秘密

作:中井真里



君は知らないだろうな。

おれの心がこんなに君で一杯だって。

普段は何気ないふりをしていても、
心は、君のことばかり考えている。

こんなこと、誰にも言えなくて。
君にさえ、言えない。

心から惚れてる君にさえ・・・。





◇◆◇




いつもの待ち合わせ、
いつもの帰り道。




「よっ。今日の調子はどう?」
「まぁ、ぼちぼちかな。三太くんは?」
「おれも、おんなじ」
「おんなじ・・・だね」
「あ・・・あぁ、そう・・・だね」




何気ない会話、だけど上手く繋がらないんだ。
彷徨なら、こんなとき器用に立ち回るんだろうなぁ。
あぁ見えて結構マメなヤツだし。

そう思いながら、ようやくぎこちない一言を繋げる。



「・・・太くん、三太くんってば」
「あぁ、ごめんごめん」
「またトリのことでも考えてた?」
「そ・・・そうじゃないけど」
「ふ〜ん」



君は、おれをあやしいといった表情で見つめる。
そんな君の表情に思わず見とれてしまう。

顔、赤くなってるかな。

みっともないよな、こんなおれ・・・。



「・・・まぁ、いいや。それより、私、綾が所属してる
劇団のスタイリストをすることになったんだ」
「おめでとう。ずっとやりたかった仕事だもんな」
「うん」


彼女は、高校卒業後、専門学校に2年通って
スタイリストの勉強をした。

同じ専門学校の演劇科に進んだ綾とは親友同士で、。
一緒にひとつの芝居をつくることがふたりの夢。

彼女達の夢がどんどん膨らんでいく。
それが自分のことのように嬉しい。

こんな気持ち、いままでなかったのに。
不思議だな・・・。自分でもそう思う。




◇◆◇




「ねえ、三太くん」
「ん?」
「修行はうまくいってる?」
「まぁ、ぼちぼちかな」


おれは、何を思ったか、光ヶ丘望のやつとおなじ師匠の下で
修行中の身だ。やつと師匠のマジックショーを見に行ったことが
そもそものきっかけなのだが。


師匠のパフォーマンスに見惚れて、
それからやつに、コンビを組まないかと言われて、
今に至る。



「お前らって結構ウマがあってるかもな」
とは彷徨の弁。



「まぁ、光ヶ丘くんがいっしょだし、心配ないと思うけど」
「あいつ、おぼえるのはやいんだぜ。
おれ、追いつくの大変だよ」
「君が選んだ道だ。男なら最後まで頑張らないとね」
「ななみちゃんらしいね。それ」
「そう?いつでも前向きに行かないと」
「そうだね」



君のそんな言葉に、何度元気づけられたかしれない。
君の言葉があるから、また頑張れるんだ。
おれの夢に向かって、頑張れるんだ。


だから、おれは君が好きなんだ。


「ななみちゃん」
「どうした?」


ゆっくりと顔を近づけて、ぎこちないキス。



「・・・・・」
「ななみちゃん?」
「はじめて・・・だね」
「え?」
「三太くんからしてくれたの」
「・・・・・そうだな」
「嬉しかった」
「ありがとう」


しばらく見つめ合う。


「おれもしっかりしないとな」
「期待してますよ」
「何を期待してるんだか」
「あはは」


今日はほんの少し、君との距離が縮まったような気がする。



君への想いは、おれだけの秘密
まだ、君には言えない。



いつかは伝えられるのかな?
そう思いながら、君の手をぎゅっと握った。
君は嬉しそうな表情でその手を握り返してくれた。



(好きだよ)



もっとはっきりそう言えたらいいのにと思いながら、
今日も君との一日が終わり、始まる。


いつか、堂々と気持ちが伝えられるように頑張ろう。
今はそう思う。






THE END






◇◆◇





WEB拍手用に書き下ろした超ミニミニ短編です。
題して「三ななのにちじょーpart3」(笑)。
実はこれが初三太だったりします。

今まであまり好きな組み合わせではなかったのですが、
書いてみたら結構いいかもとか思ってしまいました。
やっぱり三太ブームなのかも・・・。


中井真里


#BGM 「秘密 by 岡崎律子」


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