聖夜はここから

作:中井 真里


もうすぐ「彼」と付き合い始めて最初のクリスマス。

実は「彼」という響き自体初めてのため(ホンにはたくさん書いているのにね)、
嬉しいやら、照れくさいやらの日々が続いている。


今年は雪、降るのかな。


降るといいな。







益田義人さんがオーナーを務める、喫茶カンターループで、
クリスマスパーティーをしようと言い出したのは、私の相方だった。

みんなイブはデートだから、25日に集まってわいわい騒ぐなら問題ないでしょ。
とは相方の弁。確かにその通りだった。
しかし、にぎやかなことが大好きな彼女らしい考えだと思った。

いつものごとく、パーティーのプロデュースを任された私。
こうなったら思いっきり豪華なパーティーにしてやるぜぃ。
ってぜぃってなんだあたし・・・。

そうひとりでつぶやきながら、思いついたアイディアをまとめるために、
自身の世界に入り込んでいった。




「・・・やさん、綾さん」




ふと名前を呼ばれて我に返った。
何だかこのパターン、前にもあったような気がする。

顔を見上げると、紫色の綺麗な瞳が私を覗き込んでいた。

 
「栗太くん。どうかした?」
「25日のクリスマスパーティーについて話し合おうって言って、
部室に呼んだの、綾さんじゃないですか」
「そっか・・・。ごめんね。またいつものクセが出たみたい」
「綾さんらしいですね」



最近、「彼」になったばかりの栗太くんはそう言ってふっと笑った。


いつものやりとり。

だけどいつもとちょっと違う感じがする。
それは私達の関係が変化したからだけではない気がする。

栗太くんは少しずつ変わってきている。
それは、男らしくなったという言葉だけでは片づけられない気がする。

なんだか以前に比べて、人に対して心を開くようになった。
元々穏やかな印象だったけど、心に余裕ができたおかげか、
まわりに優しいオーラが漂っている。そんな風に感じる。

おっと、また自分の世界に入り込んじゃった。
戻ってこなきゃ。



「栗太くん、せっかく来てくれたのにごめんね」
「いえ」
「で、クリスマスパーティーの件なんだけど、料理は七面鳥よりも、
手に入りやすいチキンの方がいいかな」
「七面鳥だったら、クリスに頼めば手に入ると思いますよ。
日本で手に入りにくい食材は、外国から取り寄せているようですから」
「なるほどー。食材関連はクリスちゃんにおまかせかな。
あとで店に行ったときに益田さんにも相談してみよう」
「音楽は氷室零一さんに、クリスマスソングと、クラシックを弾いてもらおうと思ってるけど、
クラシックはモーツワルトがいいかなと。栗太くんはどう思う?」
「ショパンを入れてもいいと思いますよ。子犬のワルツとか、
楽しい曲調のものを選びましょう。後で零一さんと相談ですね」



私の考えにただうなずくだけじゃなくて、
私では思いつかないようなことを提案してくれる。
そんな彼が頼もしくて、迷惑とは思いながら、
いつも相談してしまう自分がいる。

そして、私を、私だけを見つめてくれる、その瞳に会いたくて…。



「・・・やさん、綾さん」



し・・・・しまったっ。また妄想モードに突入してしまった。



そんなやりとりを繰り返しながら、パーティーの企画をまとめていく。
七面鳥の調達と調理はクリスちゃんに頼み、お酒と簡単な料理の準備は益田さん、
その他のメインの料理はあたしのお姉ちゃんの店に頼むことにした。

あとは肝心のケーキ。



「やっぱりクリスマスって言ったらプッシュドノエルかなぁ。栗太くんはどう思う?」
「オレもそう思いますね。うちでも毎年、プッシュドノエルを作って食べるんですよ」


『作る』ということばをあたしは見逃さなかった。



「ってことは栗太くんも作れるの?」



あたしは思わず身を乗り出して聞いた。
すると、栗太くんはとても驚いた表情でこくりとうなずいた。



「プッシュドノエルはロールケーキですから、デコレーションだけきっちりできれば、
そんなに難しくないですよ」
「・・・・なるほど。栗太くん、ケーキは任せた。もっとも重要な仕事だからよろしくねっ」
「わ・・・・わかりました」
「人数もそれなりに多いから、量には注意してね」
「わかりました」



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