作:あかり
11月の夕暮れは暮れるのが早い。一番星しか見えなかった薄い紺色の空はあっという間に濃さを増して黒へと変わる。
闇の中に輝く星は、小さな小さな灯りなのに、とても存在感がある。私もそんな風に小さな光でいいから何か輝くものを持っていたい・・・なんて思ってしまう。星に対して、ちょっと失礼かなとも思うけど。
「未夢、そんなに空ばっかり見てるところぶぞ。」
「うーん。」
「危ないって、未夢。」
強く放たれた言葉に、すっと視線を声の発するほうへ向ける。ちょっと怒ったその顔は、本気で私を心配してくれてる目だ。大好きな彼の目は光を持っていて、その強さに圧倒される。
「ありがと、彷徨。心配してくれて。」
そう素直に声に出していえるようになったのは、最近のこと。前までは照れくさくって、「いいじゃない!!」とつっかかっていた。今でも、こんな風に素直に言葉を伝えることは恥ずかしい。だけど、強い光を持った彷徨に負けないように、真っすぐに・真っすぐにそう呪文のように心で唱えて「好きだよ。」と言葉で伝えてる。そしたら、彷徨が私に思いを告げるときに強い光で私を照らしてくれるように、「好き」と素直に告げたら私も彷徨に小さくても暖かな光を照らせるんじゃないかな、なんて思いながら。彷徨は、私の言葉を受けて、はっとしたように私を見つめてにこりと微笑んでくれた。そして、ぎゅっと手をにぎってくれた。
「心配なんだ、気をつけろよ。」
そう、優しく声もかけてくれる。私が素直になってから彷徨は前にもまして優しくなった気がする。もちろん、もともと優しかったのだけどもっと拍車がかかったような気がするのだ。
「星、見て帰ろう?」
そう誘うと、「そうだな。」と言って一緒に公園のベンチまで手を引いてくれた。西遠寺の縁側から見る夜空が一番好きだけど、たまには公園や街中で見上げる夜空も捨てがたい。どれも大好きな景色だ。
「・・・星、綺麗だね。」
そう言ってみると、握った私の右手をぎゅっと強く握り返してくれた。
急ごしらえの家族だったルゥくんとワンニャーが自分たちの星へ帰ってもう5年が経つ。私と彷徨は大学1年生になった。左手の薬指には婚約指輪が光っている。両親たちには早いんじゃない?と心配されたけれど、彷徨は「もう5年も待ったんです。」と芯のある声で言い放った。それを聞いたとき、すごく嬉しかった。私も、思いは同じだったから。形式はなかったけれど、5年前から私たちは家族でそれが恋人へそしてこんどは婚約者へと変わるだけなのだと2人で両親達を説得した。それだけ真剣に考えているのならいいだろうと半年がかりの説得はつい、この前成功した。結婚も、彷徨と私の誕生日を待ってからと考えている。式は大学を卒業してからと計画していて、今からバイト代を二人でこつこつためているところだ。ルゥくんやワンニャーもこれたらいいのにねともらすと「そうだな。」と返してくれたのはつい、この前の話だ。
今までも月や星をみてルゥくんと語りかけることはあったけれど、最近はこれまでに増して語りかけている気がする。ルゥくんのことを考えていたらふと、婚約のことを聞いた綾ちゃんに「ルゥくんは、未夢ちゃんと西遠寺くんのキューピットね。」なんて冗談めかして言われたことを思い出した。
「ねぇ彷徨、私思うんだけど・・・。」
「どうした?」
「ルゥくんは私達のキューピットねって綾ちゃんは言ってたけど、私にとっては愛しい子で、守るべき存在でだけど、私や彷徨を見守ってくれるお守りみたいな存在だと思う。」
「守護天使ってやつ?・・・俺にとっては、愛しい子・守るべき存在ってやつに加えて未夢を取り合うライバルでってつくかな。まあ、でもオット星から見えてるかもしれないよな、ルゥなら。なんせ、超能力が使えるんだもんな。」
「だったら嬉しいね。おーい、ルゥくん見えますか?」
ライバルでの響きになんだかドキッとさせられてそれを隠すように星空に向かって手を伸ばして話しかけてみる。聡い彷徨は赤くなったほっぺをひとなでして体をぴとってくっつけてこう付け加えてきた。
「こんなに仲がいいパパとママだからもう泣かなくていいぞー。」
どれだけ一緒の時間が増えても、私はそんなスキンシップに慣れなくて「ちょっと、彷徨。」ってあわてるしかなかった。
夜空で光る100億以上もある光り輝く星達は、キラキラ光りながらその様子を照らしていた。
何年か過ぎた後の二人が、変わらず仲良くいてくれたらいいなーと想像してみました。