作:紅龍
「つなぐ」の続編みたくなってます。
が、読まなくても大丈夫なようには作ってあります。
「「ただいま〜」」
玄関の開く音と共に、ばたばたと居間の方からワンニャーとルゥが飛び出してきた。
「おかえりなさい、未夢さん彷徨さん。」
「マンマ、パンパ、きゃ〜いv」
「なんだ?ずいぶんご機嫌だな、ルゥは」
未夢に抱かれニコニコと笑顔のルゥの頭をなでながら、彷徨がワンニャーに聞いた。
「ルゥちゃま未夢さんと彷徨さんがが帰ってくるのを、今か今かって待ってたんですよ。
よっぽど一緒に遊びたかったんでしょうね。」
そういうワンニャーも何だかウズウズとやる気を出している。
「そっか。じゃあ、着替えてくるからもうちょっと待っててね。」
二人が着替え終えて庭に出ると、ルゥとみたらしさんに変身したワンニャーが
おいかけっこをしていた。
未夢たちに気が付いたルゥが飛んできて、ワンニャーも後に続く。
彷徨が昨日書き上げたノートを広げる。
(律儀にも昨日説明した遊び等書き出していたのだ。)
「さて、何して遊ぶんだ?」
「かくれんぼは、ももかさんがよくルゥちゃまとする遊びですね。
この鬼とついてるものは鬼ごっこでしょうか?」
「そうそう、ルールがそれぞれ違うんだよ。高いところに上ってる間は鬼が手を出せないとか
鬼が指定した色を触ればセーフとか。鞠つきとかけん玉、おはじきにゴムとかは
道具を使うやつだけど、彷徨、おはじきとか持ってる?」
未夢がワンニャーに説明しながら、後半は彷徨の方を見ながら確認する。
彷徨はううん、と首を振りながらも視線はノートに集中していた。
こんな時は何かを考えている時なので未夢もワンニャーもしばらくだまって待つ。
「だるまさんがころんだ、でいいんじゃないか?ルゥもこのくらいなら出来るだろうし」
「そうだね。ワンニャー、ルゥくん。ルールの説明をするね。
まず鬼になった人がだるまさんがころんだって数えて・・・」
ルール説明が終わったところでまず一回目、ワンニャーはまず体験してみる、
ルゥは鬼は無理なので除外。残りの彷徨と未夢でジャンケンをし、負けた方が鬼。
ということで、まずは負けた未夢が鬼でスタート。
「「はじめのい〜っぽ」」
掛け声と共に彷徨とワンニャーが前へ出る。ルゥは一瞬だけ浮いて彷徨のまねをする。
「だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だ」
バッと振り向いたところで全員停止。
歩く姿のままの彷徨、地面にちょこんと座っているルゥ、片足上げたままのワンニャー。
じーっと観察していた未夢だったが、誰も動かない為あきらめて木に向かって数え始める。
「だ・る・ま・さ・ん・が・ころんだ!」
語尾だけ早口にし、バッと振り返る。
あわあわと、バランスを崩しかけドタンと尻餅をつくワンニャー以外は涼しい顔だ。
「はい、ワンニャー。こっちに来てつながってね」
「とほほ、ルゥちゃまがんばって下さい」
未夢に片手をつながれ、涙目になるワンニャー。
「ではいきますぞ。だ〜るまさんがこ〜ろんだ!」
今度こそ!と思いながら未夢が振り返った先には、だいぶ近くまできた彷徨の姿と
その頭の上にいたルゥ。
「なかなか、しぶといですなぁ。よーし、だ・る・ま・さ・」
途中まで言ったところで右手に衝撃が来る。ワンニャーとの連結を切られたのだ。
「ワンニャー、ルゥ。できるだけ遠くに逃げるんだぞ。」
未夢が数えている後ろで、彷徨が走りながらルゥ達にルールの補足をする。
逃げられては次も鬼になってしまう為、未夢は早口に数を数えた。
ドタッ
「・・7,8,9,10ストップ!」
バッと振り返ると全員その場で動きを止めた。
確実に届かないところまで距離をとった後、ワンニャーとルゥと未夢を見守る為に
それ以上離れなかった彷徨。
数えている最中に聞こえた「ドタッ」の音の原因であろう、
地面に突っ伏したワンニャー(みたらしさん姿)。
彷徨の頭の上で未夢に笑顔を向けてくるルゥ。
「・・・ワンニャー、大丈夫?」
大股でワンニャーのもとへと未夢が近づくと、
いてて、と顔をしかめながらもワンニャーが起き上がってきた。
「えへ、転んじゃいました。」
擦り傷もなく、照れ笑いをしながら土埃を落とす為服を叩くワンニャーに
未夢はにーっこりと微笑みかけた。
「よかった〜。あ、はい、つかまえた。次はワンニャーが鬼ね」
「え〜!み、未夢さん、わたくしの事を心配してくれたんじゃなかったんですか〜?」
うるうると涙目になりながら、ワンニャーは未夢へと擦り寄っていく。
「もちろん心配したよ〜。でも、大丈夫って言ったし、
きちんとルールにのっとってやってるからね。」
9歩目で届いたんだからね、と未夢はワンニャーの服を叩いてあげながら
鬼の交代を要求した。
「ワンニャー♪」
「気を付けろよ、ワンニャー。怪我なんかしたらルゥが心配するだろう」
彷徨もルゥを腕に抱っこしなおして、ワンニャーのもとまで戻ってきた。
ルゥは涙目で未夢に訴えているワンニャーが面白かったらしく、
満面の笑みでワンニャーへ手を伸ばしてくる。
「彷徨さんやルゥちゃままで・・・私ってほんとに世界一不幸なシッターペットかも・・・」
「ほら、つぎ始めるよ。ワンニャー、ルールわかった?」
「はい。」
いつもどおりのいじけネタに付き合わず、未夢はさくさくとスタート地点まで歩き出していた。
彷徨やルゥも一緒に歩いていく。
ワンニャーもずるずる引きずることもなく、木の傍まで来たときには
いつもの調子でゲームを始めようとしていた。
「「始めのい〜っぽ」」
掛け声と共に未夢と彷徨が前へとジャンプし、ルゥもプカプカと前へ進む。
「いきますよ〜。だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だ」
ワンニャーが振り返ると少し前に出てきた未夢とその後ろにいる彷徨。
その二人の上に浮いてるルゥ。
「動きませんね〜。だるまさんがころんだ !!」
サッっとすばやく数え、フェイントをかけるワンニャー。
振り返ってみると、涼しい顔をして立っている彷徨に、きゃっきゃと笑っているルゥ。
すばやく振り返る仕草が[いないいないばあ]に似ている為か、
はたまた急に振り返ったワンニャーの顔が必死で笑えただけなのか・・・。
ふと気付くと、彷徨の前に立っている未夢の様子がおかしかった。
左足一本で立ち、両腕を肩の高さほどあげ、少し反り返っている。
おそらく右足を出そうとした瞬間に数え終わり、ワンニャーの必死な形相にびっくりした為、
奇妙な格好で止まってしまったらしい。
「マンマー♪」
「ル、ルゥくん。動いたらダメ・・・きゃ!」
「未夢!」
未夢の体勢にびっくりしてワンニャーが固まっていたところ、
ルゥが未夢めがけて飛んできた。
かろうじてバランスをとっていた未夢だったが、胸元にルゥが飛び込んできた為、
あっけなくバランスを崩した。
もともと後ろに重心がかかった体勢で止まっていた為、そのまま後頭部から地面へ
ダイブしていく。
が、後頭部に痛みはなく、代わりに背中というか肩にしっかりとした暖かさを感じた。
「・・・?」
いつまで待っても来ない衝撃に不思議に思い、そっと目を開けてみると、
顔のすぐ斜め後ろに彷徨の顔があった。
「彷徨・・・」
未夢がバランスを崩した瞬間、すぐ後ろから彷徨が両肩をつかみ、
彷徨の胸に未夢の背中があたり、全身で支えたのだ。
「ったく、ワンニャーの事笑えねぇぞ。ルゥも、急にはダメだぞ」
彷徨はため息混じりに未夢に向かってジト目をおくり、
未夢の腕の中できょとんとしているルゥにも注意した。
「きゃ〜い」
「うぅ・・・」
未夢は転びかけて助けられたという恥かしさから、思わず赤くなり俯き、
彷徨に声を掛けられ(正確には怒られた)ご機嫌なルゥを抱く腕にそっと力が入る。
彷徨は腕の中で少し見える頬が赤くなっている未夢に、今の密着している状況を思い出し、
顔に熱が上がってくるのが感じられた。
赤くなっているであろう顔を隠す為、片手で隠そうとしたが
両手は未夢の体を支えているので塞がっており、
顔ごと天へと向けて、未夢の視界に入らないようにした。
「・・・ご、ごめんね、彷徨。ありがとう」
まだお礼を言ってなかった事を思い出し、
未夢は言いながら彷徨へと預けていた体をそっと離す。
一瞬、背中に寂しさを感じ、彷徨と引っ付いていたのだと自覚した。
その瞬間、ぼふっと音を立てそうなくらい真っ赤になり、身動きが取れなくなった。
「未夢?」
彷徨は、胸の前に少し開いた空間に風が通り顔の熱が少し下がった様に感じ
顔を下ろしてみると、いまだ掴んだままの肩にかかる日の光のような
やわらかい金の髪の向こうに見える耳が真っ赤に染まっていた。
今更ながらに接近していた体に恥かしくなったんだろうと予測できたが、
思わず顔が見たくなり、名前を呼んでみるが返事はなく、
代わりに前の方から「う?」と言うルゥの声だけがした。
「みーゆ?」
後ろから覗き込もうと少しだけ頭を前に出しながら呼んでみた。
「マンマ?」
サッと顔を彷徨と反対側へ向けた未夢のほっぺをパチパチと叩きながら、ルゥも未夢を呼ぶ。
真っ赤に染まった未夢の頬が気になるらしい。
(こんな顔で振り向けるわけないじゃない!
あ〜んルゥくん、彷徨にばれちゃうから、いい子にしてて〜)
未夢は心の中で叫びながらも覗き込もうとする彷徨を避け、下から不思議そうに
手を伸ばしてくるルゥに目で訴えてみる。
そんな未夢にルゥは真っ赤で必死な形相が面白いのか、
なおさらパチパチと両手で叩いてきた。
(あ〜ん、通じてないよ〜)
ルゥを抱いたままその場を離れてしまえば見られる事もないのだろうが、
未夢の肩には彷徨の両手が置かれたままだった。
それゆえに顔の火照りも引くことがないのだが。
二度、三度と彷徨の覗き込みをよけていた未夢だったが、
ふと、避けた先に、すーーーっかりいじけて木の陰からこちらを見ている
ワンニャーと目が合った。
未夢の動きが止まったことで、彷徨も未夢の視線の先にいるワンニャーに気が付いた。
「わ、ワンニャー・・・」
「え・・・と、全員動いたから、ワンニャーの勝ち、だぞ?」
気を紛らわすつもりなのか、ルールにそっただけなのか、
彷徨が良かったなと言わんばかりの笑顔付きで言う。
そうそう、と未夢もしきりにくびを縦に振る。
未夢の腕の中からルゥもフワリと浮かび、ワンニャーの頭の上へと飛んでいく。
「そうですか、わたくしの勝利ですか。それはうれしいですねぇって、ごまかされませんよぉう。
い〜んですよぉ。未夢さんと彷徨さんが仲良くしようと、
ルゥちゃまがお喜びになるんですからぁ。 私と一緒に遊ぶよりもお二人の笑顔が
あった方が、教育上良いですしぃ。
でもでも、全員で遊んでる最中に忘れる事ないじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
おいおいと泣きながら、未夢と彷徨に迫ってくるワンニャー。
宥めながら、「仲良くなんかない!」やら「誰がこいつなんかと!」等と叫んでいる
未夢と彷徨。
泣き叫ぶワンニャーと焦って弁解する未夢と彷徨を面白がって笑うルゥ。
いつもの調子に戻り、その後も“だるま落し”やみかんを使ってのお手玉などし、
ルゥとワンニャーに地球の遊びを教えていった。
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宿題を終えて居間へ行くと台所の方からワンニャーが声だけ掛けてきた。
夕食の支度で手が離せないらしい。
「あ、未夢さん。ルゥちゃま疲れて寝てしまったので、夕食の準備の間お部屋にいます。
ちょっと揚げ物を作るので、その間にルゥちゃまが起きたらお相手をお願い致します。」
「は〜い」
未夢と彷徨は顔を見合わせ、ルゥの部屋へと向かった。
音を立てないようにそっと障子を開け中の様子をのぞく。
薄暗い部屋の中で小さな胸が上下にゆれている。
二人は静かに部屋の中まで入り、ルゥをはさんで枕もとに座り
すやすやと眠る赤ん坊の顔をじっと見つめた。
「かわいい。疲れさせちゃったかな?ごめんね」
未夢がルゥの髪をなでながら、ささやいた。
自然と頬が緩み、慈しむような眼差しになる。
彷徨はルゥと母のような眼差しの未夢を見ながら、ポン、と未夢の頭に手を置いた。
「それは大丈夫だろ。赤ん坊の事は良くわからないけど、
ルゥは結構はっきり意思表示をするし、あんなに笑ってたんだしな。
お前が笑ってないとルゥが不安がるぞ。疲れたら休めばいいんだし。
俺達と一緒に遊んだ思い出だって出来たんだから・・・」
ルゥを優しい眼差しで見つめながら言う彷徨の横顔にドキドキしながら、
未夢は頭の上のぬくもりと自分の手に感じるルゥのぬくもりで幸せに包まれた気分だった。
静かな部屋の中にはルゥの寝息だけが規則正しくながれていく。
「未夢さーん、彷徨さーん。ご飯の用意が出来ましたよー。どこですかー?」
ワンニャーの声にルゥが、もぞっと身動きした。
彷徨はとっさに未夢の頭に置いたままだった手を戻した。
「あ、ルゥくん起きちゃった?」
「ワンニャーのやつ、ルゥが寝てるの忘れてたんじゃねぇか?」
「パンパ?マンマ?」
小さな手で眠そうな目をこすりながら、自分の顔を見つめる未夢と彷徨の前に
ふわっと浮き上がる。
「ルゥくん、またいーっぱい遊ぼうね」
未夢にとびきりの笑顔で言われ、ルゥもとびきりの笑顔とともに未夢の胸に飛び込んだ。
「あーい!」
そんな二人を見ながら、彷徨は顔を緩ませた。
「さ、今度はワンニャーが泣き出す前に行ってやろうぜ。腹も減ったし。」
くすくすと笑いながら、彷徨の後について部屋を出る未夢の腕の中で、
ルゥも笑顔で二人を見上げていた。
ルゥくんに地球の遊びを教えたいなってところから、
クリスちゃんに邪魔されずイチャイチャさせたいなったところまでを
書きたかったのですが、いかんせんだらだらと長いだけになった気が・・・
「遊び」が前回と一緒の“だるまさんがころんだ”なのはご容赦を、
ルゥくんに理解できる鬼ごっこって思いつかなかったんです。
(だるまさんがころんだも怪しいが・・・)
こんな作品ですが呼んで頂けたみなしゃん、ありがとうございます。