In the past and the future

作:中井真里



〇月×日


きょうはままのおともだちのさいおんじさんちにあそびにいった。
ままたちがむずかしいおはなしをしているあいだ、
わたしとおないどしのかなたくんとおはなしをした。
ままのおはなしだとわたしたちはちいさいころにあそんだことがあるみたい。




□月▲日


ようちえんのなつやすみ。さいおんじさんちにおとまり。
かなたはなんだかたのもしい。
ごきんじょのこわいいぬからまもってくれたの。
でもわたしといてもずっとかなしそうなかおをしているの。
かなたのままがてんごくというところにいっちゃったからなのかな?




◎月×日


かあさんがてんごくというところにいってしまったととうさんからきいた。
だけどおれはしってる。かあさんはもうかえってこないことを。
ないてるとうさんをみるとおれもかなしくなる。
だからきめたんだ。とうさんのまえでかあさんのはなしはしないって。
そのためにはおれがつよくならないといけないとおもったんだ。




□月▲日


みゆがうちにひとりでとまりにきた。さびしさそうなおれをじっとみていた。
そんなみゆをみていたら、なんだかほっとしたんだ。
かあさんがだいじょうぶだよっていってくれているみたいに。




◎月■日


ままとふたりでさいおんじさんちにいった。
きょうはかなたのおかあさんのめいにちというひなんだって。
めいにちってなに?ってきいたら、
ままが「かなたのおかあさんがてんごくにいったひ」とおしえてくれた。
てんごくってどこなんだろう?
ままのかなしそうなかおをみていたらなにもいえなくなった。




■月〇日


ふゆやすみなのでみゆがあそびにきた。とうさんとみゆとみゆのとうさんとかあさんで
おれのたんじょうびかいをひらいてくれた。おれにとってはちょっぴりふくざつなひ。
みゆには「かなたのたんじょうびはさんたさんがくるひでうらやましい」といわれたけど、
おれはてらのむすこだからな。



■月〇日


さいおんじさんちでかなたのたんじょうびかいをした。かなたはいいな。
たんじょうびがさんたさんのくるひで。かなたのおよめさんになったら、
なんだかとくしたきぶんになりそうっていったら、かおがまっかになった。
いつか、かなたのおよめさんになりたいな。








■□■









「かなた、彷徨」







こえがする。おれをよぶこえ・・・。







「彷徨、彷徨ってば」






ふと気がつくと、淡い青色のソファーの上で寝ていた俺を見つめる新緑色の瞳。
ずっと夢の中で追い求めていた新緑色の瞳。







「未夢」
「彷徨ったら、酔って寝ちゃったのね。いつもこんなこと無いからびっくりしちゃった」






心配そうな顔の未夢がこちらを覗き込んでいる。
確かに俺は普段はめったなこともない限り酔わないタイプだ。





「ちょっとはしゃぎすぎたかな?」
「クリスマスだもんね。今年はみんなが遊びに来て賑やかだったし」
「久しぶりだったからな」





どこから漏れたのかはっきりと分からないが(出所は大体分かる)、
俺たちのことを聞きつけて、駆けつけてくれたらしい。
いつもは無口な俺も、酒がそれなりに入れば変わるようだ。
意識が朦朧とした後のことはあまり覚えていない。
辺りには空になったシャンペンのビンが転がっている。







「寝ている間もずごく楽しそうだったよ?」
「そうか?」
「うん」
「・・・・・いい夢だったからな」






どんな夢であったか、記憶が鮮明ではないが、心地よい夢だったことは分かる。
ずっと追い求めても追いつかない背中。新緑色の瞳、金色の髪。
それはきっと・・・・・。





「夢と言えば、最近男の子の夢を見るのよね。誰かは分からないんだけど、
いっしょに遊んでいるの。小さい頃のことだと思うんだけどね。
で、その子のことを一生懸命追いかけてるの」





そう呟く瞳は何だか切くて、胸が締め付けられる。






「・・・・・未夢は覚えてないのか?俺達が小さい頃一緒に遊んだこと」
「それが全然覚えてないんだよね。良く遊びに行ったとママから聞いたんだけど」
「鬼ごっこもしたんだぜ。本堂でかくれんぼなんかしてたら親父に叱られたけど」
「広い部屋で、冷たくて、暗い場所。それって本堂?」
「ああ」
「・・・・・あのね。その男の子は夢の中でいつもわたしにいうの。
おれのおよめさんになったら、いつでもここであそべるんだぞ。
くりすますはできないけど、さんたさんはくるんだぞって。
まるで彷徨みたいって思ったんだ」






嬉しそうな表情の未夢に、思わず顔が綻んだ。

そんな彼女に触れたくなって、静かに唇を落とす。
何年経ってもこんなことは慣れないが、今日は特別という気がする。







「未夢、俺さ・・・」
「何?」
「すげー幸せかもな」
「???」






(それってどういう意味なんだろう?)





ぽかんとした表情の未夢に耳打ちする。









『・・・・・それって俺なりのプロポーズだったと思う。今思えば、だけどな』












THE END









□■□









というわけで企画恒例?の超ミニミニ短編です。
あまーいお話を書いてみたくて出来上がりました。
未夢と彷徨って、小さい頃からとても仲が良かったのかなと思う。
クリスの妄想じゃないけどね(笑)。


それでは皆様良いクリスマスをお過ごし下さい♪




05 12.24  中井真里



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