待してて^^」
平生町恒例のハロウィン仮装大会は、夕方からで、衣装に着替えるにはまだまだ時間がある。
未夢は、ふっと空を見上げた。
「ねえ、彷徨・・・人は亡くなったら何処へ行くのかな・・・」
彼女の突然の問いに眉をひそめながらも彷徨は答えた。
「遠く」
「はあ?」
「わかんねえよ。行ったこと無いんだから」
逆ギレる彷徨に、未夢はあははと苦笑い。
「・・・まあ、そうか」
「・・・何だ?母さんのことか?」
「うん。ふと、思ったもんだから」
彷徨の母は、彼が小さいときに亡くなっていた。
その命日が、今日10月31日・・・ハロウィンの日なのだ。
「ん〜、母さんならそこらへんにいるんじゃないか」
「へ?」
「親父なんか、結構、会話してるからな」
「彷徨も感じる?」
「・・・俺は、よくわかんないけど」
未夢が足をぶらぶらさせながら、彷徨をからかうように覗き込む。
「薄情者?」
「・・・とりあえず、俺には目の前に話す奴いるし」
「え?あたし?」
「それにな・・・覚えてるから。・・・母さんのことずっと忘れないからさ。それでいいんじゃないか」
未夢も頷きながら笑った。
「うん。そうだよね。あ、彷徨。もしもあたしが先に死んじゃったら、彷徨にまとわりついてあげるからね」
「・・・「まとわりつく」っていうのはいいから、普通にそばにいてくれれば・・・それより、どう考えてもおまえのほうが長生きするんじゃね?未夢のほうが絶対図太そうだし」
「なにおー!」
「まあ、そのときは、俺がまとわりついてやってもいいけどな」
頬を膨らましていた未夢は、くしゃりと笑った。
そして、腕を組んで、つんと顎をあげ、
「別に、まとわりつかせてあげてもいいけどー」
そんな未夢の額をごんっとこぶしで叩く彷徨であった。
――― 今が・・・幸せだから・・・そんなことが言えるのかもしれないけれど・・・。
「彷徨さーん。かぼちゃできましたよー」
かぼちゃ番のワンニャーの声が響き、彷徨が立ち上がった。
「あ!あたしも食べたいー」
「母さんの次にな」
「わかってるよー♪」
――― 彷徨のお母さんに逢いたかったな・・・って思う。
でも、写真立てが置いてあるこの部屋に入ると、なんだかほんのりあったかい気がする・・・。
・・・未夢は単純なので、そう思うと、この西遠寺のいろんなところに、彷徨のおかあさんの気配を感じる気がするのだった。
なんだかほっとするような・・・懐かしい感じが・・・
彷徨にかぼちゃの小鉢を渡され、未夢がことんと写真の前に置く。
「・・・やっぱりそばにいてくれてるみたい」
手をあわせながら、未夢が微笑み、
「だろ」
彼が舌を出して笑う。
写真の中の母が、いつにも増して笑った気がした・・・。
<END>
彷徨のおかあさんの命日がハロウィンだというのは、「停電ハロウィン」でわかるんです。
内容は、シリアスなのに暗く思わせないギャグで優しい話。
だあ!のこの「停電ハロウィン」で、私はオンラインデビューをして、山稜しゃんにも出逢いました。
山稜しゃんは、先に天国に行ってしまったけれど、生涯決して忘れることはない永遠のおともだち。
出会いに感謝します。
このお話は、山稜しゃんを思って書いたもの。
拙いですが、永遠のおともだちの山稜しゃんへ捧げます。
自サイトを閉鎖するにあたって、こちらにUPさせてください。