つなぐ

作:紅龍



「黒須君、それな〜に?」

休み時間、三太の机の横にかけてある袋から木の棒が飛び出していたのを、綾が目ざとく見つけたのだ。

「あ、これ?これは・・・じゃじゃ〜ん、けん玉さ!他にもお手玉とかメンコ、おはじきもあるよ」

得意げに机の上に袋の中身を取り出していく。

「へぇ〜三太くんこういうので遊ぶの?」

おはじきをつまみながら未夢が三太に尋ねる。
机の周りには他のクラスメイト達も集まってきた。

「いやいや、今度の文化祭で展示する、写真部のモデルなんだ。テーマは懐かしき風景。
昔ながらの畑やレトロな小物たち。最近では見なくなった物たちをカメラに収めてパネルにするんだ。他にも、夕暮れで遊ぶ子供達とか、枯れ木で作ったパチンコとかね。」

三太が人差し指を立て、左右に振りながら説明する。

「というわけで彷徨、学校終わったら西遠寺に行くから。」

「は?何でいきなりうちなんだよ」

いきなり話を振られた彷徨は持っていたメンコを落とし、ジトッと三太を睨んだ。
だがそこは親友、長年の付き合いで、このぐらいでは引かない。

「写真をとるって言っただろ。やっぱ、昔の子供が遊ぶ広場っていったら、このあたりじゃ西遠寺だと思うんだよね。」

「別に学校の校庭でもいいんじゃね?」

早口で思いついたことを口にする親友に、彷徨はため息をつきながら案を出していく。

「学校じゃ時間制限があるから無理なんだよ。ほら、もう、遊びも調べてきたし・・・」

言いながらもゴソゴソと、カバンの中から、ずらっと書き出したノートを広げてみせる。

「けん玉、おはじき、鞠つき、かくれんぼ、ゴムとび、陣取り、高鬼、色つき鬼、だるまさんがころんだ、缶けり・・・うわー黒須君、調べたねぇ。」

横から覗き込んだななみがびっしりと書かれたノートを見て感嘆の声を上げた。

「なつかし〜。ゴムとびかぁ、ちっちゃい頃よく近所の子達とやってたなぁ」

昔を思い出すような遠い目をしている未夢に、片眉を上げながら彷徨がちろっと視線をなげかける。

「どうせ、よく引っかかってたんだろ」

「ぐっ。な、なによ〜、彷徨はどうだったのよ?」

「俺はした事ないけど、お前よりは出来るんじゃね?」

「ぬぁんですって〜」

んべっと舌をだす彷徨に、未夢が頬をふくらませながら反撃する。
そのやりとりにクラスメイト達は「またやってる」と、くすくす笑い合うのだが、
この後に控えるのはいつもの惨状・・・

「・・・ゴムとびをしながらひっかかって転ぶ未夢ちゃん・・・心配そうに手を貸す彷徨君・・・
(あ〜んわたしできな〜い。)(俺が教えてやるよ。ほら)(すご〜い、やっぱり彷徨ってなんでもできるのね)(でも教えるのは未夢だけさ)(かなた・・・)(運命の赤い糸だけじゃ物足りない、俺達はこの運命の赤いゴムでつながっているのさ!)・・・なぁんて絡まりまくって密着して、一生ほどけない、なぁかよしさんですのねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

がぁぁ、と机を持ち上げ、前の黒板にぶんっと投げつける。
轟音と共に机と黒板が砕け散った。

「ク、クリスちゃん、落ち着いて!」

「落ち着け!花小町!」

ぜーはーと肩で息をしていたクリスも正気に戻り、これまたいつもの如く、すばやく修理していくのであった。


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「だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だ」

「きゃv」

クリスが何かにつまづいたかのようによろけた。

「・・・花小町」

しぶしぶと彷徨がクリスの名を呼ぶ。

「みなさん、早く助けてくださいね」

にこにこと彷徨の手をがっちりとつかみながら、思ってもいないであろう事を言うクリスに
未夢、ななみ、綾、三太は、乾いた笑いしか出てこなかった。
光ヶ丘だけは「僕が必ず、とらわれのお姫様を助け出して見せるさぁ」などとポーズを決めていたが・・・。

学校が終わり、着替えをすませたいつものメンバーが西遠寺に集まり、三太の指示どおりにポーズをつける。
と、最初のうちはそうだったのだが、段々と撮影を忘れ、本気で遊び始めたのだ。
三太も「リアリティがあっていいよ」などと言っていたが、今ではカメラが首からぶら下がったままになっていた。

けん玉に始まり、おはじきやゴムとびなど、三太がノートに書き出した遊びを順番に試してみる。
ただ、このだるまさんがころんだになってからはすでに3回目になっていたが・・・。

「だ〜る〜ま〜さ〜ん〜が〜こ〜ろ〜ん〜だ」

彷徨が鬼となったのは2回目だ。やや疲れた感じで数を数える。1回目の時もクリスがつまずき、一人目につながれたのだ。
まぁ、最初は本当につまづいたのだろうが・・・。

最初はジャンケンで鬼を決めた。運だからしょうがない。
次の鬼は光ヶ丘だった。この後はもう鬼にならないだろう、と思っていた。逃げ切る自信があった。
未夢がつかまるまでは。

未夢と指をつないだままだった光ヶ丘が、数え終わるたびに
「誰も僕達の仲を引き裂くことなんてできないのさぁ」など言ってみたり、つないだ指を振って見せたりする。

何だか、無性にイライラして、連結を切りたくてあせってしまった。
切れた後も未夢が逃げるのを見守っていたら、鬼の一番近くに残ってしまっていたのだ。
イライラの原因も、情けない自分も自覚済みだ。


何回か繰り返し、クリスの後に未夢、綾とつながった。
すぐそばまで三太がきていた。

「だ・る・ま・さ・ん・が」

「きった!!」

三太の声が背後で響き、右手に衝撃が来る。
十数える間にバタバタと走り回る足音がする。

「・・・8、9、10、ストップ!」

彷徨が掛け声と同時に振り返る。足音がぴたりと止まり、全員が停止する。
ばらばらに散った仲間達を見回し、ねらいをつける。

数珠繋ぎになっていた手をきった三太は、持ち前のすばしっこさで距離をかせいでいた。
自称ライバルを宣言する光ヶ丘も、ふふん、と涼しげな顔で距離を取っている。
天地、小西、花小町はだいたい同じぐらいの距離だった。大股で10歩、ギリギリの距離だろう。

「・・・?」

視界にいるはずの一人が見えない。


彷徨がキョロキョロとあたりを見渡すと、壁際に張り付くようにしている未夢がいた。
他の五人とは違う方向に逃げて、鬼の目を欺こうという作戦だったらしいが、失敗したのだ。

木の裏手に回り込んだまでは良かったが、すぐに壁にが続いている。
登ろうかどうしようか迷っているうちに、彷徨が数え終わってしまったのだ。

「トロイやつ・・・。ほら、つかまえた」

8歩目で未夢に届いた彷徨が、ポンと、頭の上に手を置く。
上目遣いに見上げながらすねる姿が、年齢より少しばかり幼く見せる。

彷徨は、こんな表情もかわいいと思ってしまう自分に驚きながら、赤くなった顔を見られまいと視線を空に向ける。
未夢の方は、そんな彷徨に気付かず、ぶつぶつと
「う〜、いい作戦だと思ったんだけどなぁ」「何がいけなかったんだろう?」と考え込んでいる。

そんな未夢をつれてみんなのもとに戻ると、5人はすでに木の下に集まっていた。

「おかえり〜。じゃあ、次は未夢が鬼ね」

にこにこと、今まで一度もつかまっていないななみが、次を促す。
それに続いて「がんばって〜」や「今度はつかまりませんわ」など、口々に言いながら、みなスタート位置に付く。

「「「はじめのい〜っぽ!」」」

5人で一斉に前にジャンプする。

「みんないくよー。だ〜るまさんがこ〜ろんだ!」

バッと振り返り、ピタッと動きを止めた5人を凝視する。
少しでも動かないかと一人一人を見つめていたが、まったく動きがないので、未夢はあきらめて木に向き直る。

「だるまさんがころんだ!」

一息に言い終えて振り返る。
・・・があまりに勢いをつけて振り向いたので、未夢は足を滑らせ、バランスを崩した。

「未夢・・・!」

未夢は何とか体勢を立て直し、転ぶことはなかった。はずかしくて、少し顔を赤くしたまま友達の方を見ると
彷徨がため息をついていた。そのまま、なぜか前に突き出されたままになっていた右手を頭の後ろに持っていく。

「彷徨、動いた!」

「へ?これは・・・・・・・わかったよ」

彷徨にしてみれば、転びかけた未夢を見た瞬間、とっさに出た手の行き場がなくなっていただけだったのだが、
そんな事が言えるわけもなく、しぶしぶと未夢のもとへと歩いて行く。

「へ、へ、へ。はい、おとなしくつまってね。」

めずらしく彷徨に勝てたと思っているのか、未夢はご機嫌で、彷徨は彷徨で「誰のせいだよ」と思っていた。

すっと出された未夢の手に、彷徨が手を重ねる。
だいたい、こういう場合には小指と小指でつなぐ事が多いのだが、未夢と彷徨は自然と手をつないでいた。
こうするのが当たり前のように。

「は、始めるよ。だ・る・ま・さ・ん・が・こ・ろ・ん・だ」

未夢は、自分よりも少し大きめなその手に意識を奪われながらゲームを再開した。



 手をつなぐことは今までも会った事だし、今更だと心を落ち着けようとしても、どうしてもドキドキがおさまらない。
 数を数えて振り向いてみれば、すぐ近くに彷徨の顔があるし、どこを見てるのかと思えば、
 つないだ手を見ていて、ときどき、チラッとこちらに視線を向けてくる。
 慌てて目をそらし、動いてる人はいないかな?と友達を見渡す間も、実際は隣が気になってしょうがない。



彷徨は、自分よりもやわらかい、細い指を見つめていた。



 さっきまでは花小町とつないでいた。小指だったけど。でも、目の前に差し出された未夢の手を見たら、握っていた。
 とっさに体で三太達から見えないように隠したから、花小町もキレてないようだ。ゲームも始まったし。
 おとなしくつながったままの手を見てたら、未夢がそわそわと落ち着かない。
 ちょっとは意識されてるのか?なんて考えが頭によぎり、急に顔が熱くなってきた。
 手をつないでることが恥ずかしくなってきた。・・・けど、はなせない、離さない。



未夢は、一瞬だけ、強く握られた感じがしたが、友人達のせかす声に押され、木に向き直った。

「だるまさんがころんだ」

振り返ったところで全員止まる。

 彷徨も横目で皆を見ていた。手はつないだまま、そーゆうゲームだけど・・・。

「だるまさんがころんだ」

さっきと同じように繰り返して振り返る。


  全員ほとんど、位置が変わっていない?私、早すぎたかなぁ。
 早く来ないと彷徨としばらくこのまま・・・あれ、なに、いいかなぁとか考えちゃってんの私!


赤くなった顔を隠すように、未夢は、木に向かって数え始めた。

「だ〜る〜ま〜さ〜ん〜が〜」

「・・・・未夢ちゃんと彷徨君が仲良く手をつないでる・・・(未夢、僕はもうこの手を離さないよ)(私もよ、彷徨)な〜んて手と手を取り合って、二人仲良く、お遊戯満喫世界一周旅行に旅立ってしまうのねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

未夢が後ろを向いている間に、クリスは庭石をガシッと掴み上げ、今にも未夢達に投げつけようとしていた。

「お、落ち着いてクリスちゃん!」
「花小町さん!」

ななみや三太の悲鳴に、後ろで何が起こったのか見なくてもわかった。
未夢と彷徨は、条件反射でつないでいた手を離し、左右に飛びのく。

「そうだよ。そんなのあたったら、未夢ちゃんたち、ケガしちゃうよ」
「そいつぁいけませんわ」

綾の「ケガ」という部分で正気に返ったクリスは、庭石をドスンッという音と共に元の位置に戻し、全員その場にへたり込んだのだった。
結局、このドタバタで、全員が動いた為、今回のゲームは終了となった。

「あれ?三太くんもう帰るの?」

未夢がななみ達のもとまで、戻ってくると、三太はノートや遊びの道具をカバンに詰め込み、帰り支度をし始めていた。

「あぁ、写真もだいぶ撮れたし、これ以上はストロボ使わなくちゃ無理そうだから。」

言われてあたりを見回せば、大分暗くなっていた。

「あたし達もそろそろ帰るよ。またね。」

「ばいば〜い」

ななみや綾たちもぞろぞろと石段を降りていく。

「ばいば〜い。気を付けてね〜」


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「へぇ、おはじきにけん玉、ゴムとびですか。地球にはまだまだ知らない遊びが、いっっぱいあるんですねぇ」

今日は三太たちが来るという事で、ワンニャーとルゥにはももかの家へ遊びに行ってもらったのだ。
ワンニャーからの、何をされたんですか?との問いに、今日やった遊びと昔の遊びの説明をしたところだった。

「そうだ、明日みんなでしよっか?ワンニャーとルゥくんにも教えてあげたいし。」

ポンと手を叩きながら未夢が彷徨を見る。

「・・・そうだな、特に用事もないし。」

持っていた湯飲みを机に置き、彷徨は未夢にうなづいた。
彷徨にしても、家族揃って遊ぶことは望ましいことなのだ。

「ルゥくん、明日はい〜っぱい!遊ぼうねぇ。」

未夢にとびきりの笑顔で言われ、ルゥもとびきりの笑顔とともに未夢の胸に飛び込んだ。

「あーい!」

そんな二人を見ながら、彷徨とワンニャーの顔も、とびきりの笑顔になる。

「さて、じゃあ明日の備えて、早く寝よーっと。おやすみなさ〜い」

未夢が立ち上がり、それに続くように彷徨、ワンニャーもルゥをつれ、自室へと戻っていった。











「だるまさんがころんだ・・・」


未夢は右手を見つめながら、つぶやいた。


「だるまさんがころんだ・・・」


彷徨は右手を見つめながら、つぶやいた。



「「また、明日・・・」」



暗闇にとけるようにつぶやき、夢の中へ降りてゆく・・・。
 
 
 
 
 
 
 
 


・・・ただ、昔を思い出して、それから、みゆかなに手をつながせたかっただけなのに・・・

どーして、こう、まとまりがないんでしょう!
はい、ボキャが足りないんですね。えぇ、わかっております。

みなしゃん、どうか、温かい目で見守ってくださいませ。


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