20

作:あかり



「わぁ、綺麗。今日って成人式だったんだ。」

ワンニャーに頼まれた買い物当番。特売だからとワンニャーに渡された買い物リストは上から下までぎっしり買ってきてほしいものが書いてある。あまりの量の多さに未夢が「しょうがない、私も言ってあげる。」と言ってくれたので正直助かった。頼まれた店までの道、いつもは見慣れないけれど、行く先々で振袖姿が見えた。

「連休だったけど、何の日かとか俺も忘れてたな。」
「私も。でも、いいなあ。どの振袖もすごくきれい。私も早く着たいな。」
「だいぶ先の話だな。」
「いいじゃない。みんなすごくきれいだから私も着たくなったんだもん。」
「お前が着たら七五三になりそうな。」
「なんですとー!!」
「そんなことより、ほらついたぞ。」
「もう、来てあげるーなんていうんじゃなかったな。彷徨ってほんと意地悪。」

ぶつぶつ文句を言って頬を膨らませている様子を見ているとやっぱり七五三がぴったり似合うなんて思ってしまう。
今14歳の俺たちにとって、20歳なんて6年も先の話でどうなっているかなんて想像もつかない。
さすがに、ルゥやワンニャーはオット星の迎えが来ているだろうし、未夢もまさか西遠寺にいることはないと思う。皆離れ離れになっているだろう。ワンニャーはもう成人しているのかどうかよく分からないけれど、ワンニャーのじいちゃんがきたときに見た姿かたちはひげや白髪が増えてはいたけれど大きくなったりはしていなかったからきっとあれで成人の姿なんだろうと思う。だから何年たっても彼だけは思い浮かべることが出来る。
でも、赤ちゃんのルゥは、これからどんどん大きくなるのだ。いったいどんな大人になるかまったく想像がつかない。
未夢も多分、大人になったら化粧とかして、髪型も変わってきっと変わっていくんだろう。


そう皆変わっていくのだ、俺がいてもいなくても。
すっと胸が冷える思いがして立ち止まる。


「彷徨、ほんとにカボチャ好きだねぇ。でも今日はだめだよ。ワンニャーに頼まれた分だけですっごく量が多くて重いんだから。」
はっと未夢の声にわれに返る。考え事をしながら歩いていたせいでぼーっとしていた。でも、そのあいだにも未夢がワゴンの中にぽんぽんリストのものを入れてくれていたみたいで半分はかごが埋まっていた。
「悪い、ぼーっとしてた。」
「カボチャが見えたからどんどんカボチャの方にいったんだと思ってたよ。彷徨が買い物当番なんだから、これからはしっかりいれてってよ。」
「悪かったよ。」
「じゃあ、冷凍庫のアイス一個頂戴ね。」
「やだ。」
「ケチ!!でも、彷徨がぼーっとしてるなんて珍しいね。何考えてたの?」
「いや、さっき成人の日だって話してただろ?ルゥが成人する時期にはどんななんだろうと思ってさ。」
きょとんとした顔をして、クツクツと笑い出した。
「まだ、自分だって成人していないのにルゥ君のこと?変なの。なんだかおじさんくさいよ、彷徨。でも、パパだねー。」
「なんだよ、笑うなよ。思っちゃったんだからしょうがないだろ。ワンニャーはきっともうずっとあの姿でじいちゃんになっていくんだろうなーとか思ったらルゥが4人の中じゃ一番変わるだろ。」
「ワンニャーのおじいちゃん、ワンニャーにそっくりだったもんねー。なんかおかしい。でも、そうだね、ルゥ君大きくなったらどんな風になるんだろうね?」
「な、気になるだろ?」
「うん。きっとさ、宇宙船からの連絡あったときにうっすらしか見えなかったけど、お父さんに髪型とか似てたよね?なんとなく彷徨にも似てたけど。だから、彷徨っぽい感じの中学生になって、それからあのお父さんみたいになるんじゃないかな?・・・なんかいやだな。性格は彷徨には似てほしくないな」
「なんだよそれ。でも、確かにどっちかっていったら親父さんに似てる感じだったな、ルゥは。髪の色はお母さん譲りって感じだったな。ちょっとだけ未夢に似てないでもなかった気もするけど。雰囲気は全然違ってたな。絶対に怒りっぽくはなさそうだったもんな。」
「なんですとー!!」
「ほらな。」
「やっぱり意地悪。ルゥ君には女の子には優しくするのよって言っておくんだから。」
「はい、はい。ほら早く買い物終わらせようぜ。ワンニャーもルゥも待ちくたびれちゃうぞ。」
「はーい。」



頼まれたたくさんの荷物。俺も未夢も両手がふさがった。西遠寺までの道のりは近いようで結構遠い。
半分まできたところで未夢の腕に限界が来たみたいでちょっと休憩と公園に寄った。

「ワンニャーったら特売だからってこんなにたくさんまとめて買わなくてもいいのにねぇ。あぁ、腕がしびれた。」
「ほんとな。な、自販機あるからちょっと何か飲もう。俺買ってくる、未夢は何がいい?」
「じゃあ、ココア。」
「了解。」

コーヒーとココアの缶を一個ずつ、両手に持つと手袋越しでも温かい。歩き通しで疲れた体も少し休むと冷たい空気ですぐ冷えてくる。両手の温かさがジワーッと沁みる。
「ほれ、ぬくいからあったまるぞ。」
パチンとプルトックを空けて未夢にココアを渡す。
「ありがと。(・・・やっぱり、彷徨みたいな中学生でも良いかもね。)」
「なんか言ったか?」
「なんでもなーい。ね、彷徨はどんな大人になりたい?おじさまみたいなお坊さん?」
「何だよ急に。」
「急じゃないよ。ほら、ルゥ君が大人になったらとかって言うさっきの続き。彷徨はどうなのかなっておもって。あんまり聞いたことなかったなぁって。」
「さっきの続きねぇ。まぁ、跡取りは俺しかいないから、たぶんついでほしいんだろうなとは思うんだけど。正直、あんまり坊さんになりたいとはしっかりとは思ってないんだよな。こんなこと言ったら親父は泣き出しそうだけどさ。」
「多分、本当に泣いちゃうよ、おじさま。でも、夏にこいしいわの妖怪さんたちのことがあったときはなんか唱えたりしてたよね?袈裟もきてたし。」
「あれは、まぁ毎日聞いてたから覚えてただけというか。袈裟もご利益があるかと思って着てみたんだよ。・・・もちろん、西遠寺の住職になることもひとつの未来だけど今は、もっと世界を見たいなと思ってるんだ。まだ漠然としてるけど、宗教学を専門にしてる大学に言ってほかの宗教のこともきちんと知ってから西遠寺にもどるかどうか決めようかなって。」
「え、もう大学のことまで決めてるの?」
「いや、まだ決めてないしそういうのも有りかなって思ってるだけだ。」
「・・・やっぱり彷徨は先のことまで考えてるんだねぇ。」
「お前は考えなさ過ぎる。で、おまえは?」
「私?私はそんなのは全然。でも、保母さんとかもいいなぁって思ったりしてるよ。ルゥ君とあって、はじめて赤ちゃんに接したでしょ?なんか、成長見ていくの楽しいし、こっち来るまでは機会がなかったからわからなかったけど、結構小さい子好きみたい。」
「へぇ、未夢もちゃんと考えてるんだな。でも、おまえ小さい子に逆に遊ばれそうだよな。ももかちゃんとかにはよく遊ばれてるよな。」
「うっ、それはいいの。・・・でも、そっか。彷徨もなんだかんだ言って西遠寺が好きなんだね。しっかり思ってないなんて言っても前向きに検討中って感じだね。じゃあ、もし彷徨が西遠寺の住職さんになったときには、絶対見に来なくっちゃね。でも、坊主は彷徨にあわなさそうだね。」
「おまえ、何想像して笑ってるんだ。」
「いや、なんか、ハロウィンを思い出して。坊主は似合わないねー。」
「じゃあ、おれも子供に遊ばれている未夢を見に行かなくちゃなー。絶対からかってやる。」
「えー意地悪。大人になっても彷徨は意地悪なまんまってことだね。嫌だなー。」
「おまえはずっとお子ちゃまなままだなきっと。」
「なんですとー!!」


プンプンとずっと先の未来のことで怒っている未夢をみてるとなんだか無性に笑いたくなってきた。プハッと息を吐き出すとつられたように未夢も笑い出した。
無性に嬉しかったから。皆変わっていくけれど、遠い未来でも自分の様子を見に来なくちゃと未夢が言ってくれたことが。気負いなく、当然のようにそんな風に言ってくれたことが本当に嬉しかった。遠くない未来に離れ離れになることが決まっているけれど、離れたとしてもまた会いに行けばいいんだ言われたような気がして。
「さて、体もあったまったし、帰ろうぜ。」
「うん。あ、ねぇ彷徨。もし、20歳になってルゥ君が西遠寺に成人したよって遊びにきたときにはちゃーんと私も呼んでよ。絶対にお帰りって言ってあげるんだから。」
「はいはい。何年先でもちゃんと呼んでやる。」
約束しよう、皆でまた再会できるって信じてるということを。
そのときもきっと4人はつながってる。







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