笑顔

作:あかり



クールでかっこいいと何かと周りに騒がれる同居人。確かに、成績優秀でスポーツ万能おまけに容姿がいいけれど『本当にクールかな?』といつも思う。
「ルゥ。ほーら、たかい、たかーい。はは。ルゥは飛べるけど、やっぱりこれ好きなんだなー。」
先ほどから縁側で赤ちゃんのルゥくんをあやしている彼は、始終笑顔でとてもクール=冷静には見えない。どちらかというと、『親バカ』という言葉のほうが似合うと思う。本当の親子ではないけれど・・・。
「なんだよ、未夢。さっきからこっちにらんで。あぁ、お前もルゥと遊びたいんだろ?こっち来いよ。」
「きゃあ、マンマッ。」
ニコニコと笑顔で2人並んで私を呼んでいる。見当違いの考察つきで。それでも、なんだか私は嬉しくなって、「うん。」と答えてルゥくんをあやす。彼の隣で。そこに、「私も入れてくださいよ〜。」と間延びした調子でワンニャーがはいってくる。いつもの西遠寺の光景だ。

「未夢、おっはよ。」
「未夢ちゃん、おはよー。劇のネタないかなー?」
「おはよう、ななみちゃん、綾ちゃん。残念ながらネタはないよー。」
「西遠寺君は相変わらずモテモテだねぇ。」
今日も今日とて、彷徨は大勢の女の子に囲まれていた。未夢からみると、非常に不満そうな顔に見えたが・・・。友人二人は「今日もクールだねぇ。」と言う。
私は、クールというよりわりと感情に正直な人だと思うのだけど。今だって、周りの女の子たちに囲まれて大口は空けられないからあくびをかみ殺している。
昨日、ルゥくんがめずらしくなかなか寝付いてくれなくてワンニャーだけではどうにもできずに3人で子守唄にだっこをしていたのだ。やっと寝付いたときには夜半を過ぎていたから、もちろん私だって眠い。朝、学校に行く途中「今日は、一日頑張んなきゃなー。」そう隣から聞こえた声はとても優しかった。家族と離れて過ごしている今、人肌を感じる最たる人が彷徨・ルゥくん・ワンニャーで、父と離れて暮らしている同じ年の彷徨は、私にとって温かな存在だ。本人には絶対言わないけれど。

今日は体育が午前中の最後にあって体力測定の最終日。残った種目はマラソンだ。本当は、昨日しっかり眠っておきたかったけれどこればっかりは仕方がない。
5月の陽射しは優しいとはいえ、60分は結構長い。優しく感じていた陽射しもだんだん強く感じてきた。「一緒に走ろう。」と約束はしていたものの、体力がない私はついていくのがしんどくなってななみちゃんや綾ちゃんに先に走ってもらう。歩いてはいけないから、結構しんどい。彷徨達男子は、先に走り終わってしまって今は次の授業で予定されてる走り幅跳びを練習している。陸上部も混じっている中で彷徨はやっぱりうまいほうにはいるようで、跳ぶと歓声があがっている。グランドに響く声から2位の成績のようだった。自分との違いをいやと言うほど見せ付けられる。目をそらして、走ることだけを考えることにした。後、1週で終わり。息が上がって苦しいけれど、残りが見えてくると頑張れる。後半分・・・あと1/4・・・ついた。
ゴールについて、一息ついて「疲れたね。」と近くに来てくれた友人に声をかけようとして周りが暗くなった。「未夢っ。」遠くで彷徨の声が聞こえた気がした。

「貧血に寝不足かしらね。あなたたちの年頃は多いのよね。小さい子がお家にいるみたいだから寝不足になることもあるかもしれないけれど、保護者がいるんだから、子供のあなたたちはしっかり休息をとらないとだめよー。・・・あら、気付いたみたいね。光月さん、気分はどう?」
「未夢、大丈夫か?」
「うん。彷徨が運んでくれたの?」
「あ・・・うん。」
「ありがとね。・・・でも、私何で保健室にいるの?」
「マラソン中、ゴールについてから体力尽きて倒れたんだよ。・・・覚えてないのか?」
「あ、そうか。着いたって思ったら目の前が暗くなったんだった。」
「・・・それだけ話す元気があったら大丈夫ね。」
意識していなかった声に驚く。保健室の先生は『しょうがないなぁ。』と言う顔でにっこり笑っていてなんだか頬が熱くなるのが分かった。
「先生っ!!」
「どうしたの?顔、真っ赤よ。二人とも。」
「からかわないでください、先生。」
珍しく感情を表に出して話す彷徨がおもしろくて、つい顔をみると目が合って、なんだか恥ずかしかった。
「あー、もう。はいはい、若いっていいわねぇ。さ、そろそろ昼休み残り少なくなっちゃうから、お昼ちゃんと二人ともしっかり食べなさいよ。また倒れたりしたら大変だからね。」
「はーい。」
「じゃあ、教室いくぞ。」
「・・・あれ?彼方は食べてきたんじゃないの?」
「心配でご飯も喉を通らなかったのよねー?」
そう、茶々をいれてきた先生の言葉で心配をくれたのだと嬉しくなる。保健室を出ながら「驚いたんだからな。お前、とろいんだし、気をつけろよ。」顔をそらして告げられる。
ぶっきらぼうに投げつけられる言葉たち、いつもならなんだか腹立たしくなって言い返してしまうけれど、今日はちゃんと心配しているのがわかって嬉しくて「ありがとう。」とにっこり笑って告げる。彷徨は一瞬すごく驚いた顔をして、それから、ルゥくんやワンニャーに見せるような、でもそれとは少し違った顔で「どういたしまして。」とほほえんで返してくれた。
子の笑顔は私だけの知る彷徨の笑顔だなと思うと胸がはずんだ。



天邪鬼なところのある二人だけど、日常ではちょっと素直になった場面もあったのではないかなーと想像です。
誤字や読みにくい箇所があったらすみません。



[戻る(r)]