Mermaid―悲しみの人魚姫―

作:梨音


昔、ある所に一人の人魚がいました。
人魚はある人間の若者と愛し合っていました。
若者はとても心の優しい人でした。
二人がいつものように会っていると、たくさんの人達が二人を取り囲みました。
そのたくさんの人達は人魚を捕まえに来た悪い人達でした。
人魚の血を飲むと不老不死を得られると言われていたからです。
若者は人魚を庇って息絶えました。
人魚はそれを見てこう言いました。
―私の怒りを知るがいい―と。
その後人魚も若者と同じ結末になりました。
人々は人魚の血を我先にと貪り、不老不死となりました。
しかし、人々にある異変がおきました。
人魚の血を飲んだ者が苦しみ始めたのです。
しかし不老不死なので死を迎えることができません。
ある人は言いました。
―これは人魚の祟りだ―と。
人々は祈り、像を建てました。
それにより人々は、苦しみから解放されました。

・・・そして数百年が過ぎ、人々は人魚の存在を忘れました。
人魚は怒りを忘れました。
しかし悲しみ、寂しさは消えることはありませんでした―・・・

・・・悲しい悲しい人魚の話・・・





『・・・アナタに・・・お願いがあります・・・』

―・・・アナタは・・・人魚・・・?―

『どうか私を・・・あの方のもとへと・・・連れてってください・・・』

―・・・私が・・・?―

『アナタにしか・・・頼めないことなのです・・・お願いします・・・』

―・・・わかりました・・・私は・・・何をすればいいんですか・・・?―

『私を・・・見つけ出して・・・その時・・・全てをお話します・・・』

―・・・必ず私が・・・アナタを見つけ出します・・・―

『よろしく・・・お願いします・・・』

・・・・・・ゆ・・・

・・・・・・みゆ・・・

・・・みゆ・・・

「未夢っ!」

「えっ・・・?」

ここはクリス家のバスの中。未夢・彷徨・綾・ななみ・クリス・三太・望の七人はお隣の県にある、噂の公園へと向かっていた。彷徨は、先程からボーッとしている未夢に話しかけた。彷徨の声で突然現実の世界に戻された未夢。周りも気づいたのか少し心配そうにしている。

「どうしたんですの?未夢ちゃん・・・」

「「大丈夫?未夢(ちゃん)」」

「光月さんもしかして酔ったとか・・・?」

「大丈夫かい?未夢っち。キミが元「大丈夫か未夢?」

「うん、大丈夫っ!ちょっとボーッとしちゃってただけだからっ」

未夢がいつもの笑顔に戻るのを見て周りも安心したのか、再び話し始める。

「・・・でさ〜次の話は、あの噂になっている恋愛が成就するマーメイド池の昔話なんだけど」

(マーメイド・・・?)

「昔あの場所には人魚が居て、ある人間の若者と愛し合っていたんだ・・・」

三太はその、マーメイド池について話していた。未夢は先程の謎の記憶がよみがえる。考え事をしている間も三太は話している。

「・・・と言うわけなんだ・・・」

「ちょっとかわいそうなお話ですね・・・」

「次の台本に使えそうなネタね〜、ウフフ」

「へぇ〜・・・そん「もうすぐ着くってよっ未夢!」

「わ〜、楽しみだねっ!」

言葉ではそう言いつつも、頭の中では先程の記憶の方が気になっていた。未夢は、隣の席の彷徨からの視線には気づいてなかった。そんなとき、バスが止まった。

「お嬢様『アクア・マリンパーク』に着きました」

「ありがとうございます、鹿田さん。」

皆がバスから降りる。周りにはたくさんの親子連れやカップルがいる。

「じゃあ早速!噂のマーメイド池に出発っ!」

ななみがそう言うと、他の人も「お〜!」と声をだし、歩き出す。数分もすると『マーメイド池』に着くのであった。周りには恋愛成就の噂を聞いてか、たくさんのカップル達がいる。

「ここがマーメイド池?水が綺麗だね〜」

(ここが・・・。ここにあの人魚さんがいるの・・・?)

未夢は周りを見渡す。すると人魚像が視界にはいった。未夢は気になり、その像へと歩いていく。他の皆もそれに気づいたのか、慌ててついて行く。未夢が像の前に来て、触れる。すると、周りから心地よい風が吹き出す。不思議な音楽が聞こえてくる。

(これは・・・一体・・・)

『やっと見つけてくれましたね・・・』

「えっ・・・「未夢っ!」

「彷・・・っキャッ・・・!」
風はどんどん強くなり未夢を取り囲む。皆は未夢を助けようと手を伸ばす。・・・が、風は彷徨達をも巻き込む。・・・やがて風は止まる。人魚像の周りには誰もいなくなった・・・。

「・・・う・・・ここは・・・!未夢!?皆!?」

彷徨が目覚めると、そこは薄暗い洞窟のような場所だった。見渡してみると、真ん中に大きな湖があった。その水はとても澄み、神秘的な輝きを放っていた。その周りに皆は倒れていた。しかし・・・ただ一人を除いて・・・

「未夢っ!」

「・・・うっ・・・ここは・・・?彷徨?・・・光月さん?」

「ここは一体・・・?彷徨君・・・未夢ちゃん・・・?」

「痛た〜・・・ここは・・・?・・・未夢・・・?」

「う〜・・・ここは・・・何?・・・未夢ちゃん?」

「ここは一体何だい・・・?未夢っち?西遠寺君?」

彷徨の声で皆が目覚めていく。皆の目には、大きな湖の目の前に佇んでいる未夢の姿が見えた。その様子に呆然としていると、未夢がいきなり湖へと足を踏み入れる。しかしその体は沈むことなく水の上に立っている。そして一歩一歩湖の中心へと近づいていく。すると湖の中心が渦を巻き始める。それでも歩きを止めない。渦の中心に着くと、未夢の体が少しずつ沈んでいく。その姿は神々しく、誰もが息を呑んだ。体が見えなくなると渦はゆっくりと消えていった・・・。

「未夢――――っ!!」

彷徨の声だけが洞窟に響いた―・・・その頃未夢は・・・

「アナタが私を呼んだのですね・・・」

「すいません・・・アナタだけでなく、友達も巻き込んでしまって・・・」

「いいんですよ。皆優しい人ですから」

未夢は渦に巻き込まれた後、水の中で人魚に会った。人魚は綺麗な長い金色の髪で、未夢と瓜二つだった。

「・・・そういえば挨拶が遅れました。私の名前は【アクア・ムーンライト】ムーンライトと呼んでください」

「私は光月未夢。未夢って呼んで」

二人の自己紹介が済むと、早速本題に入った。

「アナタが私を呼んだのは一体何のため?」

「それは・・・私を『あの方』のもとへと連れてって欲しいのです。」

「あの方って・・・あの伝説の若者?」

「はい・・・。実は私は自分の力だけではあの方のもとへと・・・いいえ、ここから出ることもできないんです。だから・・・ずっと待ってたんです、アナタを・・・私と波長が合う人を・・・」

「・・・わかりました。私協力しますっ!」

未夢が笑顔で言うと、ムーンライトも安心した。

「でも私は何をすればいいんですか?」

「私に少しだけの間、アナタの体を貸して欲しいの」

「ど、どーやって・・・?」

「ふふ・・・安心して。借りるっていうのは、私がアナタに乗り移って、少しの間体の自由だけを貸してっていうこと。」

「そういうことなんだ。わかったけど、どうやってするの?」

「あなたは目をつぶって体をリラックスさせて・・・」

「こ、こう・・・?」

未夢は言われたとおりにする。するとムーンライトと未夢の体が一つに重なり、七色の光が体を包む。光が消えて未夢が目を開ける。

「じゃあ、少しだけ借りるね・・・」

(わかった・・・会えるといいね、その人に・・・)

「ええ・・・」

未夢の体の周りで再び風が取り囲む。風がやむと、未夢の姿はなかった。一方彷徨達は、未夢が消えたことで混乱していた。するとこちらも風が周りを取り囲み、風がやむと皆の姿がなくなった・・・。再び七人は現実の世界へと戻ってきた。すると未夢が一目散に走り出す。未夢の姿を見た彷徨達は、驚きながらも、慌ててついて行く。しかし、誰も未夢に追いつくことができない・・・。10分ほど走って未夢が止まった。皆は息を切らして未夢を見る。ゆっくりと歩き出し、ある地点で歩きを止めた。

(ここなの・・・?)

「やっと・・・会えた・・・会いたかった・・・ずっと・・・!」

未夢が涙を流す。その目の先にあったのは・・・、小さなお墓だった―・・・。

続く―・・・



今回はホラー・ミステリーをテーマに書いてみました。

人魚伝説、結構生々しい感じになってしまいましたね・・・。この話で人魚のイメージが崩れてしまったらすいません;

はてさて、じつはこれ、最初は一話で終わらすつもりが頭の中で考えが膨らみ、一話では長すぎる可能性があると思い、前編後編で分けることになりました。

後編で全てを終わらせる予定なので最後まで楽しんでください。



[戻る(r)]