作:中井真里
ある日、ノリコは思い付いたように言った。
「ねえ、イザーク」
「どうした?」
「私、一度試してみたいことがあったんだけど」
ノリコは少し悪戯っぽく笑った。
それは昼下がりのこと。ふたりは馬に跨って
午後の散歩を満喫していた。
それにしても、こうして馬に乗るのも
ゆっくりとした時間を過ごすのも、本当に久しぶりだった。
お互い、国の整備やら何やらで、忙しい毎日を過ごしていたからだ。
馬を下りたふたりは、馬小屋にて愛馬の世話をしていた。
イザークの頭によぎるのは、先程に発せられたノリコの言葉。
気になって仕方が無いので、
思い切って、聞いてみることにした。
「その・・・ノリコ、試してみたいことって何だ」
「ふふ、それはね・・・あっ、ちょっと待ってて」
ノリコはまた先程と同じ様な
何か企んだような笑みを浮かべると、町の方向に走っていった。
いったいどうしたと言うのだろう?
イザークは思わず頭をぽりぽり掻くのだった。
「イザーク、ちょっとそこに座ってみて」
「あ、ああ」
ここはふたりが住んでいる、町はずれの一軒家。
イザークは訳が分からないと言った状態で
椅子に座るよう、促された。
ノリコが帰ってきたのは夕刻のことだった。
手にはカゴを抱えており、その中には
染料らしき瓶がいくつかと、ブラシが収められていた。
「良いっていうまで、目を瞑っててね」
「あ、あぁ」
イザークは言われるままに眼を閉じた。
ノリコはふんふんと鼻歌を口ずさみながら作業を進めていく。
手には布製の手袋。そして、瓶に入っていた染料を
小さな器に移すと、ブラシを使って伸ばしていく。
染料は主に青に近い色が揃っていた。
藍色とも言えるだろう。
そして、それをイザークの頭に丁寧かつゆっくり塗っていく。
数時間後。イザークの頭は鮮やかな青色に染まっていた。
「もう良いわよ。眼を開けて鏡を覗いてみて」
イザークは眼を開けると、渡された手鏡を覗いた。
すると、いつもとは違う、青い髪の自分が移っていた。
「ノリコ、お前やったな」
イザークはいつもと違う自分の姿に驚きながも、
少し呆れたようにため息をついた。
「だって、試してみたくて。イザークの髪って、うらやましいくらい
さらさらでしょう。それに絶対青い色に染めたら似合うって
前々から思ってたんだでも予想通り、とっても似合うよ」
そう言って、ふんわりと笑った。
まぁ、いいか・・・ノリコが似合うって言うなら
たまにイメージチェンジするのも悪くない。
イザークは照れくさそうに頭を掻くと
ノリコの言葉に応えるように微笑みを浮かべた。
(幸せなら、それでいい)
心の中でそう呟いた。
THE END
追伸
しばらく、髪のことで町中の人々に
ひやかされる事態に至ったのは言うまでもない。
□■□
「彼方から」より、ノリコ×イザーク。
これも昔に書き散らした代物です。
恥を忍んで拍手に公開していました。
ラブラブ新婚さん風のふたりということで。