【おうちのなかで】 100のお題

U(お題3.4)

作:あかり


003 軋む階段

「ただいま。」
とっても幸せで、嬉しくてあふれるものがこらえられなくて出てきたのはいつもの挨拶。変かなって思ったけど、でもこの言葉がぴったりだって思った。彷徨は一瞬、びっくりしたような顔をしたけれど、私の大好きな優しい笑顔を浮かべてくれた。
「おかえり。」
返ってくる言葉は私が待っていた言葉。もちろん、私がただいまって言ったときに返ってくるいつもと同じ言葉だけど、でもそれでもすごく嬉しい。だってほら、とってもあったかい気持ちになるから。
西遠寺に帰るときには絶対にただいまと帰ってくると約束したのはもう年単位で昔のことだったかな。もちろん、何度もここには帰ってきた。夏休みや冬休みの長い休みのときだったり、仲のいい友達とイベントを企画してだったり、もちろん、ただ彷徨に会いたくて帰ってきたときもあった。
でも、今日からは特別。いってきますもただいまも毎日言える。
それがすごく嬉しい。
「あのね、彷徨。なんて言っていいか分からないけど、今ね、なんかほんとに帰ってきた気がしたよ。」
「そっか。・・・俺も、未夢が帰ってきたって思った。」
「一緒だね。でも、嬉しいな。もう本当の意味でのいってきますは言わなくてもいいんだもん。彷徨にいってらっしゃいって言ってもらえるのはまたここに来れるってことだけど、離れることには違いないからずっと寂しかったんだ。今日からは、もう違うから・・・嬉しい。」
無意識に緩むほほ、彷徨は一瞬びっくりしたような顔をして「ほんとに未夢はしょうがないやつだな。」ってお決まりの言葉を言った。
胸がしめつけられる感じがするのに、なんだかとっても嬉しくて・・・どうしようもなくてきゅっと目を閉じる。
体が近づく気配とともにキシという木がきしむ音が小さく聞こえた。


004 ひんやりした畳


『ちょっと疲れたな。』
西遠寺にお世話になることになってから変わった学校には演劇コンクールがあって、いろいろあって大きな役をもらっちゃった。前の学校はそういう行事があんまりなかったから新鮮だし、楽しいけれど、大きな役をもらったこともあって慣れなくて少し疲れてしまったなと思う。同居人の彷徨も同じように大きな役をもらっているけれど、なんでもそつなくこなしてしまって、すごいなと思うけど、なんだか面白くないなって思っちゃう。
こんなの八つ当たりだってわかっているけれど。
「ちょっとだけなら横になっててもいいよね。」
誰にともなくつぶやいて、横になる。今日は珍しくワンニャーがルゥ君と一緒に散歩兼、買出しにでかけていて、彷徨も三太君と約束があるのだと朝から出かけていた。誰もいないのをいいことに、ペタリとほほをたたみにつけた。外からは暖かい日差しがさしていて、さっきまで台本を読んでいたからかたたみの温度が頬っぺたに優しい。
ちょっとだけ・・・そう言い訳をして目を閉じた。

夢の中、暗い夜道を歩いていて、歩いても歩いてもやみがまとわりついてくる。ああ、いやだな、いつまで歩いたらいいんだろう。苦しいな、そう思っていたら目の前に小さなろうそくみたいな明かりが見えて・・・。

「未夢、おい。未夢、風邪ひくぞ。・・・ったく。」
近くに聞こえた声と遠ざかる足音。もう一度足音が近づいてきて、ふわり暖かなものに覆われる。寝ている間に下がった体温にやさしい温度。夢見が悪かったせいか、すごくうれしくなる。目を開けて「ありがとう」と告げたいのに、まだ目が覚めなくて。
「無理すんなよ。」
耳に届いたのは小さな声で、それと一緒に足音も小さくなって・・・どうしてかわからないけれど胸の奥がきゅっと締め付けられるような気持ちがした。


お題に挑戦させていただきました。
【おうちのなかで】 100のお題

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