月に降る雪〜moon&snow 作:流那











白い雪を月が優しく照らす。
一転の曇りもない、純粋で白い雪


それに応えるように、月には
静かに雪が降り注ぐ。


それはまるで、親子の姿に似て・・・。















◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

















少女・倉折雪音の朝は優しい姉の声で始まる−



「ユキちゃん、起きなさい、学校に遅れるわよ」
目覚まし替わりに響く、高く通る声に
雪音はようやく目を覚ます。


雪音は階段を下りると
目を擦りながら台所に向かう。
奥の方から、クロワッサンとカフェオレのいい匂いが漂ってくる。
デザートはプリンだろうか?


「ユキちゃん、おはよう」
金色の髪に透き通った新緑色の瞳の綺麗な女性が顔を出す。
年の頃、20代前半と言ったところだろうか?


「おはよう、未夢お姉ちゃん」
雪音は眠い眼を擦りながら、
母親替わりの大好きな姉に
今日一番かというくらい可愛らしい笑顔を見せる。



「早くご飯食べちゃいなさい。遅刻するわよ」
未夢はそう言って、ふぅとため息を付く。
「?うん」


先程から未夢の様子がが
おかしい。先程から、カレンダーばかり見ては
同じ様な動作を繰り返している。
このようなことはしっかりものの姉には珍しいことだった。



(お姉ちゃんが取り乱すっていったら、原因はひとつ・・・
あっ・・・いけない、遅刻しちゃう)
雪音は姉の様子がいつもとおかしいのに気付きながらも
時間が無いということも手伝って、大急ぎで好物のクロワッサンを
口に頬張った。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







(いっけないっ、本当に遅刻しちゃう)
雪音は制服に着替えると、
足早に玄関に向かう。



「ユキちゃん、お弁当忘れてるわよ」
未夢は可愛らしい包みをふたつ手渡す。
「ありがとう、もう一つは”先生”の分ね」
雪音は姉お手製のお弁当に心が踊りつつも、
もう一つの包みを見ながら複雑な想いに駆られていた。



雪音がそんなことを考えている間に
未夢はもう一つ包みを取り出した。
「あとそれからこれは
ユキちゃんの好きな人に。
一緒に食べてみたら?」



言い終わらないうちに
雪音の白い肌が桜色に染まる。



「も・・・もう、お姉ちゃんたら
私の気持ちも知らないで」
そう言いながらも、包みを大事そうに
胸に抱えた。


「ほら、早く行かないと遅れちゃうわよ」
未夢はそんな妹の姿を可愛らしく思いながら
軽く背中を押した。


「あっ、いけないっ・・・。行って来ます」
雪音は、未夢にそう告げると、玄関にある両親の写真を
軽く指でなぞると、小さく呟いた。


(お姉ちゃんも私も元気です。行ってきます♪)



未夢はそんな妹の姿を微笑ましく見守っていた。
自らの決断を胸に秘めながら、
きっと分かってくれる・・・
そう信じながら。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






=私立 青陵学園・中等部=



雪音は何とか遅刻せずに済んだものの、
授業中も、ずっと上の空だった。



英語教師が、何か言っているように聞こえるが
まるで耳に入らない。



ふと、両親が事故で死んだ日のことを思い出す。
随分前には自分にも温かい家庭があった。
両親がいた、姉がいて、自分がいて。
毎日笑っていた。


そんな日々が両親の事故によって
呆気なく崩れ去ってしまった。
とある実験中による事故と聞いているが
原因は今でも定かでは無いらしい。



そして、同時に自分を母親の替わりになって育ててくれた
綺麗で、純粋で、温かくて
寂しいときも、嬉しいときも、
自分を支えてくれた姉。


どんなに感謝してもしきれないものがある。


そんな姉との関係が最近、すれ違っているのが分かる。
思えば、この間のデートから様子がおかしい。
昨日の電話だって・・・。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








雪音は宿題に詰まって気分転換に何か食べようと
階段を下り、台所のドアに手を掛けると
未夢の声が聞こえてきた。
誰かと電話で話しているようだった。




会話の内容により、相手はすぐに特定出来た。
(何だ、”先生”か。意外とマメなのよねえ)


そう思いながら、姉と恋人との会話を
邪魔するのは野暮だと思い、部屋に戻ろうとすると
気になる会話が耳に入った。



「この間はありがと。すごく嬉しかった」
「え?返事?何の事?」
「?来週なら空いてるけど、
急にどうしたの?あっ、切れちゃった
何怒ってるのかしら?」


恋人同士の何気ない会話。
なのに妙な胸騒ぎがする。
しかし、気のせいだろうと思い直し、
部屋に戻った。



(昨日の電話・・・か。)



さまざまな出来事が頭の中でぐるぐる回る。
そして、次第に不安に変わっていく。



しばらくして、チャイムの音と共に
午前中、最後の授業が終了する。


(あっ、いけない。私、”先生”にお弁当届けるの
忘れてた)


授業終了と同時に雪音は足早に教室を出ていった。
その様子をクラスメイトは不思議な眼で見つめていた。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








雪音はキョロキョロしながら廊下を歩いていると
目的の人物を見つけて、声を掛ける。
「先生、西遠寺センセ」
青陵始まって以来の優秀かつニヒルな数学教師・西遠寺彷徨は
自分が担任している生徒に呼び止められて
その呼び名には似つかわしくない笑顔を浮かべた。




「お・・・雪・・倉折か」
「雪音で良いですよ」
「いや、学校ではやっぱりマズイだろ」



ふたりはこそこそ話していたが、さすがに
周りの眼が気になったのか、いつものように
校舎の裏庭へ、場所を移すことにした。




「はい、これ。お弁当」
「おっ・・・さんきゅ」
彷徨は照れくさそうに頭を掻きながら
可愛らしい包みを大事そうに受け取った。




「ところで、先生・・・お姉ちゃんと何かあったでしょ?」
図星を突いたのか、彷徨はゴホゴホッと咳をする。



(ま・・・まぁ、あったことはあったんだが・・・)
そう心の声で応えながら彷徨は雪音の方をちらりと見やる。
木により掛かりながら、何処か遠くを見つめている。。
その瞳は何処か寂しそうで、不安な表情を覗かせていた。



雪音とも随分なつき合いになるが、本当に敏感な娘だなぁと思う。
きっと自分の考えていることも、大方分かってしまっているのだろう。
出会った頃を思うと、本当に明るい子に成長して良かった・・・。



(だけど、今は話す時期ではないな。)



そんな事を考えながら、今の雪音に最も適切な言葉を探す。
「大丈夫、たいしたことじゃないよ」



雪音はそんな彷徨の気持ちに応えるように
切れ長の瞳を優しく見つめ返す。
何処か寂しくて、複雑な気持ちを宿しながら。



「そうなんだ。それなら良かった。
私、今日はちょっと用事があるから行くね。
一緒に食べられなくて、ごめんなさい」
雪音はもう一つの包みを大事そうに抱えると
その場から逃げるように立ち去った。



「あ、ああ」
今の彷徨にはそう応えて、妹同然の存在である彼女の
後ろ姿をただ見守るしか出来なかった。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








「今日はここまで。体育委員、片づけ手伝ってくれ」



ピーという笛の音と共に
二年のとあるクラスの体育の授業が終了する。
この学校の体育教師、長身で細身の体型、
切れ長の瞳が印象的な滝波史郎は体育委員の生徒と共に
ボールやら、用具を片づけ始めている。



史郎はバスケットボールの入ったカゴを
持ち上げると、体育倉庫まで運び始める。



「ん?ありゃ誰だ?」



ふと、渡り廊下を隔てた裏庭に
ふたつの人影が目に入った。
思わず凝視する。




「あれは、となりのクラスの倉折と・・・担任の西遠寺?」
話し声は聞こえなかったが、雪音が彷徨に包みを渡している
様子は確認出来た。今は昼休み。あれが弁当だということは
予想がつく。



「ったく、”西遠寺せんせい”は、女に興味がねえって顔しながら
生徒に手だしてんのか?」



(よりにもよって、倉折とはな・・・)
倉折雪音は、教師も一目置く、優等生であったが
あまり心を開かない生徒でもあった。
それが、担任の彷徨には砕けた表情をするのは知っていた。



史郎の胸がズキンと痛む。
生徒が担任の教師と付き合っていようと
自分には支障が無いはずなのに、
この胸の痛みは−








倉折雪音との出会いは、今年の春。
新任教師として、社会人として、
人生の第一歩を踏み出した4月。



史郎は緊張を少しでも解すために、汗でも流そうと
体育館に向かった。が、扉を開くと先約がいた。



そこにいたのは、青い瞳が印象的な美しい少女・・・
それが雪音だった。

彼女はバスケットボールを両手で抱えると、シュートを放つ。
ボールは鮮やかにゴールをすりぬけた。


「上手いなぁ。君、バスケ部か?」
思わず、声を掛ける。
雪音は突然の声に驚いたのか、
眼をまん丸くしていた。



「違います。私・・・ちょっと、気分転換がしたくて。
占領しちゃってすみません」



「別にそんなの良いよ。俺も同じ理由で
ここに来たんだから」



・・・・・



しばらくの間、沈黙が続く。
その後の第一声は少女の方だった。



「あの・・・新しい体育の先生ですか?」
「ああ、まぁな」
「私、二年の倉折雪音と言います。よろしくお願いします」
「俺は、滝波史郎。よろしくな。バスケ部の顧問もすることになった
部員が来る前に準備しとかなきゃと思ってさ」


お互い、緊張しながらも爽やかな笑顔を浮かべて見せた。
そのとき見せた雪音の笑顔が
史郎の中で今でも鮮明に残っている。




それが、倉折雪音との出会い−



その後、彼女についていろいろな事を知った。
少し年の離れた姉がいること、
両親が他界していること。


そして、想い人がいるらしいということ。


ただの教師と生徒として接してきた毎日に
変わりはなかった。それは、今も、そして
これからも、同じはずだった。



が、今、この瞬間から
史郎の中で何かが変わろうとしていた。




−嫉妬という感情によって・・・








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








彷徨と別れた後、雪音は屋上にいた。
遠くの景色が、いつの間にか滲んでいくのが分かる。


嬉しさと同時に
やりきれない寂しさが込み上げてくる。



澄み切った青空が、イタイくらい胸に突き刺さってくる。
空はこんなにも青いのに、自分の心は晴れない。


いっそ、雨でも降ってくれていれば
少しは救われたかもしれないのに。


−悪意の無いやさしさは時折、
人の心を傷付けるナイフにもなるのよね。



雪音は、屋上の手すりを握りしめながら
澄み切った青空にそう語りかける。




こんなとき、誰かが側にいて
支えてくれたらいいのにと思う。
だけど今の私に、そんな人はいない。
本当の自分をさらけだすことの出来る友人さえいない。
完璧な優等生を演じ続けた結果がこれだ。



が、苦しい想いを抱えながら毎日を過ごす自分に
後悔したことは一度もない。


−今は、泣いている場合じゃないんだ。
そう思い直して、ふぅと深呼吸をしてみる。


「さてと、お弁当食べなきゃ昼休み終わっちゃう」
雪音はハンカチで涙を拭うと、足早に屋上を後にした。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆









「そう言えば、もう一つのお弁当どうしよう」
雪音は食べる者がいない包みを見つめながら
思わずため息をついた。




雪音はあれから、女子バスケットボール部の部室で
食べることにした。たまには友人の輪に囲まれながら
食事と言うのも悪くない。



それが、悲しみと苦しみの上に覆い被さった仮面だとしても。
今は、そうするしかない。



行き場の無い想いは、自分の力では
どうすることも出来ないから。




(今日も渡しそびれちゃったな。せっかくのお弁当。
お姉ちゃん悲しむよね)



心の中でそう呟きながら
部室のドアを開けようとしたその時−



−ドサッ



ふと何かに衝突した。




「大丈夫か?」
低く通る声が雪音を正気に戻す。

良く知っている声−

私の心を掻き乱す声。




「た・・・滝波先生」
「お前、こんなところで何してんだ。
もうじき昼休みも終わるってのに」
声の主、史郎は少しぎこちなく言葉を進めながら
地面に座り込んだままの雪音に手を差し出した。



「あ、ありがとうございます」
雪音制服のスカートに付いた砂を払いながら立ち上がると、
自分の手にあった筈のお弁当の包みが、いつの間にか
もう片方の手でしっかり抱えられているということに気が付く。



「これ、お前の弁当だろ?間一髪キャッチ。
まぁ、バスケのボールって訳にはいかないけどな」
そう言って照れくさそうに頭を掻いた。



「ごめんなさい。私・・・考え事をしてて。
先生こそどうしたんですか」
雪音は予想もし得なかったアクシデントに
おたおたしながら言葉を返す。



「ん?ま・・まぁちょっとな」
史郎は雪音の様子が気になって付いてきたとは
言えるはずもなく、ぎこちない様子で応える。



雪音はそんな史郎を見ているとなぜか、ほっとした気分にさせられた。
先生であるはずなのに、先生でないような。


(滝波先生なら分かってくれるかもしれない。
思い切って打ち明けてみようか。)


そんな思いに駆られた。




「あの、良かったら部室でお昼一緒に食べませんか?
お弁当もふたつあることですし。さっきのお礼です」
そう言って、ふんわり笑顔を浮かべた。




「これって、ふたり分なのか?
お前がひとりで食べるもんだと思ってたよ」
「あ、ひどいです。お姉ちゃんが友だちの分も
作ったんだけど、その子、今日学校休んじゃったから」
「冗談だよ。でも、いいのか?」
「はい。いつもお世話になってますから」


ふたりはそんな会話を交わしながら
部室に入って行った。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








お弁当の蓋を開けた途端、史郎は目を輝かせた。
中身はミートボールにトマトとレタスのサラダ。
チキンに、竹の子ご飯。人目で見ただけで
手間の掛けられた料理だということが判断出来る。




「お前の姉ちゃん、料理うまいんだな
俺さぁ、この年になって彼女もいねぇから
こんな手の込んだ料理久しぶりだよ」
史郎はそう言いながら、ご飯を口一杯に頬張る。



雪音はそんな史郎の意外な一面を垣間見て
ふふっと笑う。


そんな様子が何だか可愛くて。
部活や授業のときは、凛々しいという印象が強いから。



(人に喜んで貰うとこんなに嬉しい気持ちになるのよね。
こんな想い、本当に久しぶり。)


そんな気持ちを胸の中に秘めながら。



「私、両親がいないんです。お姉ちゃんが母親替わりになって育ててくれて」
「あぁ、それは知ってる。」
史郎は箸を休めて、雪音の方に向き直る。



「だから、一度も寂しいと感じたことはありませんでした。
お姉ちゃんに彼氏が出来るまでは」
「までは?」
雪音は顔に寂しそうな色を宿しながら話を続ける。
史郎は思わず身を乗り出して聴き入った。



「お姉ちゃんの彼氏、私の家庭教師だったんです。
お互い一目惚れってやつ。なかなかロマンチックでしょ?」
雪音はふふっと自嘲の笑みを浮かべる。



「その人、私が自分の殻に閉じこもっているのを
救ってくれたんです。とっても素敵な人・・・」
そうつぶやいて、想いを馳せる。




史郎はそんな雪音の表情に胸の痛みを感じながらも
黙って話の続きを待った。




「でね、そのお姉ちゃんと彼が結婚するかもしれなくて。
さっきお弁当を渡しに行って、はっきり分かったの。彷徨お兄ちゃんて
ああ見えても人一倍純情だから」



「”彷徨お兄ちゃん”っておい、お前の姉ちゃんの相手って・・・」
史郎はその言葉に驚いて、眼をぱちくりさせる。



「そうです。私のクラスの担任、西遠寺先生」
「そっか・・・」
史郎は雪音の表情を見て少し切なくなる。



(そうか、そうだったのか。あのときふたりで会っていたのは・・・
そしてあいつは、あいつの想いは)



なんでだろう・・・お前がそんな顔してると、俺までつらくなる。
悲しくて、切なくて、何とかしてやりたくなる。
この気持ちはいったい・・・。



「よし、食後の運動でもするか」
「え?」
「ほらっ」
史郎は部室にあったバスケットボールをぽ〜んと雪音の方に投げた。






「よし、そこでフェイントだ」
「はい!」
「どうした、いつもの動きがないぞ」
「はい!」
「そこでシュートだ」
「はい!」




雪音は史郎に全力でぶつかっていった。
史郎の想いに応えるように。



(もしかして、先生、私を元気付けようとしてくれてるのかな?
ううん。そうでなくてもいい。先生とこうしてると、
心が救われるような気がするから)




雪音は史郎の想いを感じながら、心が洗われるような気がしていた。
いつか、この気持ちにまっすぐ向き合える日が来るのだろうか?
そう想いながら。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







ふたりは昼休みが過ぎても
練習を止めなかった。
そして、部活が終わる時間になっても・・・。



「おい、倉折。起きろ」
史郎は大声を上げてもぴくりともしない
雪音の身体を揺すった。



「う・・ん?」
雪音はキョロキョロと周りを見回しながら
眼を擦る。部室の時計は夜6時半を差していた。



「先生?私・・・あっ、もうこんな時間。
あれから疲れて眠っちゃったんだ」




「まぁ、殆ど俺の責任だからな。家まで送っていくよ」
史郎はバイクのキィを取り出すと、自分に付いてくるように
促した。




史郎のバイクは深紅のドゥカティ。
雪音は彼の体温を背中で感じながら、
今日のことを振り返っていた。




先生といる時間が、今までとは違うように思えてくる。


まるで、世界の色が違って見えてくるような不思議な感覚。


初めてのタンデム。



メットとメットがぶつかって、独特の音を創り出す。



バイクの後ろに乗って、海の蒼がみたいの。



怖がるフリして背中、ぎゅっとしがみつくから。



感じてね鼓動。魂をあげる



生きている熱さ、確かめたくて・・・。




そうか、これはあなたへの真剣(ほんき)な気持ち。
私は滝波先生が好きなんだ・・・。


雪音はそう確信した。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








「ほら、着いたぞ」
「は・・はい」
「ほら」
史郎は雪音の姿をぽんと押した。
目の前には最愛の姉ともうじき兄になる?
担任教師の姿。



「未夢お姉ちゃん、心配かけてごめ」


未夢は雪音がそう言い終わらないうちに
強く抱き締めた。




「ユキちゃん、ごめんね。私、ユキちゃんの
想いに気付いてあげられなかった。
ユキちゃんが彷徨を好きなことも、
私達のことで、寂しい想いをしていることも。
滝波先生から連絡貰わなかったら私・・・」
新緑色の瞳が涙で染まる。





「雪音、お前は俺の大切な妹だよ。今も、
そして・・・これからも」
彷徨はニッコリ微笑むと
雪音の頭を優しく撫でた。





雪音の心を閉ざしていた氷がふたりの深い愛情によって
溶かされていく。





史郎は雪音の上にも幸せな星が降るように
願いながら、三人に別れを告げると
バイクを自分の家に向かって走らせた。






「史郎先生、ありがとう」
雪音の心は感謝でいっぱいになった。
自分の周りがこんなにも愛情に溢れていることを
教えてくれて。



もう、大丈夫。



新しい恋に向かってまっすぐに歩いていけるような気がする。



あなたに向かって。





いつか、何かの本で読んだような気がする。
多くの人に自分のものを分け与え、何も無くなってしまった
少女の上に星の金貨が降り注いだと。




史郎さんが振らせてくれた星の金貨・・・
これからも、大切にしたい。




ずっと、誰よりも




あなたが好き。




ホントよ。





いつか巡り会う、Rocomotion Dream
あなたの横にいるのが私でありますように。





そう、願った。








THE END










〜後日談〜




「で、姉ちゃんの挙式っていつなんだ?」
「うん、今年の秋頃って言ってました」
「そっか」



放課後



ふたりは練習の合間にこっそり会うことが
日課となっていた。




「でもさぁ、未夢お姉ちゃんたら、お兄ちゃんに指輪貰ったのに
プロポーズの言葉に気付かなかったんだってよ。まぁお姉ちゃんの
天然ボケは今に始まった事じゃないけどさ」
雪音は呆れたようにふぅとため息をつく。




「未夢さんらしいな」
史郎も納得して頷く。





「でもいいなぁ、花嫁さん。私もいつか・・・」
「いつか?」
「ううん。何でもないです」




(そうだな、いつか俺達も。だけどもう少し、もう少しだけ待ってくれな)



いつものように流れていく幸せな時間を噛みしめながら
史郎はそんなことを想っていた。





「さぁ、練習するぞ」
「はい!」






The End













 
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





というわけで、ついに書いてしまいました。
栗田しゃん小説の雪音ちゃんと史郎くん。
今まで書いてみたくて。だけど機会が無くて。


今回、栗田しゃん復帰記念ということで
ここぞと思い、書かせて頂いちゃいました。


にしても、妄想+体験談など入れてしまったら
大変なことになってます。結局広げた伏線を
まとめ切れて無くて最後は思いっきり端折ってます(汗)。
彷徨と史郎くんも絡める予定だったのにあんまりだし。



栗田しゃん、復帰&70000Hitおめでとうございます。
今後ともよろしくお願い致します。




2003.6.6 流那









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