ラブストーリーはここから

作:中井真里



私にとって、あの出来事は単なるきっかけに過ぎなかった。

そう。そうなんだ。

ほんとうの恋のはじまりは、

私が主役のラブストーリーのはじまりは

ここからなんだ。

私は頭の中で自問自答をしながら、
テーブルの上に広げていたノートを閉じた。






□■□






私が廊下で出会った男の子、運命の人・・・じゃなくて、
花小町栗太くん主演の劇が上演されてから三ヶ月。

彼の人気は少しずつだが上り調子のようだった。

眼鏡をかけている状態の彼は、単なる地味な優等生なのだが、
いざとれば、イトコであるクリスちゃんにそっくりの麗しい顔立ちに、
トップクラスの成績、財閥の御曹司という元々の肩書きが加わって、
うち(四中)の二大美形と名高い西遠寺くん、光ヶ丘くんに並ぶほど、
競争率の高い美少年が出来上がる。

しかも、二大美形には相応の彼女が出来てしまったから、
彼への視線が集まり始まるのも自然なのかもしれない。
いや、今まで無かったほうがおかしいのだ。

彼も二大美形同様「選ばれた美少年」なのだから。




「それにしても納得がいかないな」
「何が納得いかないの?」
「え?」



気が付くと、新緑色の瞳が私を見つめていた。


いけない。いつものくせなのよね。
考え事すると我を忘れちゃうのよ。
その間に何かをやらかしちゃうことも多いみたいだし。
あぁ、どうしよう。


そんなことを考えているうちに、
新緑色の瞳が少し困ったような表情に変わった。



「ねえ、綾ちゃん変じゃない?」
「いつものことだから、気にしなくても大丈夫だよ。ねえ、クリスちゃん」
「いつものことですわね。綾さんらしいですけど」
「それにしても変だと思うんだけどな・・・」



そう、今日は私達のグループでは恒例のお泊り会も兼ねて、
みんなで夏休みの宿題をしようって、朝から西遠寺に集まったんだっけ。
何せ、受験生だもんね、私達。この夏が勝負って訳。


未夢ちゃんは彼氏に遠慮しているみたいだったけど、
何より他の家でやって、遅くなったりでもしたら、
それこそ私達が心配性の未夢ちゃんの彼氏に大目玉だもんね。
ただでさえ、女のおしゃべりは長いんだから。


で、みんなで宿題とにらめっこしてたら、急に栗太くんのことが
思い浮かんじゃったわけ。
夏休みで会えなくて、少し寂しかったのかもしれないな。


っといけない。またいつものクセが。




「おーい。綾ちゃーん」
「な・・・何?」



新緑色の透き通った瞳に再び覗き込まれて、私は思わず声を上げた。



「綾ちゃん、大丈夫?さっきからぼんやりしてるから気になっちゃって」



四人組のひとりである未夢ちゃんが、心配そうにこちらを見ている。
ななみちゃんは訳知り顔という感じで、面白そうに見ているし、
クリスちゃんはクリスちゃんで、そんな私のことを興味深そうに観察しているように見える。



「大丈夫。心配しないで。夏バテかなぁ。あはは」
「綾ちゃん・・・」
「綾・・・」
「綾さん・・・」



私はわざとおどけて見せたが、その場しのぎの誤魔化しが、
この三人に通用するはずは無かった。






□■□






「で、何が納得いかないのかな?綾」


この三人の中では一番鋭いななみちゃんが先手を切った。
クリスちゃんもそれに同調する。


「おそらく、美少年コンテストのことですわね?ななみさん」
「美少年コンテストと言えば、今年の一位は花小町栗太くんだったよねえ。未夢さん」
「そうそう、花小町栗太くん。で、栗太くんがどうしたの?」


未夢ちゃんがお約束のボケをかまして、
一瞬体の力が抜けてしまった様子のななみちゃんとクリスちゃんだったけど、
気を取り直して話を続ける。


「いい、未夢。この間、綾は初めて栗太くんと出会ったじゃない?
そして、彼に劇の出演を依頼したわけ。そのおかげで彼の人気は急上昇」
「そうして美少年コンテストの栄冠は、西遠寺くんと望さんを抑えて、
栗太の頭上に輝いたわけですわ」
「だけど、綾には納得がいかなかった」
「彼のよさに気が付いたのは私なのにって・・・という感じですわね。綾さん」



二人のやりとりに、さすがの未夢ちゃんも納得したようだった。
でも、私ってそんなに分かりやすい人間だったのか・・・。




「その通り・・・かな?だってこないだまで、西遠寺くん、光ヶ丘くんって
大騒ぎしてたのに、急に花小町くんだなんて、虫が良すぎるわよ」

私は少しすねたように口を膨らませて、三人に本音をぶちまける。



「確かに私もそう思うけど、栗太くんって結構素敵だよね」
「未夢ったら、西遠寺くんに言いつけちゃうよ」
「な・・・ななみちゃん。そ・・・そんなんじゃないったら。
そりゃあ、栗太くんは素敵だけど、
好きな男の子って感じじゃなくて・・・その・・・」
「ななみさん、未夢ちゃんで遊んじゃだめですわよ」



ななみのからかいに本気で顔を真っ赤にする未夢ちゃん、
それを穏やかな口調で嗜めるクリスちゃん。
いつもの三人だ。私は思わずぷっと噴出した。



「綾。笑っている場合じゃないわよ。この際、とことん聞かせてもらうから」
「ふふっ。今日は寝かせませんわよ」
「ふ・・・ふたりとも、とりあえず宿題終わらせないと、後が大変になっちゃうよ。
夏休みなんてあっという間なんだから。うん」


すっかりその気になっている、ななみちゃんとクリスちゃんを、
今度はしどろもどろの様子の未夢ちゃんが止める。



「しょーがないな。今は未夢に免じて許してやるか。でも夜は覚悟してなさいよ」
「綾ちゃんのお話聞くのを楽しみにしてますわ」


ふたりはそう言って、自分のノートに顔を戻した。
私はほっと胸をなでおろして、未夢ちゃんに心から感謝したのだった。




それからどのくらい時間が経ったのだろうか?
未夢ちゃんの部屋の襖のドアが静かに開いた。


宿題の大半をやり終えて、朦朧とした意識の中で、
襖の開いた方向を四人同時に見つめると、
この家の住人で、未夢の彼氏でもある西遠寺くんがひょっこりと顔を出した。



「おつかれさん」


そう言って笑った彼の表情は、学校で見るどの表情よりも砕けていて、
すごく優しそうに見えた。彼にとって、未夢ちゃんがどれだけ特別な存在なのか、
こんなところで再認識したりする。



「彷徨、どうしたの?」


未夢ちゃんはポカンとした表情で、彼の方を見ている。
まさか、私達のいる部屋に入ってくるとは思わなかったんだね。
ふふっ。なんだか初々しいなぁ。



「おまえら、昼飯食ってないだろ?」



ふと部屋の時計を見ると、いつの間にか時計は午後の二時を指していた。



「そういえばお腹すいたね」
「あたし、もうお腹ぺこぺこだよぉ」
「私もお腹がすいたみたいです・・・宿題に夢中で忘れてましたわ」


そんな三人につられて、私のお腹がグーッとなった。



「昼飯作っておいたから、食べに来いよ」
「彷徨・・・ありがと」
「その・・・頑張ってるなって思ったから・・・さ」


ふんわり笑う未夢ちゃんの横で、照れくさそうに頬を掻く西遠寺くん。
もう見慣れた光景だけど、私達はお腹がすいてるのと、
ふたりが相変わらずなのとで、思わず深いため息をついた。






□■□






西遠寺くんの作ってくれた「ぶっかけ素麺」は、思った以上に美味しかった。
麺の茹で具合と言い、その麺にかけられた露の絶妙さと言い、
四人の中で、プロ並みの腕を持つクリスちゃんでさえ、感心する程だった。


「西遠寺くん。失礼ですが、茹でる時にどんな水をお使いになりました?」
「さすが花小町。目敏いな」


そう言って、西遠寺くんにレシピの内容を詳しく聞いている。
彼も自分の料理魂?が揺さぶられたのか、あれやこれやと話をしている。


私の横に座っているななみちゃんなんて、もう夢中で食べていた。
それは未夢ちゃんも同じらしく、私が様子を伺っていることなんて、
気が付いていないようだった。



「彷徨。すごく美味しいよ。これ」
「・・・元気、出たみたいだな」



そう言って、未夢ちゃんの頭を優しく撫でる西遠寺くんの姿が目に入る。



「だって、宿題終わるか心配だったから・・・」
「まぁ、よく頑張ったな」
「えへへ」



今にも彼の表情が綻びそうになるのが分かる。
私はそんな雰囲気に耐えられなくて、思わずコホンと咳払いをして見せた。


クリスちゃん、ななみちゃんのふたりも同じ気持ちだったようで、
こちらを見て苦笑している。




「あ・・・ご・・・ごめん」
「・・・・・」



未夢ちゃんは恥ずかしそうに顔をほんのり赤く染めて、
たどたどしい口調でそう呟いた。
一方の西遠寺くんは、そっぽを向きつつも、頬は赤く染まっている。
「あの西遠寺くん」とは思えないほどにね。



何だか未夢ちゃんがいつも以上に羨ましく感じられた。




「・・・それで・・・だな。お前らこれからどうするつもりなんだ?」



西遠寺くんが先ほどの雰囲気を引き摺りながらも、たどたどしい口調でそう言った。



「午後は、デパートまで買い物にでも行こうって話してたんですのよ。
今日のお昼のお礼も兼ねて、今夜のお夕飯は私達がつくりますわ。ねえ、皆さん」



そう言ってにっこり笑うクリス。
彼女には料理人としての魂を刺激されたような表情が、ありありと浮かんでいた。
そんな彼女を私達が止められる筈も無く…。



「そ・・・そうだね。あ・・・あたしもたまには料理したいな。ねえ、綾」
「そう・・そうね。演劇のネタにも使えそうだし・・・。ねえ、未夢ちゃん」
「う・・・うん」



クリスちゃんの問いかけに、たどたどしく答える私達。
西遠寺くんはいつものことだなと、楽しげに笑った。



それから、黒須くんと約束があるという彼とは別行動を取ることになり、
私達は「買い物」と、「夕食を作る」という、ふたつの目的を果たすべく、
地元の駅近くにあるデパートに向かうこととなった。



思いもよらぬ再会が待っているとも知らずに・・・。






□■□






地元駅近くのデパートには、夏休みということもあり、沢山の人で賑わっていた。
先ほどから親子連れ、カップルなど、演劇のネタに出来そうな人達を見掛けると、
手元のメモ帳に記録するという繰り返しが続いていた。


そんな私をななみちゃんやクリスちゃんは呆れ顔で見ているけどね。



「全くこの子は・・・。宿題が終わって開放感に浸るのは分かるけどさ」
「ふふっ。綾さんらしいですわね」
「三人とも早く早く〜♪」


気が付くと、少し前にはさっきからはしゃぎっ放しの未夢ちゃんが、
早く来いと言わんばかりに手を振っていた。



未夢ちゃんのリクエストで最初に向かったのは、
夏服のバーゲンをやっているという売り場。
今年はいろいろな事が重なって、バーゲンに行きそびれてしまったみたい。
確かに西遠寺くんとのデートでバーゲンというのも色気が無さ過ぎるしねえ。



集団の中に紛れ込み、何とか掘り出し物を手に入れた私達は、
夕食の買い物をするために、地下の食料品売り場に来ていた。


クリスちゃんと未夢ちゃんは何だかんだと言い合いながら、
思い思いに食材を物色しているし、
ななみちゃんはあちこちの試食コーナーの探索に夢中。
私は相変わらずだなと思いながら辺りを見回していると、
見覚えのあるメンバー達と目が合った。



「あれえ。小西さんじゃない。どうしたの?」



私に話しかけたのは、クラスメイトの黒須三太くん。
私以上に変わった趣味を持つ男の子。
これでもななみちゃんの彼氏だから驚きだよね。


後ろから、西遠寺くん、光ヶ丘くんも歩いてくる。
そして、さらにその後ろをトボトボ歩いているのは・・・。
私は思わず顔を反らした。


いやだ・・・。何でこんなところに来ているんだろう。
こっちは心の準備も出来ていないというのに。
私の心はそんな想いでいっぱいになっていた。



「・・・黒須君たちはどうしたの?こ・・・こんなところで合うなんて奇遇ね」



私は自分の気持ちの変化を悟られないように、ありきたりの会話を振る。
最も、鋭い西遠寺くんは、私の態度はもうバレバレというような表情をしているけど。


「いやぁ、ここの地下で中古レコードフェアやっててさぁ。
図書館の帰りに彷徨達をつき合わせてここまで来たんだよ。
で、偶然栗太にも会ってさぁ。暇だって言うから一緒に連れてきたんだ」


君は仮にも受験生だろう。そんなありきたりの説教をしたくなるほど、
この男は暢気だなと思う。後ろで西遠寺くんも、光ヶ丘くんも呆れている。


そんな彼等の後ろから、今や「二大美形に」肩を並べる程
麗しい顔立ちの美少年となった栗太くんが、
恥ずかしそうにひょっこり顔を出した。いまさらだけど、反則よね。ホント。


そのとき、クリスちゃん達の買い物が長引きそうだとななみちゃんからメール。
結局、三太くん達に付き合って、同じ階のレコードフェアに行くことにした。
こっちの方が、ネタ的には面白そうだったしね♪


中古レコードを夢中で漁っている黒須君の様子や、
それにしぶしぶつき合わされている西遠寺くんや、光ヶ丘くんの様子を横目で見ながら、
私達はぎこちないながらも、いろいろなことを話す努力をした。


「あ・・・あの・・・こ・・・小西さん、お久しぶりです。
この間は舞台に出させていただいてありがとうございました。
おかげで少し自分に自信が持てたような気がします」
「こ・・・こちらこそOKしてくれてありがとう。い・・・イメージにぴったりだったから」


なんだかお互い話すだけでも一苦労だなと思う。
あの運命の人だと思ったら、緊張して言葉がなかなか出て来ないのよね。
栗太くんは元々内気な方だから、誰と話すにも同じなんだろうけど。
そう考えたら、ほんの一瞬だったけど、胸がズキリと痛んだ。


「うん。自分に自信が持てたのならいい傾向よね。それでコンタクトにしたんでしょ?」
「ま・・・まぁ、そうですけど・・・」
「他に理由があるの?」
「・・・・・」


私の問いかけに、栗太くんはさっきから黙ったままだ。
もしかして、もしかするのかも・・・。


「もしかして、人には言えないこと?」
「た・・・確かに人にはいえないこと・・・ですね」
「・・・そうなんだ。じゃあ、聞かなかったことにしてあげる」
「あ・・・ありがとうございます。で・・・でも・・・」
「でも?」



栗太くんは私の言葉にほっとしたような表情を浮かべた途端、
先ほどと同じように黙りこくってしまった。


そして、やっとのことで口を開いた。



「あ・・・あの・・・」
「どうしたの?黙ってちゃ分からないよ」



私は訳が分からないと言った口調で彼に聞き返した。



「ぼ・・・ぼくは・・・・その・・・」


そう彼が言いかけたとき、持っていたバックの中から、
携帯の着信を知らせる音がした。
ななみちゃんから、クリスちゃん達の買い物が、
まもなく終わりそうであることを知らせるメールだった。


なんとなく、助かったように感じるのは気のせいかな?



「あの・・・私、そろそろ戻らなきゃ。黒須くん達にもよろしく言っておいて」



そう言って立ち去ろうとした私の腕を、栗太くんが掴んだ。
心臓の音が、一オクターブ跳ね上がったような気がした。
やっぱり彼も男の子なんだなと、当たり前のことを実感する。



「あの・・・夏休み中に、またお会いできませんか?
そのときに、お話の続きを・・・」
「それは構わないけど、私じゃ話し相手には不足かもよ」
「そ・・・そんなことないです」
「それなら携帯に連絡ちょうだい。番号はクリスちゃんが知ってるから」
「は・・・はい」
「それじゃ。電話、待ってるから」




そう言って、返事も待たずに背中を向けて走り出す。
どんなに一生懸命走っても、
心臓の音は、止まってくれそうに無かった。



(私ってば約束しちゃったんだ。いきなり電話なんてずうずうしいって思ったかな?
でも・・・誘ってくれたのは栗太くんなんだし・・・。でも・・・)



ななみちゃん達のところに向かう間中、
そんなことばかりが私の頭の中を駆け巡っていた。






□■□






夕食は、クリスちゃんが存分に腕を振るったミートローフだった。
私達三人は、サラダを作ったり、ご飯を炊いたり、
五人分の食器の用意をしたり。


危なっかしく包丁を握る未夢ちゃんを、
西遠寺くんが心配そうに見ていたけど(うふふ)。


夕食後は、談笑をしたり、テレビを見てあーだこーだと言い合ったり。
お茶を運んで来てくれた西遠寺くんは、そんな私達を見て、唖然としていた。
女のおしゃべりのすさまじさを見たって感じで面白かったけど。


そして、女の本番とも言える夜。未夢ちゃんの部屋に敷かれた4つの布団が、
いつもの部屋とは違う印象を感じさせる。


今日は疲れているということもあり、
早めに布団に入ることにした・・・はずなんだけど、なんだか眠れなかった。
栗太くんの言葉が何度も頭を駆け巡っていたから。
掛かってくるはずの無い携帯を気にしたりして・・・。
何だか最近、私らしくない行動ばかりだ。


そう思って右横を見ると、ななみちゃんのにっこり笑った顔が見えて、
思わず顔を左にそらすと、クリスちゃんの何か企んだ表情が見えた。


この二人の間に寝たことがそもそもの間違いだったのよ・・・。



「で、綾。栗太くんのことが好きになったんでしょ?」
「とても興味深いお話が聞けましたわ。うふふ」
「ひどーい。西遠寺くんか三太くんに聞いたんでしょ」
「わ・・・私はクリスちゃん達が楽しそうに話すものだからつい・・・。ご・・・ごめんね」



未夢ちゃんまで・・・何だか眩暈がした。



「どおりでタイミングよくメールが来たと思ったのよね。
三太くんが栗太くんをつれて来たのも、
ななみちゃんが手を回したのね」



私は拗ねた口調でそう言い放つ。
ななみちゃんは、お見通しだったかと言わんばかりに苦笑しているのが分かる。
クリスちゃんはその様子を興味深そうに見つめている。



「でも、誘われて嬉しかったんでしょ?」
「好きな人に誘われて、嬉しくないはずありませんものね」



未夢ちゃんとクリスちゃんの一言に、ななみちゃんがうんうんと頷く。



「確かに嬉しかったけど、栗太くん、他に好きな子がいるかもしれないし・・・」
「栗太に限ってそんなことはありませんわ。私以上に不器用ですもの」
「栗太くん、きっと綾ちゃんのことを気に入って、誘ってくれたんだよ」
「そうだといいんだけど・・・」
「綾、もっと自分に自信を持ちな。女は当たって砕けろだよ」
「ななみちゃん・・・」



三人の言葉に、私は胸に手を当てて考えを巡らす。


なんたって、栗太くんは私にとって「運命の人」なのだ。
これを逃して、それ以上の恋なんてありえない。


うん、女は度胸よ。


栗太くんが、どんなに他の人を好きでも、
私の気持ちは変わらない。
私の気持ちは誰にも邪魔できないものだから。



そう思ったら、素直に言葉が出てきた。



「うん。私・・・精一杯やってみる。それでダメなら仕方ないけど」



「綾、よく言った。今日はぐっすり寝て、明日は早速その準備よ」
「私もお手伝いいたしますわ」
「みんなで綾ちゃんをコーディネイトするのね」
「そういうこと。がんばるわよ、みんな」



ななみちゃんの声に、同調するクリスちゃんと未夢ちゃん。
楽しげな三人の表情を見ていると、何だか心強くなってきた。
もし、私がひとりだったら、こんな気持ちは絶対に沸いて来なかった。
やっぱり三人は私にとって、自慢の友達だと思う。
ちょっとおせっかいだけどね(笑)。





「運命の人」・・・確かに物語じみているかもしれない。


だけど、この恋が本物だと信じられるから、掴み取りたい。


勇気を出さなきゃ何も手に入らない。



そう思うから。





ここからが、私にとって本当の恋のはじまり・・・。





私は自分自身にそう言い聞かせるのだった。







THE END







(おまけ)





-翌日、デパートにて




「綾、これなんていいんじゃない?」

ななみちゃんが持っているのは、可愛らしい柄のTシャツに、ショートパンツ。


「こっちの方がもっと素敵ですわよ」

クリスちゃんが持っているのは、緑色のチェックが掛かったスカートと、
白いカットソー。


「う〜ん。綾ちゃんにはこっちの方が似合う気がするけどなぁ」

そして、未夢ちゃんが持っているのは、白い生地が基調になっている、
赤い花柄のワンピース。



・・・・・やっぱりこの三人の手を借りたのは間違いだったかな?







□■□






栗田しゃんのサイトの3周年記念に謙譲させていただきました。
以前山稜しゃんのプロットを元にして書いた「あや栗小説」、
「はじまりはここから」の続編になっています。

やっぱり栗太くんと言えば、栗田しゃんの「ナンバーワン宣言」なんですよね。
アニメでは削られてしまったキャラということもあり、多くの二次創作には
登場しないことが多いのですが、栗田しゃんの作品では、
未夢に恋した栗太くんの姿が丁寧に描かれていて、印象的でした。
その栗太くんのキャラを絡めつつ、綾の気持ちを中心に書いてみました。

元々このお話を考え付いたのは、あや栗小説というよりも、
「4人組」に合宿をさせたかったということが目的だったのですが(笑)。


栗田しゃん、3周年おめでとうございます。
そして、これからもどうぞよろすぃく♪


'05.6.30 中井真里



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