作:あかり
ナニがどうしてこうなったのか、ちょっと分からない。でも、間違いなく私は、ピンチだ。
中学2年生のときにお世話になったお家の・・・いや実際にお世話になったのは彼が大きな部分をしめるけど。とにかく、お世話になった彼「西遠寺彷徨」クンは現在私のいわゆる彼氏で、意地悪なところはあるけど申し分なく思ってる。でも、どうしてその彼氏に私は問い詰められてるんだろう?
「光月未夢さん?俺言ったよね、ちゃんと遅くなるときは迎えを頼めって。」
「う、うん。でもね、まだお店出たときは9時なったばっかりだったし、そんなに遅くならないかなーって・・・彷徨にも悪いし。」
「9時に向こうを出たってことは、こっちに着くのはどうがんばっても10時ころになるよな?西遠寺は町のはずれなんだから、電球も少ないよな?お前もいつも怖いって言ってたはずだけど?それに、9時過ぎにつくようならちゃんと連絡しろっていってたし、携帯もちゃんとチェックしろっていったよな?」
「う、うん。でも、皆も一緒だったし・・・」
「でも、でもってもう言い訳は聞かないぞ。どれだけ心配したと思ってるんだ。だいたい、お前、冬休みの間ははうちで預かってるんだからちゃんと保護者の意見をだなあ。」
「保護者って言っても、同じ年じゃない!それに、保護者じゃなくて、か、か・・・。」
「か、何だって?ん?どうどうと言えないんだったら、彼氏じゃなくて保護者だろ。いつも面倒見てるんだから。な、彼女の未夢さん?とにかく、今日は絶対に許さん。だいたい、今日で3回目だぞ、ペナルティーだな。」
「なによー彷徨の意地悪!!ばかー!!」
「意地悪で結構。だいたいね、未夢は夜歩くことに危機感なさすぎなんだよ。・・・」
延々と続く耳にいたーいお説教。
ことの始まりは冬休み。中学を卒業して、高校生になったけど、まるで毎年そうしていたかのように長期休暇は毎回西遠寺にお世話になってる。もちろん、夏もお世話になったし、今度の冬もこっちにって思ったから泊めてもらってる。
1年しかいなかったけど、仲のいい皆はよく遊んでくれる。やさしい時間が流れている西遠寺が大好きだし、それに、一番の理由はいつもは離れてる彷徨のそばにいれる。冬休みが始まって、年末は私たちも西遠寺に行くからねって両親と分かれて、西遠寺に帰ってきた。
デートももちろんしたけど、のんびり西遠寺で生活するのも楽しい。大掃除したり、年越しの準備をしたり、そういうことを一緒にできることが楽しい。
他にも、ななみちゃんや綾ちゃんとお茶したり、クリスちゃんのお家に泊まりにいったり。
そう、皆とガールズトークしてたら時間がたつが早いのを忘れてただけ。たった3回ばかり西遠寺に帰る時間が遅くなっただけだ。それだけだったのに、「ただいま」って言って寒いなか、頑張って西遠寺の階段を上がってきて明かりのついた玄関を開けたそのとたんに「おかえり」の言葉もなしにドアをぴしゃりと閉じられて手をつかまれた。あったかいなんて思う間もなく「冷たい!!」って大きな声を出された。さっきまで外にいたから当然なのに。それから、ぐいぐい引っ張られて、やっとの思いで靴を大急ぎで脱いだかと思ったらコタツに問答無用につっこまれた。そして、向かい合わせに座って怒られてる。・・・理不尽だなって思う。本当に。
だいたい、彷徨は過保護に過ぎる。前はあんなにぞんざいだったのに。
「なに人事みたいな顔してんの。俺が怒ってるのは、未夢のことなんだぞ。」
「分かってるもん。彷徨ってばパパみたい。」
「俺は、お前の親父さんじゃないぞ。」
「そうだよ、・・・か、彼氏だもん。」
「彼氏が彼女の心配して何が悪い。だいたい、夜は物騒なんだから用心して何ぼだろ。」
「開き直りですか?」
「そうですよ。危なっかしくて見てられん。」
そう言って、向かいに座っていた彷徨はあったかいコタツから出たかと思うとこっちのほうにやってきた。本格的にお説教が長引くかと思って首をすくめたら、後ろからぎゅっと腕を回された。あったかいけど、抱きつかれてるせいで身動きが取れない。
それに、こんな風にされたのは初めてで、ちょっと緊張する。
「か、彷徨?」
「ほら、こんな風に抱きつかれたら振り払えないだろ。」
「彷徨だからだもん。」
「こんなことされる相手が俺じゃなかったら大問題だ。・・・とにかく、俺が心配だから呼べ。」
そう言って、するっと腕をはずされた。なんとなく、ほっとする。頬に熱が集まってるのが分かって、彷徨も一緒だろうかと思って伺うように見上げると思ったより真摯に見られていてびっくりした。だから、本当に心配をかけたんだって分かってするっと「ごめんなさい」の言葉が出てきた。
「心配かけてごめん。」
「分かったならよし。」
「でも、なんかずるい。」
「はぁ?」
「私ばっかり、ドキドキしてバカみたい。悔しい。」
そう言ったら、彷徨はむっとしたみたいに額にしわを寄せて、そっぽを向いてしまった。これは照れてるしぐさだ。もう3年一緒にいるから知ってる。でも、なんでだろ?
「バカそんなわけあるか。」
「バカじゃないもん。それに・・・」
「・・・ああ、もう。」
そういって、手をとられて彷徨の心臓の辺りにもってこさせられる。トクトクとわかる拍動は多分早い気がする。いつもの心音なんて知らないけど。
「分かったろ。・・・ああ、もう恥ずかしいな。」
そう言って、握っていた手はそっと離された。いつもと同じような顔だけど、横を向いたその頬はなんとなく赤い気がする。
「よかった。」
つい、出てしまった言葉に怪訝そうな顔をされる。でも、なんだか不安だった。離れていること。それに、前にお世話になっていたときもそして今も。仲のよい3人の話を聞いている限りでは彷徨は今も昔も、もてる人だ。好きだって言ってもらったけど、いつもドキドキしてるのは自分だけな気がして、だからほっとした。
「彷徨もドキドキしてるんだなって分かったから、なんかほっとしちゃった。」
恥ずかしかったけど、そう言ったら一瞬、ぽかんとした顔をした顔をしたかと思ったら、「ずるいのは未夢だ」とかなんとか言ってほんの一瞬抱きすくめられる。
さっき後ろから腕を回されたときとは違う力強さで。
すぐに腕は離れていって、「ご飯以外の担当は休みの間未夢だから。それに、送り迎えは毎回することにする。文句は受け付けないからな。」って全然嬉しくないことを言って、彷徨は足音をたてて部屋から出て行ってしまった。
嬉しくないことを言われたのに、なんでか頬に熱が集まるのを抑えられない。
やっぱりずるいのは彷徨だ。
「未夢はすぐ顔にでるから、何かしたらすぐに分かるからね、彷徨君。」
冬休みが始まる少し前、未夢が西遠寺にお世話になるからその前に荷物を持っていくねと未夢と両親が訪ねてきた。優さんと二人っきりになったときに言われた言葉。
笑顔で言ってはいたけれど、笑顔で言われたからこそ背中が寒くなった。
2年も付き合っているのに、手をつなぐだけですぐに赤くなる未夢。
それなのに、自分がいる中で居間で寝こけていたりする。無防備すぎてかなり困る。
今回だって、夜遅い時間に夜道を長時間歩いて帰ってきたのかと思うと肝が冷える。
冬休みに入る前、年末は変な人も増えるので、気をつけましょう。女子は特に夜は出歩かないようにとか先生が言っていたのだ。夜9時を過ぎても連絡がないから、こちらから連絡を入れるのに返答がない。一緒に遊んでいるはずの二人に連絡をとるとそろそろ帰り着くころだといわれたのが10分前あと10分まっても帰ってこないなら今度こそ探しに行こうと思っていた。そんな時に、のほほんと帰ってきた未夢。
俺がどんなに心配したかなんて考えてもみないんだ。
危ないってことを分からせたくて、抱きしめて動けないように捕まえてみたらカチコチに体を固まらせてた。抵抗の言葉もなく。まったくもって無防備すぎる。
そのくせ、無意識に自分を煽ってくることがある。
さっきも、「ドキドキしてる」とか頬を染めて言って、上目遣いでこっちをみてきた。
絶対に、こちらが心臓を鷲掴みにされたような気分を味わったなんて思ってもないに違いない。
本当にしゃくに障る。
冬休みの間の家事ほとんどを未夢担当にしたとしても、まったく割に合わない。
未夢は「ずるい」って俺のことを言っていたけれど、ずるいのは、絶対に未夢のほうだ。