作:あかり


ぽかぽか陽気の散歩日和の昼下がり・・・



「鳥の羽根だぁ・・・。きれい。ルゥくん、みてごらん。トリさんの羽根だよ。」
散歩がてら今日は広い公園に散歩に来ていた。土曜日で天気もいい日なので、何人か小さな子供連れの家族が何組かきていた。この中にいて、自分と未夢とルゥの組み合わせは親子に見えるだろうか?それとも年の離れた兄弟だろうか?なんて考えていたら、未夢がそんな風にルゥに話しかけていた。
「りっしゃん?」
「そう、トリさん。真っ白できれいでしょ?これがたーくさん集まって飛んでいるんだよ。」
はたから見ていても微笑ましいやりとりは、寄せ集めとはいえ、自分の家族だと思うとなおさらに微笑ましく心ががあったかくなる。
「パンパッ、リッしゃんのねー。」
きっと、「トリさんの羽だよー。」と言っている口調で未夢から手渡された羽根を差し出してきた。その羽根は本当に真っ白な純白の羽根で一瞬、鳥ではなく天使の羽根でも似合いそうだななんて常にないことを思ってしまった。
「そうだよ、ルゥ、鳥さんの羽根だ。きれいだな。こんな風に、パタパタって翼をはばたかせて飛ぶんだぞ。すごいよな。」
「う・・・?」
そういって俺の真似をして腕を上下させたかと思うとふわっと超能力を使って浮かぼうとしたものだから『あ、ルゥ。だめだぞ。』なんて小さな声で言いながらごまかすように高い高いをした。

「ルゥくんは、翼がなくても飛べるんだもんね。不思議に思っちゃうよね。」
人心地ついてから、そんな風に未夢がつぶやいた。
「そうだよな。でも、ここで飛ばれるのはちょっとなあ・・・。」
そういって、未夢の腕の中ではしゃぎ疲れて眠ってしまったルゥのほっぺをつついてみる。
「それは、そうだね。でも、なんだかルゥくんうらやましい。自由に飛べるだよ。好きなところにビューンって飛んでいけちゃうんだよねー。いいなー。ね、彷徨もそう思わない?」
「まぁなあ。でも・・・なんでもない。」
「えー、何よ。気になるじゃない!」
秘密。そういってごまかした胸のうち。今は、翼はいらないなって思うの一言。本当の家族とはいえないけれど、今集まっている4人の生活は居心地がいい。もちろん、親父との2人暮らしに不満があったわけではない。放任ぎみではあったけれど、今思うとちゃんとどこかで自分の事を見てくれている父との生活は、静かでおだやかだった。今はにぎやかな4人暮らし。「秘密」のスパイスはなんだか毎日を楽しくさせる。大変なことも多いけど。
それに、ある瞬間一人だと感じたときの言いようのない寂しさを知っている未夢は優しいのだ。とんちんかんな事を言ったりすることもあるけれど、時々自分の心を見透かしたような一言を言うことがある。そんなとき、ひどく嬉しくなる。自分は淡白だと言う自覚はある。淡白で、大事に持っていたものは掌にのる少しのものだけだ。でも、今ある作り物だけど、本物らしい今の家族は本当に大事にしたいものの数少ない一つだ。今、翼があってどこかにいけるとしても、きっと使わないし、使えない。この4人で一緒に暮らしていける限られた時間を大事に過ごしたいから。だから、翼があったとしても使わない。こんなこと、言えるわけなかった。
「彷徨ってば、けちんぼだよ。」
ぶーっと頬を膨らませている未夢にごまかすようにきいてみた。
「未夢は翼があったらどこに行きたいんだよ。」

「私はね、いろんなところを見てみたいな。あ、もちろん私達みんなでね。それで、パパやママや宝生おじ様に元気だよって言って西遠寺に帰ってくるの。楽しそうじゃない?あ、彷徨から聞いてきたんだから、翼があったらなんてありえないなんていうのはなしだよ。ね、彷徨。私にばっかり聞いてずるくない?やっぱり教えてよ!」

思いがけず、返ってきた嬉しい言葉。自分は翼があったとしても4人の傍に留まることを選んだ。未夢は4人で飛び出して、そして帰ってくることを選んだ。答えは違えど、2人とも4人で傍にいることを選んだことがひどく嬉しかった。
「俺も、それがいいな。」
自然とそんな風に返していた。自然と頬が緩んでしまって、未夢は変に思っただろうなと思う。そんなにへんだっだろうかと返事が返ってこないのでふと横を振り向いた。
「かなっ・・・。えーっと、よきカナ、カナでしょう?」
少し前よりなんとなく頬が赤くなった彼女はなんだかよく分からないことを言っていたから、熱でも出たのだろうかと思って「どうしたんだ、未夢?」とたずねると「知らないっ。」と答えたかと思うと、未夢と俺のやりとりで目を覚ましてしまったらしいルゥに「ルゥくん、ワンニャーのとこいってみよっか?」と言いながら向こうへ行ってしまった。
「気をつけろよ。」
あんまりあわてて去っていくものだから声をかけるといつもの顔で「ころびません。いーっだ。」とやっぱり少し頬が赤いまま返事が返ってきた。『もし、翼があったなら』答えはちょっと違ったけれど、一緒にいたいという気持ちが同じで、そのことがひどく嬉しかった。


その時の未夢は、彷徨ってばあんなに優しく笑うところはじめてみたよ。何あれ!?何あれ!?ああいうのをきっとたらしっていうんだ、きっと。クールでもなんでもないよ。あれはー!!でも、・・・一緒に行きたいって思ってくれたのは、ちょっと嬉しいかも。・・・って何考えてるの私!!とやっぱり同じようなことを思っていたことは神のみぞ知ることだった。




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