夏の日の・・・

作:紅龍



「まんま・・・?」

少し開いた障子の隙間から、いまだ夢の中にいる未夢のもとへとルゥがやってきた。

「まんま、おーきゃ、あんにゃ」

胸の上にちょこんと座り、未夢のほっぺたをパチパチとたたき、しきりに話し掛ける。
夏休みも中盤になってくるとだんだんと寝坊の回数も増えてきて、
最近ではルゥに起こされるのが日課になってきた。

「う・・・ん、ルゥくん・・・おはよう」

眠い目をこすりながらも、未夢は起こしにきてくれたルゥへ、にっこり微笑んだ。

「きゃあ♪マンマ♪」

大好きなママの笑顔に喜ぶルゥに未夢はほお擦りをし、枕もとの時計を見ると、
あと数分で10時になろうとしていた。

「あっちゃー、またやってしまいましたなぁ。どうして、夏休みってこんなに眠いんだろう。」

「う?」

未夢のつぶやきにルゥは首をかしげながらも、居間に向かって飛んでいった。
最近は未夢や彷徨が家にいる時間が長い為(夏休みだから)、
ちょこちょこと二人の間を行ったり来たりしているのだ。
もっとも、未夢も彷徨も家にいる間はほとんど居間にいるので、
3人そろっている方が多いのだが…。


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未夢は身支度を整え、台所へいき、冷蔵庫から牛乳を取り出し、ふと気が付いた。

「あれ、彷徨やルゥくん達どこにいるんだろう・・・?」

いつもの「未夢さん規則正しい生活が大事なんですよー」なんてワンニャーのお小言や
「そんなんじゃ新学期からも遅刻決定、やっぱりまだまだ未夢チャンは子供だな」などの彷徨の嫌味がない。

「出掛けちゃったのかな。一声かけてくれればいいのに・・・」

まぁ、自分が寝坊したんだけど、と思いながら朝食の準備をする。
シーンと静まり返った西遠寺に、ふと昔を思い出してしまう。
以前はどんなに寝坊しても、朝早く起きても、誰かがいることの方が少なかったのに、と。

イスに腰掛け、トーストをかじりながら居間をみつめる。

「・・・そういえば、夏休みって苦手だったな。こっちに来てからは忘れてたけど」

夏休み前だったら、学校で誰かが周りにいる。
人の気配の中にいて、あんまり一人を感じないでいられるのに・・・。
だんだんと寂しさが胸の中で育っていくのを感じて、慌ててトーストを食べ、立ち上がった。

「やだなー、らしくありませんぞ!さぁ、今日はなにしようかな?」

自分に言い聞かせるようにわざと明るく言って、部屋の戻ろうとした時、
廊下を歩いてくる足音が近づき、ドアを開けて寝間着姿の彷徨が入ってきた。

「か・・・かなた?」

「はよ・・・。なんだよ、幽霊でも見るような顔して。あれ?ワンニャーは?」

てっきり、先に起きてどこかに出掛けたのだろうと思っていた彷徨が、
よれよれの寝起き姿で目の前に現れたので、未夢はあっけに取られていた。

「彷徨、もしかして今起きたの?」

「いーだろ、俺だってたまにはゆっくりしたって。それよりワンニャーは?」

いつも未夢に「ルゥが将来真似すると困るだろ」なんて言っていた手前、
バツが悪そうに空中に視線を泳がせ、話題を変えようとキョロキョロあたりを見回す。

「あ、私もさっき起きてきたんだけど、ワンニャー、ルゥくんもいないんだよね。
お昼の買出しかなぁ?」

「・・・ふーん。そういえば昨日、どっかで団子のセールがとか言ってたような・・・」

寝坊のことを突っ込んでくるだろうと予想していた彷徨は、
すこし伏目がちに質問に答えた未夢にすっと目を細めた。
また、寝坊したんだな、という事より、元気がない方が気になってしょうがない。

「まぁ、どうせすぐに帰ってくるだろ。未夢、朝飯は?」

「え、パンがあったからいま食べたとこだけど、・・・彷徨も同じでいい?」

「あぁ。食えるのか?」

「かぁーなぁーたぁー」

両側の頬をビヨーンとひっぱられながらも、彷徨はいつもどおりの未夢にほっとしていた。
未夢もいつもどおりのやり取りに、さっきの寂しさを忘れていた。
まぁ、トーストと一緒に出てきた目玉焼きは少し黒かったが・・・。

「ところで彷徨、今日の予定は?」

彷徨が洗い物をしていると、後ろから未夢が声をかけた。

「んー、三太も田舎に行ってるし、特にないな。どうした?」

「ななみちゃんも綾ちゃんも忙しいらしくて、することないんだよねー」

「・・・お前、宿題やってんのか?」

洗い物を終えた彷徨がジトッと睨みながら、振り返った。

「う!いや、やってはいるんだけど・・・。終わんないんだよねぇ」

あはは、と乾いた笑いのままあさってのほうを見る未夢にため息をつきながら、
彷徨は今日の予定を決めた。

「じゃあ、今日は勉強を片付けよう。俺も英語が少し残ってるからちょうどいいだろ」

「え、・・・彷徨手伝ってくれるの!?」

思いがけない提案に思わず前のめりになる未夢。

「違う、わかんないところは教えてやるけど、まず自分でやる事。ほら、はやく持って来い。」

彷徨は、鼻と鼻がつきそうな距離にドキドキしながらも、冷静を装い、
自分も勉強道具を取りに自室へ戻っていった。


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「っはー!終わったよー。半分だけだけど終わらしたよー。えらいよ自分。」

バタンと後ろに倒れこみながら、うーんと伸びをする。
ノースリーブのワンピースから白い手足がめいっぱい伸びる。
そんな姿に目じりを赤くしながら、彷徨はピンと額をはじく。

「まだ半分残ってるだろ。ちゃんと計画たてとけよ」

「ぶーー。」

未夢は、はじかれた額を抑えながら上目遣いで彷徨を見る。
寝転んだままの体勢でそんな表情をされては、さすがの彷徨も直視できない。
口元を手で隠しながら、話題を変える。

「そーいえば、ルゥ達まだ、帰ってこないんだな」

「そーだね、もう4時になるのに・・・。」

ふと、朝の寂しさを思い出すと、じっと彷徨を見つめ、シャツのすそに手を伸ばす。
確かに掴めるその位置に誰かがいる、それだけで未夢はほっとし、自然と微笑んでいた。

ふいに黙り込んだ未夢にシャツを引っ張られた彷徨は、振り向いたその先に
ふんわりと微笑むその顔、少し潤んだ新緑の瞳に息を呑んだ。

「・・・なんか、ふとした瞬間に誰かが一緒にいるってうれしいね。」

そう言って、にっこりと笑顔を向けられ、耳まで真っ赤になった彷徨。
未夢はその様子を見て、きょとんとしていたが、
見下ろされたまま、見つめあったままだった事に気づき、
慌てて、体を起こし、彷徨に負けないぐらい真っ赤になった両の頬をおさえた。

「や、やだ!んと、あ、あのね、特に深い意味はなくて。ただ、一人じゃないなって。
 ・・・今まで、一人で留守番とか家の中で、長い時間誰かと一緒にいることが
 あんまりなかったから、・・・そう、それだけ!ごめんね、変な事言ったりして。」

じたばたと手を振り回し、真っ赤な顔を隠すようにうつむいたまま話す未夢を見つめながら、
彷徨は、未夢がなにを感じていたのかを理解した。
彷徨もその気持ちはよくわかるのだ。だから・・・

「そうだな」

頭の上に、ポンポンとやさしく手を置かれ、たった一言。
彷徨の声がやさしくて、彷徨の手がうれしくて、何も言えなくなった。

突然始まった4人家族。
それでも、こうして気持ちが通じ合える、やさしく受け止めてくれる。
確かに、お互いを「家族」という大切な人として自覚してはいるのだが、
それだけじゃない気持ちもあるわけで・・・。


「・・・彷徨も、誰かいるとほっとしたりするの?」


じっと琥珀色の瞳を見つめ、ささやくようにぽつりと聞いてみる。


「あぁ、誰でも良いわけじゃないけどな・・・」


新緑の瞳を見つめ返しながら、少し甘さを含んだ声色でささやく。

そのまま、互いの瞳の中に潜んだ気持ちを探すように見つめ合う。
未夢の頭に置かれていた手を、そのまま肩へすべらせて・・・



「ただいまですぅー。未夢さーん、彷徨さーん、おみやげがありますよー。」

「まんま、ぱんぱ♪」

突如響き渡る二人(?)の能天気な声に、未夢も彷徨もパッと離れた。
あまりの突然さに事態が把握できず、体だけが条件反射で動いたのだ。
これも妄想癖のあるクラスメイトのおかげだろうか。

「あれ?お二人とも顔が赤いですけど大丈夫ですか?」

「べ、べつに何にもないよ。ねえ彷徨?」

「お、おう。暑いからかな?それよりワンニャー、今までどこ行ってたんだ?」

「いやー、商店街の和菓子屋さんで、お団子夏の大セールをやってたものですから、
 ついつい・・・。もう、あんなに種類があったのかーってびっくりしちゃいました。
 それからももかさんに会いまして、ルゥちゃまと一緒に公園でお散歩してたんですよー」

どさっと机の上に大量のお団子を置きながら、うれしそうに話すワンニャーをみて、
未夢と彷徨は微笑んだ。今はこの4人で、少し賑やかなぐらいがほっとする。

「ルゥくん、みんな一緒でうれしそうだね」

「きゃーい」

未夢の腕の中に飛んできて、とびきりの笑顔で笑うルゥを見て、
彷徨もワンニャーも笑顔になる。
そんな家族の笑顔を見ながら未夢は、(明日は早く起きようかな)と思ったのだった。







・・・すみません。初小説、初投稿です。

ただ西遠寺の日常なぁ〜んて物を書いてみたかったのですが・・・、
まとまりのない文章になってしまいました。

何事もまず挑戦!って事で、自分を励ましてみたりして(泣)。

最後まで読んでくださったみなしゃん、ありがとうございました。




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