作:久唖
しとしとと降る雨。
空の色を映す水溜り。
緑の木々に光る水滴。
七色に輝く虹。
それは、空からの贈り物。
「雨だー…」
縁側で、未夢は空を見上げて何度目かの台詞をぽつりと呟く。
「みたいだな」
その言葉に彷徨が同じようにうんざりしたように返す。
「あみゃー」
未夢と彷徨が一緒にいるのが嬉しいのか、きゃっきゃとルゥが笑う。
「そうだよー。ルゥくん。あ、でもこの雨飲んじゃダメだよ?ばっちぃからね」
「あい!」
「誰もこんなもん飲まないよなー。まるで誰かさんの経験談みたいだな、ルゥ」
「あーぃ!」
「ちょっと、何よその言い方!ルゥくんも、彷徨の味方するなんてひどいよ〜」
「誰も‘未夢’とは言ってないよ。なぁ?」
「きゃーぃ♪」
「その目が言ってるの!雨なんて飲まないもん。雪じゃあるまいし」
「…雪は食べたのかよ」
「ゆきゃー?」
未夢の腕の中できょとんとしているルゥがいて。
そんなルゥを見て未夢は笑みが浮かんで。
その隣で彷徨までも頬がゆるむ。
さっきまで晴れていたのに雨が降ってしまっていた。
せっかくの休日が台無し。それなのにざーざーと止まない雨が続いてる。
でも、こちら側はこんなにも暖かい。雨が降っていてもいなくても、変わらない。
それが余計に心を嬉しくさせる。
すると、そんな3人とは対照的に恨めがましいような声がひとつ。
「いいですねぇ〜…。雨が降って私は必死に洗濯物を取り込んでいたというのに……」
バタバタとたくさんの濡れた洗濯ものの入ったカゴを持って、外に行ったり中に入ったり。
雨が好きっていう人もいるけれど、急に降るのはこういう家事を全て任されている人にとっては天敵。
ワンニャーだけが家事をしているワケではないけど、天敵だと思っているのはこの家では多分この人(宇宙人?)だけだろう。
「あ、ワンニャー」
やっ、とばかりに右手をあげる。
未夢や彷徨はもちろん、ルゥまでもが真似をして、まるで「いままでどこ行ってたの?全然知らなかったよ〜」と言っているかのようだった。
もちろん、ずっと縁側にいたわけだから忙しそうにしているワンニャーはずっと見ていたし何をしているかも理解していた。
「「あ、ワンニャー」じゃ、ありませんよぉぉ…。手伝ってくださいよ。昨日雨でたまっていた洗濯が結構あるんですからね」
そう言いながらも手と足を動かしているところをみると、なるほど。優秀なシッターペットと言っているだけあって無駄口はたたかないということらしい。
一度家の中に洗濯を取り込んだかと思うと、また外に出て雨に濡れてシワになった服をカゴの中に入れていく。
たまに手が滑ったのか服を落としてしまい、「うわー」とか「わー」とか大騒ぎしてる。
その様子に、3人はちょっと笑ってしまった。
「…全く。ワンニャーもおっちょこちょいだよなぁ」
仕方ない、とばかりに彷徨は立ち上がり、すぐそこにあるスリッパに履き替えてワンニャーを手伝いにいく。
「も、って何よー。って、私は?」
外用のスリッパはもうない。外に出るなら自分の靴を玄関まで取りに行かないと。
彷徨は「そこにいろ」と手でしっし、と合図する。まるでそれが「来たら来たらで邪魔をするだけ」という風に見えて未夢はむぅ、と頬を膨らませた。
実際彷徨は、ルゥを抱いているんだし濡れてしまうからと伝えたかったのだろうけど、未夢にそれを察知出来るわけなく。
「私ってそんなにおっちょこちょいかなぁ?ルゥくん」
言われても意味がわからないルゥはまたきょとん、と未夢を見上げる。
「まんまっ。きゃぁ〜ぃ♪」
代わりに、ぺちぺちと小さな可愛らしい手で頬を撫でてくれる。
そんなルゥにまた嬉しくなってぎゅーっと抱きしめると、すくっ、と立ってルゥをきちんと抱きなおす。
「あの2人のために何か温かい飲み物でも淹れてあげようね」
「あーぃ!」
ふと、外を見る。
曇り空で雨がまだ降っていた。一応今は昼過ぎなので曇り空といってもちょっと明るかった。
この調子では数十分降ったら止むかな?というくらい。
「虹が出るといいね、ルゥくん」
飲み物入れたらまたここで空を見てようか。
梅雨時期は嫌いじゃない。
だって、こうして皆と揃って傍にいるのだから。
そんな、ある日の出来事。