雨間

作:あかり



季節は夏に近づいてきた頃。梅雨がようやく明けようとしている。
だけど、やっぱりまだ晴れよりも雨の日の方が多い、そんな時期。気分もなんだか雨雲のかかった空のようになんだかどんよりする。
それなのに家にいる3人は今日はえらくご機嫌で、今日は、雨から雪に変わるんじゃないかと思ったくらいだ。

「雨ばっかりだなー。」
「そだね、洗濯物渇かなくて困っちゃうよ。」

隣で主婦みたいなことをいって返事を返してきたのはれっきとした中学2年生。俺と同い年の光月未夢だ。料理は個性的なできだけど、その他の掃除や洗濯なんかはしっかりやれてる。途中ドジをしなければって条件がつくけど。10回中8回はドジをしてるからちゃんとやれてるかどうかちょっと疑問だけど。まぁ、なんでこんなに詳しく知ってるかと言われれば、同居してるから。大分お互いのことは分かってきた。いがいと無鉄砲で泣き虫でとても愛情深い。ルゥを見てるときの表情や雰囲気は、遠い昔に失ってしまった母さんを思い出させるくらい。

「雨の日だとワンニャー湿気がつよいせいかなんか2倍くらいに膨らんだんじゃないかってくらい膨らんでるときがあって、あれなんかおかしいよねぇ。私いっつも吹き出しちゃいそうになるんだよー。って彷徨聞いてる?なんかぼーっとしてるけど。」
「あーわり、聞いてなかった。なに?」
「もー、そっちが話しかけてきたんじゃない。・・・まぁいいや。いいこと教えてあげる。今日、夕飯はカボチャ料理にしましょうってワンニャー言ってたよ。なんか雨続きでどんよりしてるからご飯くらいはぱっと好きな物にしましょうかーって。良かったね。」
「へぇ、いいじゃん。でもいいのか?俺だけ。」
「ふふー、かわりにお昼は私の好きなハンバーグで、おやつはみたらし団子だよ。」
「なるほどね。あーだから朝からみんな機嫌が良かったんだな。なんか変だとおもったんだよ。食いしん坊だな。」
「なんですとー!彷徨だってそうじゃない、カボチャって聞いて目輝かせてたじゃない!」
「いいじゃん、カボチャ。世界一うまいだろ。なんで未夢は怒ってるんだ?」
急にプンプンといいそうな剣幕になった隣にそういうとふうと大きなため息をつかれた。「そうだよ、彷徨はこういう人だよ。」と足をとめてぶつぶつつぶやき始めたから「遅刻するぞ」いって促した。
しばらくぱしゃぱしゃ音を立てて走っていたら、車通りのある所に出た。一応なにげなく車道側に場所を変えてしばらくすると、案の定、ひっかけられた。
「わ・・・彷徨、びしょぬれになっちゃったね。大丈夫?」
「やられた・・・。未夢は、大丈夫か?」
「うん、平気。そうだ、私タオル2枚持ってきてるからおっきいの貸すね。」
「サンキュ。あー多分また濡れるから学校で貸してくれ。」
「うん。」


結局、その後も3回引っ掛けられて、学校につく頃にはびしょ濡れになってしまっていた。でも、未夢はあんまり濡れてなかったから、濡れネズミになってしまった割には悪い気はしなかった。
「一緒に学校きたのに、彷徨ツイてなかったねぇ。はい、約束のタオル。」
「助かった、サンキュ。」
「どういたしまして。」
何気なくニコッと微笑まれてドキッとする。こんな風にくったくなく笑うことなんて日常よくあることなのに、最近ふいに未夢の笑顔に胸がざわつくことがある。初めての経験ではあるけど、理由はなんとなく分かっている。でも・・・。

「彷徨くんと未夢ちゃんが見つめ合ってる。・・・あらあら、彷徨濡れてるわよ、私が拭いてあ・げ・る。未夢はやさしいなぁ。そして二人は仲良くタオルの国へラブラブ新婚さん」
ぼぅっと考えごとをしていると、ゴゴゴと背後から恐ろしい気配ともに綺麗なでも怖い声が響いて来た。クラスの皆も引き気味だ。
「ク、クリスちゃん落ち着いて。タオルの国なんてないし、タオルを貸しただけだよ。」
「そうだぞ。タオルを貸してくれただけだから落ち着け。」
ポンと肩を叩くとまるで空気が抜けたようにまがまがしかった気配が消えて「あらあら、私ったらつい我を忘れてお転婆さん。」といって教壇を元に戻したのでほっとした。
「あ、危なかった」
「ほんと、気をつけなきゃね。」
「あぁ」と返事をしながら、力が抜けたようにふんわり微笑む姿から目をそらす。
答えは分かっているけど、はっきりさせないほうがいいときもある。
未夢が家族のように思って穏やかに笑うのをみるのも嫌いじゃない。
自分以外の誰かがさっきの未夢の顔を見たかと思うと腹立たしい気もする。
でも、雨の日にお互いの好きなものを食べあえる家族も大事だから。
もう少しの間はルゥの親代わりをしている間は、穏やかな家族の形を大切にしたいと思う。






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