【おうちのなかで】 100のお題

V(お題5.6)

作:あかり


005 縁側と猫


― ニャー  ニャー ―


ちっちゃくて、もしかすると聞き逃してしまいそうな声が聞こえてきて、声に誘われて縁側に近づいてみる。そーっとふすまを開けてみたら、先に来ていた彷徨とルゥ君が見えた。
「ほら、ルゥ。猫だぞ、猫。」
「ねー・・・ね?」
「はは、そだなぁ。未夢ならにゃんにゃんとかっていうかな。」
「ニャーニャー。」
「そうそう。」
そういって、ふわり笑った顔はお父さんの顔で、ルゥ君もすごくご機嫌に笑ってる。なんだか私までほほが緩んでくる。
それに、彷徨から『ニャンニャン』なんて単語が出てきたことがなんだか似合わなくて笑ってしまう。気配に気づいた彷徨と目が合って、手招きされる。真っ白い毛並みに、ピンク色の首輪、たぶん迷子の子猫。
「愛想いい猫だろ。迷子みたいなんだけどな。ルゥが見つけたんだよな。」
そう言ってクシャりとルゥ君の頭をなでてる彷徨から一瞬目が離せなくなる。
ふいと目をそらして、なんとなく悔しくなって思いついたちょっとしたいたずら心。
「『ニャンニャン』かわいいね。」
わざと強めに言った『ニャンニャン』の単語。
間をおかずにブッて噴出した息の音が聞こえて、彷徨の頬はなんだかさっきよりも赤く染まっている。「聞いてたのかよー。」なんて言って「あれはだな・・・。」なんて言い訳していて、ちょっとだけ、なんだか嬉しくなってしまった。


006 窓からみる景色


「はー、なごみますなー。」
「そうですなぁ。」
今日はいい天気で、境内でルゥとワンニャーとももかちゃんが遊んでいる。去年の今頃はとても考えられなかった光景だ。目の前には未夢がいて、一緒に課題をやっつけていた。さっきまで。
「3時になったから、ちょっと休憩にしようよー。」と未夢が言ったから、しょうがないなと思って進めていた手を止めてみた。陽気がかなりよくて、ご飯の後で眠気も強かった。
そして冒頭に戻る。
眠気と戦いながらそれでもなんとか手を進めてやっと3時。ほかりと気を抜いた目線の先には平和な光景が繰り広げられていてほっとする。
目の前にいる未夢もそうなんだろう。窓から目線を下に向けると横になった未夢の姿。「きゅーけー」とかなんとかふにゃふにゃ告げると、行儀悪くぱたりと仰向けになったあとにひょいとひっくり返ったのだ。いまは鼻歌歌って窓のほうを頬杖つきながら見ている。
ほんとに無邪気で無防備で、ため息しか出てこない。
いつからか、癖になってしまった「しょうがない」をこっそりつぶやく。もれたのは、ため息ひとつ。
「たしか、お茶請けに煎餅あったよな。俺とってくるから未夢はあの3人呼んどいて。そろそろ入らないとルゥとももかちゃん風邪ひく。」
「はーい。彷徨、気が利くー!!あ、ももかちゃんとルゥ君用のおやつも忘れないでね。」
「はい、はい。」
「ルゥく―ん、ももかちゃーん、ワンニャー、おやつだよー。」
俺のおざなりな返事を未夢もおざなりに聞き流して、カラカラと窓を開けて大きな声を境内に響かせている。流れ込む冷たい空気を感じて振り向くと、窓の向こうに小さく見える楽しそうなルゥたちと一緒に未夢のうれしそうな笑顔がちらりとのぞいていて、わけもなくじわりと体の芯が温かくなった。


お題に挑戦させていただきました。
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