作:中井真里
あなたのことを想うと胸がいっぱいになる。
私には今まで縁のない事だと思っていたのに・・・。
今日は2月14日。
生徒会室は、毎年恒例の光景を垣間見ることが出来る。
デートの約束をしているのか念入りに化粧をする可憐。
大量のチョコレートを眺めながらその数を数えている美童。
貰ったチョコレートを一生懸命平らげる悠理。
一方、そんな姿とは対称的に、大量のチョコレートを抱えながら
それらの処理に困って苦笑している清四郎と魅録の姿。
そして私は・・・。
ふぅ。野梨子は思わずため息をついた。
手の中には1人分のチョコレートが覗かせていた。
赤い包装紙に、鮮やかなエメラルドのリボン。
決して渡せる筈のないチョコレート・・・。
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「あっ、野梨子〜そのチョコどうしたんだ?」
悠理が目ざとく見つけて、それを指さした。
と同時に、全員の視線がそこへと向けられる。
「それ・・・うまそうだよなぁ。手作りか?じゅる」
「ついに野梨子も本気になったのね、あたしは嬉しい」
「僕もついに野梨子の保護者卒業ですか・・・」
「もらえるヤツが羨ましいなぁ」
「ふふ、野梨子ってば今日はいつもより綺麗だよ」
5人は野梨子が大切そうに抱えるチョコレートを見ながら
それぞれの感想を述べていた。
「こっ・・・これは自分で食べるために買ったんですわ。
それ以外の何ものでもありません」
少し怒ったように言って、5つの興味深そうな視線から目を反らした。
(それ、手作りか?うまそうだな。じゅる)
彼女の言葉に一瞬、胸が躍っている自分に気付いたが
それを抑えるように立ち上がった。
「すみません、わたくしちょっと
用事がありますので失礼しますわ」
そう言い残すと、唖然としている様子の一同を残して
生徒会室を後にした。
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-夜
野梨子は自室で、ひとり俯いていた。
机の上には赤い箱がその姿を覗かせていた。
行き場を無くしたチョコレート。
まるで自分の気持ちと同じだ。
強がりで、そのくせ臆病で・・・。
こんなにも人を好きになったのは
たった一度だけ。そう思っていたのに。
行き場を無くしたこの想いは
一体どこに行こうとしているのだろう?
想いを伝えるのは怖い。しかし、このままではいたくない。
戸惑いを抱えながらも、野梨子の透き通った美しい瞳は
決心の色で染まっていた。
それから数分後。
野梨子の目の前には大きな門がそびえ立っていた。
胸の高鳴りを必死に抑えながら、インターホンの返事を待った。
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「の〜りこ。どうしたんだ?こんな時間に」
「悠理・・・あの・・・これ・・・」
野梨子は恥ずかしそうに赤い箱を取りだした。
白く綺麗な肌が朱色に染まっている。
「これ・・・あたいにくれるのか?」
「本当は自分で食べようと思って買ったんですけど、
悠理が食べたそうにしていましたし。
どうせわたくしにはあげる方なんていませんから」
そう言って、恥ずかしそうに俯く。
「他のヤツにやるんじゃなかったのか?」
悠理の思いがけない言葉に固まった。
気が付くと、いつもの彼女とは
想像も出来ないほど真剣な瞳がそこにあった。
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「てっきり清四郎か魅録にやるんだと思ってたし・・・」
「悠理・・・あの・・・」
「嬉しいよ。サンキュ。いつも、ありがとな。
それと気付いてやれなくてごめんな・・・お前は大事な友達だから
何よりも大切な親友だから・・・」
それだけで、もう十分だった。
あなたがそう言ってくれるだけで
心の奥底が満たされるように感じていた。
「今日はもう遅いから泊まっていけよ」
「はい」
「あの・・・ありがとう」
「あたしの方こそ・・・な」
もう大丈夫。これで、前を向いて歩いていける。
あなたとの新しい未来に向かって・・・
そう思う。
THE END
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バレンタインネタです。
カップリングは「有閑倶楽部」の野梨子×悠理。
別サイトに投稿させて頂いたものです。
'04 2.22 流那
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