帰り道

作:あかり





学校からの帰り道、綾ちゃんやななみちゃんと別れてからのながーい一本道。
いつものよく見る歩き方をする人を見つけた。「みたらしさん」ことワンニャーだ。背中にルゥ君を背負って、両手に買い物袋を5つも持っている。
今朝は、買い物当番の買い物リストを聞いても今日はないですよって言っていたはずなのにどうしちゃったんだろ?いつものへんな歩き方はいつも以上におかしな歩き方になっていて、みててちょっと怖い。思わず駆け出してしまっていた。
「ワンニャー、ただいま。荷物すごく多いけど、大丈夫?」
大急ぎで走ったらすぐに追いついた。
ワンニャーは後ろから突然肩をポンっ叩かれてカチンって音がするんじゃないかってくらいに固まったけど、私の声を聞いてほっと息をついていた。宇宙人だってばれないように気をつけてるのに、急に名前をよばれたものだからびっくりしたんだと思う。その証拠にすぐ「未夢さん、脅かさないでくださいよぅ。」ってふにゃーってした顔で言ってた。とりあえず、重そうな荷物から2つを受けとって並んで帰ることにした。

「いやー、未夢さんに会えて、本当によかったです。さすがにちょっと重いなーと思っていたんですよぅ。」
「5袋も欲張って買い物するからだよ。でも、どうしたの?いつもなら、私や彷徨に買い物を頼むのに。」
「そうなんですよ。油断していました。ルゥちゃまと午後からお散歩に出かけたんですよ。そしたらなんと、ちらしが出ていないお店で開店10周年の記念セールをしていたんです。それが、どれもすごく安くて。私、びっくりしてしまいました。人だかりが出来ていたからお店に入ってみたんですけど、正解でしたねー。お安く買えて、記念品も沢山もらってしまいました。」
ニコニコと笑顔で話しているワンニャーはすごく嬉しそうで、ルゥ君もワンニャーがニコニコするたびに「あーい」って機嫌がよさそう。本当は、ルゥ君も一緒なんだから安くても買いすぎは駄目だよって言おうと思っていたのに、気が抜けてしまった。こんなに嬉しそうなんだし、まぁいいか。


毎日一緒にすごしているはずなのに、会話は途切れない。ルゥ君が私たちがいない間、どんなにいい子で過ごしていたのか、ワンニャーは本当に嬉しそうにたくさんしゃべる。今日は、ご飯をスプーンを持って食べることが出来たんだって。もちろん、ワンニャーも手伝いはしたけれど。「さすがは、ルゥちゃまです。」って言って本当に嬉しそう。もちろん、私だって嬉しいけれど、ワンニャーの笑顔につられて笑ってしまう。


「追いついた。未夢、ルゥ、ワンニャーもただいま。」


ふいに肩をポンと叩かれて、そう言って声をかけてきたのは一緒に住んでいる彷徨だった。
「パンパッ。」
おしゃべりに夢中で、走ってくる足音に気付かなかった。びっくりしてたら「ワンニャー、大きいのは俺が持つよ。未夢も一個それ渡せ。」って声が耳に聞こえてきて、ワンニャーの手から一番大きな荷物と私の重いほうの荷物は彷徨の手に移っていた。一番にいつもどおりになったのは、ルゥ君で、ママ、パパ、ワンニャーって片言で言いながらキャッキャッと笑っている。
「彷徨さん。びっくりしました。未夢さんと話し込んでいたので。」
今日二回目の私のときと同じびっくりにワンニャーは私のときと同じように一瞬カチンと固まってから同じような返事をしていた。
「前に3人が見えてきて、近づいたらワンニャーがすごい歩き方をしてるんだもんな。荷物も多そうだし、なんとなく怖くなって急いできたんだ。」
私がワンニャーを見かけたときと同じようなことを彷徨も言っていて、「私もだよ。」って言ったら彷徨は「同じだったんだなー。」って言って笑っていた。
ワンニャーは、その後、私のときとそっくり同じに「今日はルゥちゃまはご飯をスプーンを持って食べられたんですよ。とてもお上手で、さすがルゥちゃまです。」って言っていて。彷徨も私と同じで、「すごいなー。」って言いながらニコニコしていて、私までつられて笑ってしまった。


長いはずの道のりがあっという間に西遠寺の石段まできてしまった。
おしゃべりしながら長い階段を登って皆でふーって息をつく。
ふと、前をみてみたら、ながーい影法師ができていた。
横一列になっているだけなのに、陰はまるで3人が手をつないでいるみたいに重なっている。
もちろん、みたらしさんの横には頭がもう一個出ていて、「ルゥ君、みんなで握手してるみたいだよ。」って言ったら、すごく嬉しそうに笑って一緒に影も左右にゆれた。
私の横を歩いていた彷徨は何も言わなかったけれど、笑って腕を少しだけ上に上げて、影がほんとに握手をしいるみたいにしてくれた。
それだけのことなのに、なんとなく体の芯がほっこりぬくもってくる気がした。

カラカラと音がする玄関をあけて外よりもあたたかな西遠寺の中にはいる。
「ただいま」
誰もいない家の中、それでも3人のただいまの声が西遠寺の玄関に響く。
皆で顔を見合わせて「おかえり」って言い合って笑顔がこぼれた。



どうかもう少しだけ、この4人の「ただいま」の時間が続きますように。



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