今日も暑いなぁ・・・
真夏の日差しが照る中、未夢は夏休みの課題を仕上げるために
近くの市立図書館に向かっていた。
ルゥたちが帰って半年。彷徨たちと離れて半年。
未夢も中三となり、課題に受験勉強に明け暮れる夏休みだった。
図書館に入るとなんとも心地よい涼しい風が身にまとう。
未夢が仕上げなきゃいけない課題とは、読書感想文だった。
明後日から彷徨の家に行く予定があるため、電車に乗ってるときに
読めるといいと思い、8月になってからやっと読書感想文に手をつ
けたのだった。
「何の本にしようかな〜・・・」
夏休みともあり、推薦図書コーナーもあったがあいにくこの時期には
どれも貸し出されていた。
仕方なく一般書コーナーにいってみるも、未夢が興味がありそうな
本はない。
「もうちょっと早くくればよかったかな〜・・・」
そう一人でつぶやきながら諦めきれず本をさがしていると、
とある本が目に付いた。
――― 時計の真実 ―――
後ろの本の説明書を読んでみる。
―――運命は時計からきている。時計は貴方についてまわる。
恋人と出会った時も時計は覚えていて、別れた時も時計は
知っている。
時計は運命を動かす事が出来て、自由に動かしている。
今日も貴方の運命を時計が動かしている。―――――
新人賞受賞作家 田口浩介の待望の第2作目・・・
「そういやこの前電話で彷徨がこの作家・・・
この本について言ってたなぁ・・・」
未夢はその本と図書カードを手に持ち、カウンターへ向かった。
―――毎度○○線をご利用いただいてありがとうございます。
この電車は・・・―――
車掌のアナウンスが車内に響く。
未夢は窓際の開いた席を見つけ、ボストンバックを
自分の足元におき、窓際に座った。
先日、図書館で借りた『時計の真実』を取り出し、表紙をめくった。
第一章 運命を狂わせる鐘
もう一ページめくる。
未夢はその物語にのめりこんでいった。
次は平尾町〜平尾町〜終点でございます。
未夢はその声にハッとした。
本を慌ててバックに押し込め、ボストンバックを下げドアに向かう。
ドアが開いたのと同時に走り出し、急いで改札口に向かう。
改札口ついた頃には既に汗がにじみ出ていた。
「未夢。こっちだ。未夢」
周りより背が高いのか・・・容姿が目立つのか・・・
声の方向を向くとすぐに彷徨を見つけることが出来た。
「ごめん待たせた?」
「電車は定刻通りだからな。それほど待っちゃいない」
「なにそれ〜。私がいつも遅れてるみたいじゃない!」
「いつもそうだろ」
そう口喧嘩をしながらもお互いの顔は笑っている。
「さてと、家に向かいますか〜」
未夢がそういうと彷徨は未夢の片手に持っていた
ボストンバックを持ち、スタスタと歩き出した。
「えっ・・・あっ・・・」
「家に帰るんだろ?ほらいくぞ。」
「うん。ありがと」
2人は真夏の日差しの下、家に向かって歩き出した。
「全然変わってないね。町の風景。あっでもあのマンション
帰る前はなかったかも」
「あぁ・・・ついこの前できたんだ」
「へぇ〜。ここの公園も懐かしいな〜。ルゥ君のミニミニマシーンで
小さくされちゃったのよね。クリスちゃんもいっしょに」
「元に戻るの大変だったよな〜」
「西遠寺までの階段は相変わらずだね」
「階段が変わっても困るけどな」
「何それ〜」
息を切らせながらも階段を上ると、ちょうど12時になったのか、
家の中から時計の鐘が聞こえてくる・・・
「あれ?時計なんてなってたっけ?」
「あぁ・・・親父が帰ってきてから修理に出したらなるように
なったんだ」
「へぇ〜」
彷徨は玄関を開けるとそこに未夢の荷物を置いた。
「おじゃまします?ただいま?」
「ただいまじゃね〜か?」
「それじゃぁ、ただいま。あっ・・・ありがとね。彷徨」
「まったく。何をこんなに持ってきたんだか・・・重い・・・」
「いいの〜。ほっといて〜。もう」
「お前の部屋は前のままにしてあるから、荷物置いたら食事にするぞ」
「うん。分かった〜」
そういうと未夢はそそくさと荷物を持って元の未夢の部屋に行った。
彷徨も昼食の準備をするために台所へと向かった。
未夢は部屋に入ると障子をすべてあけた。
家具の配置も元のまま。匂いもすべて何も変わっていなかった。
未夢はとりあえず荷物を置き、居間へむかった。
食事は彷徨が用意した事もあってかぼちゃ料理。
「彷徨相変わらずかぼちゃ料理に凝ってるんだね〜」
「まぁ・・・好きだしな」
「なんか彷徨らしい・・・」
夕食みたいな豪勢な昼食を食べ終わると、彷徨は誰かに電話を
していた。
「どうしたの?」
「いや。なんでもない。・・・それより今日の夜三太たちが来るから。
天地たちと一緒に」
「本当〜vいや〜久しぶりに会えるなんてなんか気恥ずかしい
ですなぁ〜」
「あっ・・・俺ちょっと用事あるから出かけてくる」
「え〜そうなの。せっかく課題を・・・」
「課題くらい自分でやれよ」
「だってわかんないんだもん。」
「とりあえず、行ってくるから。」
「いってらっしゃい」
そういうと、彷徨は靴をはき小走りで寺の門をくぐって行った。
「あ〜ぁ行っちゃった。何急いんでんだか」
未夢は玄関で一人そう呟くと自分の部屋に戻り、課題を始めた。
1時を告げる鐘がご〜んと1回なった。
幾時間たっただろう・・・先ほど5回鐘がなったことから5時は
回ってるはず。
外はだんだんとか赤みを帯びてきている。
ガラガラガラ・・・ただいま〜
玄関の開く音を同時に彷徨の声がした。
「おかえり〜」
未夢は課題を机の上に置いたまま、玄関へと向かった。
「結構遅かったね。」
「あぁ・・・ちょっと色々あってな」
彷徨はそういうと一直線に居間へ向かう。
「三太たちがくるからな。何か作っとかなきゃ。」
「そうね。私も作るの手伝うよ。」
「食べれるもん作れよ」
「な〜っひっど〜い!」
2人は言い争いをしながらも手をせっせと動かしていた。
5時の鐘がなったばかりかと思っていた未夢の耳に、
6時を示す6回の鐘が聞こえた。
「こんばんわ〜っ」
西遠寺に色々な声が響き渡った。
未夢は家事の手を止める。
「玄関行ってみろよ。あとはやっといてやるから」
「うん。ちょっといってくる」
未夢が玄関にいるとお馴染みのメンバーが顔をそろえていた。
「ななみちゃん。綾ちゃん。三太君」
「未夢〜。ひさしぶり〜。元気だった?」
久しぶりな彼女らは会話が弾みながら居間の方へ行く。
彷徨はすでに料理をならばせて居間に座っていた。
いつも通り5人で話していたが、やはり女の子は女の子同士、
話がはずみだした。
彷徨は三太と話がはずんでいる。
ななみはちらっと綾をみた。
綾もちらっとななみをみた。
「ねぇ・・・未夢ちゃん。」
「ん?何?」
「最近・・・西遠寺くんがおかしいの気づいた?」
「えっ?どこが?」
「なんかね。最近コソコソしてることが多いんだよね〜」
「ほへ〜・・・」
「何があったか知ってる?」
「全然。あっでもさっきちょっと出かけてくるとかいって
三時間近くかえってこなかったよ。
三太君の所にでも行ってたのかな?」
ななみと綾は顔を見合わせた。
「三太君は・・・」
「私達とずっと一緒にいたよ」
「えっ?・・・」
3人は顔を見合わせる。
「それじゃぁ、図書館じゃない?ほら。彷徨本好きだし?」
「そっそうかもね〜」
「よく読んでるものね〜」
未夢は心のつっかかりを抑えながら話を弾ませていった。
夜もふけ9時の鐘が聞こえた時、ななみたちは帰っていった。
未夢はその夜、先ほどななみたちと話していた内容を思い出す。
彷徨の行動不審・・・
いったいどうしたんだろう・・・私にも話せないこと・・・?
そして不安を取り除けないまま眠りについた。
朝8時。
柱時計の鐘の音で起きた。
居間に行ってみるとまだ彷徨はいない。
多分寝ているのだろう・・・と思ってもう8時だし、
と彷徨を起こしに行った。
トントントン・・・
「彷徨〜?もう8時だよ〜?」
返事はない。
「入るよ〜?彷徨〜?」
カラカラカラ・・・
彷徨の部屋をみると、もぬけの殻。
布団はきれいにたたまれており、既にいなかった。
未夢は彷徨の名前を呼びながら家中を探した。
が、しかし・・・彷徨の気配はどこにも無かった。
玄関に行ってみると、彷徨のサンダルはなかった。
数十分たって未夢が不安な気持ちながらも居間でTVを見ながら
彷徨の帰りを待っていた。
9時になる少し前、玄関が開く音がした。
それに彷徨の声も・・・
未夢は小走りで玄関へ向かった。
「彷徨っ。何処行ってたの?こんな朝早くから」
「別に朝早くないだろ?」
「でっでも心配したんだよ」
「はいはい。ごめんなさい」
「絶対今の気持ちがこもってない」
未夢がいくら言っても彷徨は未夢の顔をみようとはしなかった。
「っ・・・もぅいいっ!」
未夢はそう言い放つと自室へ戻っていった。
そしてお昼も食べずに、今の出来事を忘れるように課題に勤しんだ。
3時の鐘が聞こえる。
外はセミが鳴いている。
未夢はその音で机の上でつっぷして寝ていた事に気づいた。
数時間眠っていたらしい・・・
未夢はのどの渇きを覚え、台所へ行った。
台所へいくと、彷徨もちょうど居間へやってきた。
お互い口をきこうとしない。
彷徨はTVをつけた。
未夢は飲み物を入れたコップを持ち、彷徨とテーブルをはさんで
すわった。
「ねぇ・・・彷徨」
「ん?」
「朝・・・はごめん。勝手に言いまくって、勝手に怒って・・・」
「・・・俺も悪かった。何も言わずに行って・・・」
2人の間にTVの後だけがながれる。
「夕食・・・買出し行かないと無いから一緒に行くか?」
「うん。」
未夢と彷徨は用意をして、買出しに行った。
玄関に鍵をかけたのを同時に4時の鐘がなった。
「ねぇ。彷徨。あの時計壊れてない?」
「この前修理にだしたばかりだしなぁ・・・」
「でも、さっき3回の鐘なってたでしょ?」
「そりゃぁ3時だったからな」
「今、また4回鐘が鳴ってる。」
「そりゃぁ今4時だからじゃん」
そういいながら腕時計をみせる。
「あっホントだ」
「寝すぎて時間間隔くるったのか?」
「も〜っ寝すぎじゃないもん」
言い争いをしながらも未夢ははしゃぎながら家を出て行った。
スーパーたらふくで買物が終わり、帰っている途中のことだった。
「か〜なた君」
後ろから女の人の声がした。
2人は後ろを振り向いた。
「坂下先輩・・・」
「偶然だね〜。さっきはありがとね。」
「いえいえどういたしまして」
坂下という女の人は彷徨と仲良さげにしている。
「お隣の人は?」
彷徨の後ろにいた未夢の顔を見る。
「あぁ・・・えっと、半年前まで親の仕事の関係で彷徨君の家で
お世話になっていた光月未夢です。」
「もしかして例の宇宙飛行士の娘さん?」
「えぇ・・・まぁ・・・」
「わぁ〜すっごい。」
未夢はその勢いに後ろへたじろいだ。
「ここで話すのもなんだし、そこのファーストフードに
入りませんか?」
彷徨が提案をする。
確かにこの日差しの手前。熱中症になりかねない。
「そうだねぇ〜。入ろ、入ろ」
坂下という女の人が先頭に未夢と彷徨は後につくように
ファーストフードへ入っていった。
彷徨はレジに行き、テーブルで未夢と坂下という女の人と
2人きりになる。
「私は坂下葵っていうの。よろしくね。」
葵は未夢に握手を求めた。
未夢はそれに答えて握手をする。
葵は口が達者らしい。ペラペラと色々なことを話題にしては
話している。
―― 彷徨が苦手なタイプだよね・・・――
未夢は密かに思った。
「それで、未夢ちゃんは彷徨のことどう思っているの?」
自分に振られてびっくりする。
それよりもまず、彷徨と呼び捨てにしているところに未夢は驚いた。
「えっ・・・えっと〜」
未夢が答える前に葵が言う。
「私、彷徨と付き合ってるんだ〜」
「えっ?」
未夢は言葉が詰まった。
「ほら、彷徨ってあの容姿だし、頭もいいし、スポーツもできるし、
もてるじゃない?だから未夢ちゃんも好きなのかなぁ〜って・・・」
「いっいえ。そんなことはないですよ〜。従兄弟ですから」
「そうなんだ〜。それじゃこれからヨロシクね」
そういいつつまた色々な話題へと移っていく。
いつのまにか彷徨がその会話に加わっていた。
未夢は軽くあいづちをうつ程度だった。
未夢の耳に鐘が聞こえる。
それではっとした。 いつのまにか家についている。
「どうしたんだよ?」
「えっ?いや。あの」
「お前さっき、ファーストフードに入ったときからおかしかったぞ?」
「そっそう?」
「まぁいつものことだっけ?」
「なんですって〜?」
言い争いに鳴ろうとしているところに聞きなれない
メロディーが流れた。
彷徨は慌ててTVの上に置いてあるものをとる。
「はい?先輩?・・・」
そういいながら居間を出て行った。
いくら鈍感の未夢でも相手が誰だかは察知はつく。
――― 夢じゃなかったんだ・・・ ―――
呆然と一点を見つめていた。
そこに電話の終わった彷徨が入ってきた。
「彷徨携帯買ったんだ・・・」
「あぁ・・・買ったというよりももらったんだがな」
「番号教えてくれればいいのに・・・」
「いや・・・これはもらいもので・・・」
2人の間に沈黙が走る。
「ねぇ・・・彷徨・・・あの・・・その・・・」
彷徨は何も言わずに違う一点を見ている。
「さっき会った、葵さんと付き合ってるってほんと?」
彷徨のめがかすかに開く。
「・・・・あぁ・・・」
未夢がビクッと反応する。
「なっなんだ〜。そうなんだ〜。ちょっとびっくりしちゃったよ〜」
無理して明るく反応する。
彷徨もその事が分かってか苦い顔をしている。
「・・・おれ夕食作る・・・」
彷徨は逃げるように台所へ行った。
未夢はそこへぽつんと取り残された。
――― ここまでショックをうけるほど・・・
私は彷徨を好きだった・・・ ―――
その事だけしか考えられなかった。
「彷徨。ちょっと私・・・あの・・・昨日ななみちゃんが
忘れていったものを届けてくるね。」
そういうと西遠寺を飛び出すように出て行った。
公園まで走ってくると、そこにあるブランコに座った。
足を動かすたびにキーっ キーっと鉄がすれる音がなる。
ちょっと期待があったのにな・・・
私やっぱり自意識過剰だったんだね・・・
なんでもっと早く言わなかったんだろう・・・
目から膝に涙が落ちる。
ゴーン・・・
鐘が聞こえる・・・西遠寺の鐘?
ゴーン・・・
えっ?これって・・・
ゴーン・・・
西遠寺の柱時計の鐘・・・?
ゴーン・・・ゴーン・・・
音はどんどん大きく聞こえてくる。
ゴーン・・・・・・・
ゴンゴンゴン・・・・
ん?・・・
トントントン・・・
未夢はその音にハッとした。
私は公園にいたはず・・・ブランコに座っていたはず・・・
あたりを見回した。
そこは電車の中。
窓の外には彷徨の顔。
少し怒った顔しながら窓を叩いている。
「えっ?あれ?ここどこ?」
一人ブツブツ言いながらきょとんとしている。
「未夢。さっさと降りて来い。」
彷徨の声が聞こえる。
膝には本。足元にはボストンバックが置かれている。
未夢は状況が理解できず、とりあえず荷物を持って電車を出た。
「電車が到着してんのに、なかなか来ないと思ったら・・・」
彷徨はブツブツ言っている。
「彷徨・・・?ここどこ?」
未夢は真面目な顔をして聞く。
彷徨は一間おいて笑い出した。
「なっ何がおかしいのよ〜。だって私は公園で・・・
彷徨こそ葵さんはどうしたのよ?」
「お前何寝ぼけてんの?葵さんってだれ?」
「へっ?」
「お前は電車の中で寝てたの。終点の平尾町まで。
まったく終点だからよかったものの、
終点じゃなかったら違うとこ行ってたぞ?」
未夢は今までのことが夢だったことを理解した。
「あっ・・・夢だったのか・・・なんだ・・・よかった〜」
「何がよかったんだよ?こっちはわざわざ探しにきたのに」
「えっ、あ〜ごめん。ごめん。」
「あれだな。待ち合わせ時間に遅れるけど、
今回ばかりは定刻通りの電車だし、
遅れないと思いきや、こういうおちでおくれるとは・・・」
「何よ〜」
「お前もそうとうアホだな」
「なんですって〜っ!」
「ほら。暑いし、さっさと家に帰るぞ。」
彷徨は未夢の荷物を持った。
「ありがとね。」
さっき怒っていた顔とは裏腹に笑顔で彷徨に振り向く。
「何だよ。急に・・・」
「ん?なんでもないよ。さぁ家に帰りましょう!」
未夢は張り切って、ホームの階段を上っていく。
その後に彷徨が続いている。
未夢の手には『時計の真実』の本が握られていた。
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