メロディ

作:あかり



おててつないで のみちをゆけば
みんなかわいい 小鳥になって
・・・

縁側からもれ聞こえるメロディはどこか懐かしい。でも、歌っている人が学校ではクールだなんて言われている彷徨だと思うとなんだか口元が緩んでしまう。そっとのぞいてみると、彷徨は縁側に座ってルゥを前に抱いて歌のとおりに手を握っているらしい。私には意地悪を言うことが多いけど、基本的にやさしい。ここからは見えないけれど、学校ではなかなかみられない満面の笑みを浮かべているんだろう。
「キャー。てって。」
「お、気に入ったのか?」
「ハーイ。」
いつもは私も入れてもらおうとするのだけど今日はなんとなく遠くで見ていたい気分で部屋のなかから二人の様子をながめていた。夏の日差しが少しだけやわらかくなって部屋に流れ込むふわりとした風は肌に優しい。


『みぅちゃ、てぇつないでうたおっ』
『おてて?』
『んっ。かぁさとねーいつもうたうんだよっ。』
『みぅもうたうー。かーたくんとてってつなぐっ。』
おーてて つーないで のーみちを ゆーけば
みーんな かーわーい こーとりーに なーって
・・・


「・・・きろ。おきろ。未夢、そんなとこで寝てると風邪ひくぞ。」
「ああ、彷徨?」
「寝ぼけてるのか?いくらおまえが丈夫でも涼しくなってきたんだからこんなとこでうたたねするなよ。」
「んー。ありがと。」
心地よい風と、彷徨の歌がどうやら子守唄になったようでうたたねしていまっていた。固まった体『んー』といってのばしてみる。それをみて安心したのか彷徨に抱っこされていたルゥがフワフワと飛んでやってきた。
「マンマ。てって。」
「はい、ルゥくん。おてて?あ、おーてて つーないでね?」
「はぁいっ。」
「へー。お前もこの歌知ってるのな?」
「うん。・・・ね、彷徨。この歌小さいときお気に入りだった?」
「え?んー覚えてないなぁ。でもなんかこの歌は覚えてるんだよな。」
「そうなんだ。・・・ルゥくん、こっちのてっては彷徨とつないで。うん、そう。」
「なんだよ。」
「いいじゃん。歌お?」

おててつないで のみちをゆけば
みんなかわいい 小鳥になって
・・・

彷徨はけげんな顔をしていたし、一緒に歌ってはくれなかった。けれど、ルゥくんの手を一緒に握ってゆらゆら揺らしてくれて。ルゥ君はごきげんに「る、る」と分からないながらもなにかを口ずさんでいる。・・・夢が、本当のことかどうかは分からない。ただ、この先必ずある別れ。ルゥくんが遠いオット星に帰って大きくなったとき。彷徨のようにこの曲を覚えていてくれたら、もし、忘れてしまったとしても似たフレーズの曲を聴いたときに少しでも懐かしい気持ちになってくれたら、嬉しいと思った。




「あら、なつかしいわね、この歌。」
「そうでしょ?最近、彷徨のおきにいりなのよ。何回もうたってってせがむのよ。」
「ふふ、今日帰ったら未夢も言うかもしれないわ。おぼえて帰らなくっちゃ。」
「彷徨ったらあんなに喜んで。来てくれてありがとね、未来ちゃん。」
「どういたしまして。あんなに元気がいいのを聞くと塞いでいたなんてうそみたいね。ところで、体調はどう、顔色はいいみたいだけど・・・。」
「えぇ。大丈夫、平気よ。ふふ、病院にしばらく入院していたでしょう?それで彷徨、最近ちょっと機嫌が悪かったみたい。宝晶さんが手はかからないけどふさいでるって言ってたの。私が退院してからはそうでもなかったんだけど。同じ年の子がきたらもっと喜ぶんじゃないかしらと思って。もちろん、私も未来ちゃんや優さん未夢ちゃんが来てくれてとってもうれしいわ。久しぶりにおしゃべりできて楽しいし。」
「私もよ。まるで学生のときみたいじゃない?それに、未夢もあんなにはしゃいじゃって。遠くてこっちにはなかなかこれないけど、私たちの子供が仲良くしてくれて嬉しいったらないわ。」
「ふふ。ホントね。あ、でも優さんはいい顔しないんじゃない?」
「もう大変よ。まだあんなに子供だっていうのに、『未夢はどこにもやらないぞ』って言ってるのよ。子供よね。」
「まあ。」
「私は、未夢には素敵な恋をしてほしいわ。」
「自分たちみたいな?」
「ええ。あ、もしその恋の相手が彷徨くんだったら楽しいわね。そのことをいっぱい瞳ちゃんとおしゃべりするの。楽しそうでしょ?あ、でも私の子だからお手柔らかにしてね、お姑さん♪」
「ふふっ。まあ、未来ちゃんたら。でもそうね彷徨と未夢ちゃんがほんとにそうなったら楽しいわね。じゃあ、私は彷徨を優さんが『うん。』っていってくれるようなかっこいい男の子に育てなくっちゃね。」

そういって、顔を見合わせて微笑んだ二人のささやかなでも暖かい遠い先の未来図。
10数年後二人は再会して小さな命と一緒に手をつなぐ。
二人が包んでもらった手の暖かさそのままをつたえて。


その先の未来でも、もう一度。きっと。






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