作:マサ
未夢が風呂へと向かったのを見て、
俺はため息をついた。
「俺の方こそ、意識してるんですけど…。」
と、独り言を言ってみたところで、
当然答えてくれる人もいない。
実は、俺は和音とは別れている。
転校が決まって、真っ先にそれを伝えた相手は、
他でもなく和音だった。
お隣さんって言う関係を打ち破るべく、
俺から告白して付き合うことになった。
ボロボロだった昔の俺を支えてくれた、
そういった意味では、
一生かかっても感謝しきれないような感情は、
常に持っている。
だからこそ、別れるときも俺から告げた。
「俺、転校することになっちゃった。
それで、言わなきゃいけないことがある。」
何かを察知した和音が、顔を凍らせたのを、
俺が気づかないはずが無かった。
「ふーん…。何を言いたいの?」
ちょっとだけ強がった和音の言葉を聞くと、
罪悪感もこみ上げてきたが、
「…別れよう。
俺も、新しく踏み出さなきゃと思った。
もちろん、和音のことも好きだけど、
俺よりいい男、いっぱいいるし。」
俺も、最後の最後に逃げに入ってしまった。
へたれた言葉に終始してしまった。
「じゃあさ、誠大が向こうに行ってる間だけ、
別れていようよ。」
「…お前が良いなら、
それで大丈夫だけど…、何で?」
「だって、誠大といるのが、
一番楽しかったんだもん。
また、帰ってきたら、一緒にいようね。」
そんな感じで、俺らは別れた。
なんとも、ガキみたいな感じだったが、
少なくとも、俺は別れたことに後悔していないし、
特に和音にマイナスな感情を抱くこともなかった。
だからこそ、今なお西遠寺に遊びに来てくれるのだろう。
そしてそのせいで、
未夢は勘違いしているんじゃないかと思う。
と言うワケで、今の俺はフリー、
って言うことになる。
ただ正直、今の未夢の態度という物は、
こちらも持て余す物がある。
「俺だって抑えるのに必死なのに…、
大体未夢の考えてることバレバレだし。」
とりあえず、今は落ち着かなきゃいけない。
そう思った俺は、クルマの雑誌をパラパラとめくる。
これに集中しておけば、アイツと目線合わないだろうし。
ただ、さっきの発言。
あれはさすがに不用意だったと思う。
想いの矛先が明らかに自分に向かっている。
それを自分が理解しておきながら、
「想い続ければいい」
と、言ってしまった。
いくら何でも、あれは無責任すぎる。
そう、自分自身が思ってしまう。
あの言葉で未夢の気持ちは、
結構高ぶってるに違いない。
言わなきゃ良かった。
そんな想いが駆けめぐっていた。
「…集中できねぇ。」
雑誌の内容なんか、ほとんど頭に入ってこない。
さらに、いないはずの和音の存在が、
脳裏をふと横切ってしまった。
「別れた」っていう事実を、
自分で区切り付けたはずなのに。
未夢からは、俺はどう思われてるんだろう。
多少なりとも悪い目で見られかねない状態だろうなぁ。
あれだけ想いを寄せて、
一途にがんばっていて。
同じ部屋の中で過ごしているからこそ分かる、
あいつの一面って言うのもある。
あいつは、人よりもがんばり屋だし、
多分、俺なんかよりも、我慢強いし。
そう言うところを見ているからこそ、
和音とはまた違った健気さを感じていた。
そして、いつの間にか、
俺は未夢を「かわいい」と、思うようになっていた…。