たった2文字の“好き”という言葉

作:北条 愛淋


なんだろう…この気持ち…
私ね…貴方の傍にいると…胸が高鳴って…素直になれなくて…


お前は気づいているだろうか…?
オレの気持ちに…
お前の髪の香り…白い肌…サラサラの長い髪…

お前は…いつ…気づくだろうか…?



「…ふぁ〜…ぉはよ〜…」
ワンニャー・ルゥ・彷徨のいる居間に入って朝一番の挨拶をする。
「おはようございます〜」
「まんまっ!」
「おそよ…ねぼすけ未夢ちゃん」
「・・・・・・・<ピキッ」
未夢の眉が引きつったのに気がついて、慌ててワンニャーがフォローを入れる。
「み、未夢さん!朝ごはんできてますから、早く食べちゃってください…!」
「うん。ありがと、ワンニャー」
未夢は笑顔で返すが、やはり顔が怒っている。簡単に言うと、口元は笑っているが、目が笑っていない。
「さ、ささ、ルゥちゃま、お部屋で本を読んであげますね〜」
「だぁ!」
すたこらと、逃げる様にして、ワンニャーはルゥを連れて居間を後にした。
「で?」
「でって?」
「朝一番に言う挨拶が「おそよ」ですって?他に言う事あったでしょ!」
「お前、ちゃんと時計見ろよ、朝一番の挨拶って言っても、もう昼だぜ?」
彷徨は時計を指す。その指の先を辿る様にして、未夢は時計を見る…

『11:46』

「う…。そ、それは…こ、この前の体育祭とかで疲れてたの!」
「体育祭は2週間前だぞ。この前も同じ事言ってたよな?こりねー奴…」
「いいじゃない!せっかくの休みなんだし、ゆっくり寝ても!」
未夢は、ぷぅっと頬を膨らまして言う。
(あー…すぐそういう顔する…オレが、その表情に弱いの知っててやってるのか?…否、未夢には有り得ないな…恐ろしいほどに鈍感だし…ったく…悩ませてくれるよなぁ…)
しばらく黙り込んだ彷徨に未夢は不思議に思い、顔を覗かせてみた。
「どうしたの?彷徨…」
首を傾げながら言う未夢の声に彷徨は我に返った。
「わっ///なな、なんでもねぇよ。」
彷徨が慌てて後ろに、ずり下がる。
また不思議に思った未夢が詰め寄る。
「私に言えない事?」
「なっ///なんでもねーから。ほ、ほら、メシ食わねーと冷めるぞ!」
「あ、そうでした!…いっただっきま〜す」
未夢はクルッと方向転換すると、ちゃぶ台の前に座ってご飯を食べ始める。
(心臓にわりーっての…///)
彷徨も、クルッと方向転換して自分の部屋へ向かった。

すると、

―ダダダダダダダダダダダッ!

廊下を物凄い音で走る足音。

「未夢さん!彷徨さん!…あれ?未夢さん、一人だったんだすか?」
「へっ?彷徨なら、そこに…あれ?さっきまでいたんだけどな…」
「そんな事よりですね〜♪」
ワンニャーが、やたらと上機嫌だ。
きっと、またスーパーで安売りか、みたらし団子の事だろう…と未夢は、ふと思ったが、口には出さなかった。
「どうしたの?機嫌いいね、」
「そうなんですよ〜、今日ですね〜、平尾町デパートのロビーで、『みたらし団子大食い大会』があるそうなんですよ〜、行って来てもよろしいでしょうか?」
「私はいいけど、彷徨にも聞いておいでよ。」
ああ、やっぱり…と思いつつ、食器を片付けながら返事する。
「ありがとうございます〜、では彷徨さんの所にも…」
「あ、そうだ、ワンニャー…って…もういないし…」



―トントン

彷徨の部屋の扉を叩く者に向かって、一番最初に浮かんだ人の名前を呼んだ。
「未夢か?」
「いえ、わたくしです。」
「なんだ、ワンニャーか…いいよ、入って。」
返事を返すと共に、ワンニャーが入ってきた。
「未夢さんじゃなくてスミマセン〜」
「あ、いや、べつに…そういう意味じゃ…で、何?」
「今日、平尾町デパートで、みたらし団子大食い大会があるんです〜。それで行って来てもよろしいでしょうか?」
「いいけど、ルゥはどうするんだ?」
「もちろん、ルゥちゃまも連れて行きます。」
「ま〜、ゆっくりしてこいよ。」
「はい、では…ワンニャー!」
ワンニャーは、親戚のお兄さんこと、みたらしさんに変身した。
「この身体だと、沢山食べられるんですよ〜、では、行って来ます〜」
ワンニャーは彷徨の話も聞かずに、西遠寺を後にした。
「さて…居間で本でも読むかな…っと…」
彷徨が本を持って居間へ行くと、未夢がテレビを見ていた。
「おい、未夢。」
彷徨が声をかける…が未夢は無視。
(さっきのまだ根に持ってるのか?)
「未夢ちゃ〜ん…」
いつもと違う呼び方に、ピクッと反応したが、やはり無視。


カチコチカチコチカチコチ…


時計の音と、バラエティ番組の笑い声だけが響く居間。
少しは機嫌直ったかな?と思い、
彷徨は、もう一度声をかける事にした。
「なぁ、未夢…」
「………」
また無視か…
仕方ねぇ…最後の手段としますか…。
彷徨は音を立てず立ち上がり、未夢の背後へ場所を移った。
そして、すくっと座りこんだかと思いきや…
―どたっ
「ひゃッ!…かかかか彷徨っ///」
「ん?」
「なな、何かな?この体勢は〜///」
未夢は必死に顔が赤くなるのを我慢する。
「見ての通り・・・」
「じゃ、じゃあ、この手は?///」
「だから、見ての通り。」
彷徨は平然とした表情を保つ。
「離してよ〜///」
「ヤダ、」
「何でよ///私何かした?」
今の体勢は、簡単に言えば、彷徨が未夢の上に覆いかぶさっていて、ついでに未夢の頭の少し上に両手を片手で押さえつけている。
成長期の中学生の男女の力の差は歴然。
未夢の両手を彷徨は片手で押さえれるくらいだ。
「未夢がオレを無視したから。仕返しついでに、おしおきしなきゃな?」
彷徨はニヤリと笑って言う。
「う…っ…ん〜〜〜く〜〜〜」
押さえつけられた両手首を必死に離してもらおうと、力を入れる。
だが、彷徨の身体は愚か、手さえ動かない。
「これでも力弱めてるんだけどなぁ?」
意味ありげに彷徨は言う。
「ふっ…く〜〜〜…はぁ…動かない〜…」
「力で敵うわけないじゃん?」
「・・・・じゃあ・・・」
未夢はしばらく考えたあと、
最後の手段を実行しようとした。
その手段というのは・・・

「・・・っ・・・」
男性の大事な所を蹴り上げる、それしかなかった。
彷徨が力を弱めた隙に、未夢はパッと手を振り払う。
「力で敵わないなら、行動あるのみっ☆」
どうよっ? と言わんばかりに、腰に手を当てて胸を張る。
「さ〜てとっ、部屋で雑誌でも読もーっと。」
未夢が居間を出ようとしたとき、

ズッテーン☆

未夢は扱ける。
実は、彷徨に足を掴まれたのだ。
「い、いった〜いっ!何すんのよっ〜」
「行動あるのみっ☆って未夢が言ったんだろ?」
「し、知らないっ!変態欲望彷徨っ!」
「お前さ、今の状況分かってんの?」
「へっ?・・・・・・・あ、あはは〜」
とにかく苦笑い。


続く



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