たった一人だけの地でアナタを想う

前夜

作:朴 ひとみ


殺すことだけが、私の存在意義。


殺すことだけが、私の存在理由。





子供の泣く声。



そのすぐ横に倒れている母親らしき大人。
(腹から血を出していて、意識はもうすでにない)





黒い影が子供に覆いかぶされる。




「お姉ちゃん・・・誰?」



そんな声を無視し、私は鎌を振り上げた。

























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眠い。





とにかく眠い。


昨日、徹夜で仕事を片付けたからだろうか。
しかし、俺の机の上に昨日と変わらない量の書類が置いてあるのは何故だろうか。

「・・・西遠寺中佐。」

どす黒い声。
相手は確かに怒っている。


相手がもう一度、俺の名前を呼ぶ。
だけど、それも無視。俺はとにかく眠いんだ。

「彷徨。」
下の名前に変わった。しかし、起きるつもりはない。
「・・・西遠寺彷徨!!」
とうとう、相手は俺を叩いてきた。

「な・・・なんなんだ、アービター中尉。」
俺は見上げるような形で、リンネ・アービターを見つめた。





茶色な目に、金髪な髪。
顔立ちも、なかなか整っている。
俺の第一部下で、多分この軍の中で一番信頼している。
・・・相手はどう思っているかは知らないが。




「それで、何の用だ?」
俺はもう一度、椅子に座りなおしながら聞いた。
「大総統からお呼び出しだ。」
「俺に?なんで?」

全く意味が分からない。
悪いことはなにもしていないはずだ・・・多分。

「知るか。とにかく、すぐに来い・・・だそうだ。」

仕方がない、大総統の命令は絶対だ。
俺はため息をつきながらも、部屋を出た。




















「大総統、お呼びでしょうか。」
「おぉ、西遠寺君か。ちょっとこっちに来てくれたまえ。」

はっきり言うと、俺は大総統があまり好きじゃない。
何か、嫌なオーラを出しているような気がする。

「さて・・・と。」
椅子に座った大総統は、引き出しの中の書類を取り出した。

「西遠寺彷徨中尉。十年前の南の戦争の功績から少尉から少佐に特進する。
その後、中佐へ・・・間違いはないかね?」
「はい。」

何をする気なんだ、このオヤジだ。

「よし、では着いてきたまえ。」


何処に?と質問する間もなかった。
大総統が暖炉の横にある電気のスイッチを一気に四回叩く。
すると、暖炉のすぐ近くの床がなくなっていた。

その代わりに出来ていたのは・・・








「階段・・・?それも、地下へ行くための?」
大総統が近づいてくる。


「君は、もう後戻りは出来ない。いいな?」

こいつが出す、圧倒的なオーラに俺は頷くしかなかった。















下っていって五分ぐらいしただろうか。
ずっと階段が続いている。
「あの・・・大総統。」
「しっ!静かにしたまえ、もうすぐだ。」



やがて、一つのドアにたどり着くと大総統は懐から鍵のようなものを出した。
「これを、後で君に渡そう。これから必要になるだろうからな。」
俺は意味が分からず、立ち尽くしていた。



ドアが開く。
そこには、信じられないものがあった。
いや・・・いた、か。






「大総統・・・彼女は・・・?」


自分と変わらない程度の年だろう。
金髪で少し童顔。しかし、服のボロボロ具合や首にしている首輪が痛々しい。

大総統が話し出す。

「わが国にとって最大で最強の兵器だ。今まであった大きな戦争は裏で彼女を使っているのだよ。」



何を言っているか全然分からない。
この女が兵器?まさか。



「・・・嘘でしょう?」
「嘘ではない。これはある意味、敵を殺す為に生まれてきたのだ。」
すると、大総統は語りだした。






昔、この国で連続殺人事件が起こった。
その犯人は余りにも華麗な手口で、53人もの人間を殺した。
・・・ただ、殺す感覚を楽しみたいというだけで。


しかし、最後は自首して捕まえられ、死刑となった。











-------しかし。
こいつの遺伝子を何かに利用できないか、と軍の上層部は考えた。








「・・・これが改良され、科学者達はそれを使って人間を造った。・・・まぁ、人造人間というところか。」
「そんな・・・そんなことが許されるのですか!?こんなことが!!」

すると、大総統は睨んできた。

「西遠寺君・・・これは『兵器』なのだよ。見かけは人間かもしれない。しかし、人を殺すことだけの為に生まれてきたのだ。そんなモノを人間とは言えんだろう。
・・・もうすぐ、東と戦争をするだろう。その時、君にこれを操ってほしい。
よろしく頼んだよ。」


大総統はそう言うと、鍵を置いて出て行ってしまった。




残された俺達はお互い顔を見合わせる。
・・・話題がない。

「な・・・名前は?」
恐る恐る聞いた。
すると、可愛らしい声で答えてくる。



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