七夕

作:久保真理




「笹の葉さーらさら〜」

昔懐かしい歌を口ずさみながら、楽しそうに歩く未夢。


何を思い出したのか、さっき突然「彷徨!裏山に行こ!裏山!!」そういってぐいぐいと読書をしていた彷徨の腕をひっぱった。


ルゥはすやすやと気持ちよさそうにお昼寝をしていて、ワンニャーも隣でめずらしく一緒に寝ている。

そんな二人に、簡単に書置きをして二人で裏山へとやってきた。






「さーさーのはーさーらさらー」

さっきからこのフレーズだけ歌って、他は鼻歌。


きっと歌詞を知らないんだろう。と、思う。


裏山のどこに行きたいのか分からないから、とりあえず未夢が迷子にならないように場所の把握だけする。

迷子は俺が居るから、まったくもって心配はない。


もしも道が分からないところに行ったとしても、それよりも心配なことがただ一つある。


それは、未夢の右手に握られた大きなはさみ。木の枝を切ったりするのに使うやつだ。



それをぶらぶらと振り回しながら、きょろきょろと、何かを探すように歩く未夢。


危なっかしすぎて、目が離せない。

はぁ。と小さくため息をついた時、未夢がくるっと後ろを向いた。



「ねぇ彷徨。笹って、どこに生えてる?」

「は?」


「だから、笹だよ笹。」


ぶーっと頬を膨らませる未夢は後ろ歩きでまだ歩き続ける。

はらはらする気持ちを落ち着けつつ、俺は未夢に言葉を返す。


「笹なら、こっちに方にあるかな。」

小さい頃から遊んでいた裏山は自分の庭と化している。


何がどこにあるか、難しいものじゃなければ大体頭に入っている。



「さーさーのはーさーらさら〜」

またそのフレーズを歌って、その後は鼻歌。



ああ。そうか。


「明日、七夕か。」


「そーだよ彷徨!忘れてたの?明日は織姫様と彦星様が天の川で年に一回だけ会える大切な日だよ〜」

なんか力説される。


「それで笹を持って帰ろうと?」


「うん。ちょっとだけ枝を拝借しようと。」


そう言ってまたハサミを振る。



ああもう!

「危なっかしい!お前ハサミ持つな。」

ちょっと強引にハサミを奪い取ると、未夢は一瞬キョトンとしてからふわっと微笑んだ。


「ありがと。」

そんな笑顔、反則だろう。


そんなことを思いながら視線をそらすと「あ!」と未夢が大きな声をあげた。


「あった。笹!すごいね。さすが彷徨!!」

たたたっと笹の所に向かう。その道も坂。


すてーん。

走ると危ない。そう言おうとした途端に、キレイに転んだ。


「ばーか」

舌をペロっとだして、手を差し出すと、未夢はちょっと頬を膨らませながらも俺の手を取った。


「じゃー枝を一つだけ拝借しますか。」

そう言って、ちょっと大き目の枝をハサミでバチンと切り取った。



「未夢が持って。転んで折るなよ?」


「もう転ばないもん!やった!笹だ〜。笹の葉さーらさら〜」


くるくると葉を回して子どものように喜ぶ未夢。

さっきまで膨れてたくせに。



「そういえば、さっきから歌ってるけど、その先の歌詞は歌わないのか?」

どーせしらないんだろうと分かっていながらも意地悪をする俺。


「知らないんだもん。仕方ないじゃない。」

再び頬を膨らませる未夢。くるくるコロコロ変わる表情は見ていて飽きない。飽きることを知らない。


「じゃあ、覚えてルゥに教えてやれよ。」

「だから知らないって…」


そうふて腐れる未夢のこえを遮って、俺は一人七夕を口ずさむ。



   笹の葉さらさら

   のきばにゆれる

   お星様キラキラ

   金銀砂子



   五色の短冊

   わたしが書いた

   お星様キラキラ

   空から見てる



覚えたか?と顔を見れば、「彷徨!もう一回!」笑顔でそういわれた。


嫌だ。と嘘を言ってみたいけど、未夢の笑顔に嘘をつけない俺はもう一度口ずさむ。


そこに未夢のキレイなソプラノが加わった。どうやら覚えたらしい。


「明日、二人でルゥくんに歌ってあげようね。」

そう言って笑う未夢にただ、にっこりとだけ笑った。


家に帰ると、二人はまだ寝ていて。未夢が自分の部屋から折り紙を持ち出してきた。

星や提灯をふたりで作って笹の葉につける。



最後に厚紙を長方形4枚に切って、穴を一つ開けて紐を通した。


この四人家族。最初で、きっと最後の「七夕」






次の日

未夢が夢見がちにルゥに織姫と彦星の話をする。



「彷徨。彷徨。」

せがまれて、一緒に七夕を歌った。


ルゥは楽しそうにきゃっきゃと手を叩いて笑う。



短冊の説明をして、それぞれに紙を渡した。

お互いに何を書いたかは言わないけど、字を見れば分かる。


ルゥは俺たち四人の絵。


ワンニャーは「みたらし団子をたくさん食べたいです。」


未夢は「みんなが元気に一年過ごせますように。」


俺は…なにも、書かなかった。


書けなかった。

未夢は不思議そうに、心配そうに俺を見つめていた。


笹を燃やす時に願った。書けない願い。




これからもずっと四人で居たい。けど、それはムリだってわかっているから。



「また、ここで会いたい。いつか。」


暮らせたら、本当に幸せだと思う。





一年に一回会える織姫と彦星は幸せだと思う。


俺たちは、一度離れたら、一年に一回も会えないだろうから。

織姫と彦星が、少しうらやましく思えた。





遅れた七夕ネタでのお話を書いてみました。

どどどど、どうでしたでしょうか?汗汗


久々過ぎて、ちょっと。いやかなりドキドキしております。

というか、ログインのアドとパスワード忘れかけるくらい危なかったです。苦笑


最近は暑くて夏バテしまくりなワタクシです。

みなさまは大丈夫でしょうか?
体調にお気を付けください。


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