Moon only knows〜だぁ!OVA化プロジェクト〜

vol1 遠いこの街で

作:中井真里







この気持ちは誰も知らない。


止めどなく溢れ出すあなたへの想い。


空にぽっかりと浮かぶ月だけが知っている・・・。



あの日 



桜が辺り一面に舞い散るあの日。



私達は別れを告げた。



『淋しいけど、淋しくない』



そんなあなたの言葉を胸に刻み込む。



「じゃあな。また来いよ」



あなたはそう言って笑った。



そんなあなたの笑顔は、今も私の胸に焼き付いている。



結局私は、胸の奥底に燻っていた感情に背を向けたまま
桜の花が舞い散る西遠寺を後にした。



そして・・・






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






-あれから一ヶ月



私は元の学校で変わらぬ毎日を送っていた。


いつもと同じように家を出て

いつもと同じ時間に帰ってくる。

時には宿題に追われたり

仲の良いクラスメイトと笑い合う。



そんな毎日の繰り返し。


しかし、何かが足りない。


心の中で強くそう感じていた。




彷徨・・・元気してる?



心の中で、何度も問い掛けていた。
伝えられない想いは、心の中に仕舞われたまま・・・。








私が、菊地理花と出会ったのは
そう感じ始めていたときだった。
委員会が終わり、机に座ってぼんやり外の夕日を眺めていた。


昔、彷徨が座っていた真ん中の席。
無意識にその席を探す自分に驚いた。


まるで、そこに彷徨がいて
自分に笑いかけてくれるようで・・・。


私はあれから頑張った。
彷徨と釣り合うように、勉強もした。運動もした。


そのおかげか今は”優等生”と先生に信頼されるようになり
学級委員まで務めている。




『だけどそれはホントの自分じゃない。』




そんなこと最初から分かってる。



だけど、今の自分にはそうするしか無かった。
パパやママの前で寂しいなんて言うわけにはいかなかった。
そう、私は強くなる必要があった。
彷徨のために、なにより自分自信のために。



心の奥底にある感情に、決着を付けるために・・・。




気が付くと、時計は夕方の4時を回っていた。
同時に冷たいものが頬を伝う。





”涙”




(私・・・泣いてるんだ。)



私は自分自身の思った以上の弱さに驚いていた。
そのとき、ガタッと椅子が動く音がした。


誰かいる?


そう思ったとき、ひとりの女の子が私の方をじっと見つめていた。
彼女、菊地理花はこの桜ヶ丘学園でも有名だった。
何でも元暴走族で、有名な問題児らしい。
今は映画製作に没頭しているらしいが。



にも関わらず、私は密かに彼女に憧れていた。
同級生にも好かれていたし、何よりあの笑顔。
私の偽りの笑顔とは違う、本物の笑顔。
心の底から沸き上がる、素直な気持ち。



今の私には到底出来ないことだったから。
ほんの少し前は素直に笑っていたのに。
大好きな友達といられる心地よい空間。
そして、一番大切な人が一番近くにいる場所。



今はここにはない。



自分に笑いかけてくれるクラスメイト、
学校行事。それなりに楽しんでいた。楽しかった。
だけど、彼女のように笑ってはいられなかった。
好きな人の側にいて、どこか無邪気な笑いを浮かべる彼女
私にはないものをたくさん持っていて、本当にうらやましかった。



そんな彼女が、私の目の前にいる。
何だか久しぶりに胸がドキドキした。


彼女は私の態度に少し戸惑ったのか
私が泣いているのを見てしまったので
決まりが悪いと思ったのか
すぐに立ち去ろうという様子だった。



「ご・・ごめんな。見てしもうたから・・・」



彼女の声、こんな近くで初めて聞いた。
いつも大声で、男の子みたいな声だなあと思ってだけど
やっぱり女の子なんだなぁなんて当たり前のことを実感していた。
そして、私も思わず声をかけた。



「菊地さんだよね?」



転入してきて、もう半年以上経っているのに
初めて面と向かって口を聞く子がいるなんて・・・。
そんなことを考えながら。


「あたしのこと知ってるんやな」
「うん、結構有名だから。あ、ご・・ごめん。
初対面なのにこんなこと言って」
「いいよ。気にしなや。それとさ、あたし名字で呼ばれるのも
さんづけで呼ばれるのも好きじゃないから。理花にしてや。」
「うん、分かった。理花だね」



一言二言他愛ない会話を交わす。
私の言葉にも嫌な顔ひとつせず、笑顔で答えてくれた。
私はそんな彼女を眩しく思いつつ、少し戸惑ってしまった。



「あっ、ごめん。私今日帰らなきゃいけないんだった。じゃあね、理花」



(同姓に自分の名前を呼ばれるのも、
名前で呼ぶのも久しぶりだな・・)



内心そんなことを考えながら、ふと仕事のことを思い出し
こう一言告げ、立ち上がると足早に教室を後にした。



(もしかして、変に思われたかな?)



そんなことばかりが私の頭の中をよぎった。
だけど、今の私はそんなことを考えている場合じゃない
そう思い直し、おそらく待たせてあるだろう車を目指して校門まで急いだ。



これが、秋との運命的?な出会いだった。彼女との出会いが、
こんなにも私の運命を変えていくなんて
このときは思っても見なかった。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






あたし・・・菊地理花が”光月未夢”と出会ったのは
ある日の放課後だった。



職員室に呼び出された帰り。
荷物を取りに行こうと、教室の扉を開けると
ひとりの少女がぽつんと座って
頬杖をついて夕日をぼんやりと見つめていた。



教室のちょうど真中の席。あたしの席だ。
さらりと伸びた金髪の長い髪。
大きな緑の瞳が秋の夕日に反射して美しく光っていた。








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