作:煉夏沙良
2月14日。
普段から騒がしい第四中学校が更に騒がしかった。
「彷徨くん!好きですv」
「チョコ、受け取ってください、西遠寺先輩!」
最後のバレンタイン位静かに過ごしたかった。
今年は流石に無いだろうと思っていたのだが。
ここは素直に受け取るほか無い。
その様子を未夢は教室の端で見ていた。
「未夢〜、いいのあれで?」
「未夢ちゃんだって持って来たんだから、あげたらいいのに」
「いーの。あんな様子じゃ渡せないよ」
彷徨の周りには人だかり。
既に姿は見えない。
未夢は学校で渡すことを諦めかけていた。
すると・・・
「あの〜、光月先輩・・・」
「・・・ん?あ、紗枝ちゃん!どうしたの?」
其処にいたのは日向紗枝。
未夢と仲のいい1年生。
紗枝は手に包みを持っていた。
「お願いがあるんですけど・・・」
「なに?何でも聞いてあげるよ」
「実は・・・」
◇◆◇◆
「未夢・・・お人好しも程々の方が・・・」
「それ、未夢ちゃんが西遠寺くんにあげようとしてたんでしょ」
紗枝は彷徨にチョコを渡すべく、3年生棟まで来た。
しかし、その途中で人にぶつかってしまいチョコが無残な状態になってしまった。
苦手ながらも一生懸命作った紗枝はショックで、未夢に相談に来たのだ。
未夢のお人よしパワーが炸裂、考えた末に未夢が作ったチョコをあげることにした、というわけだ。
「西遠寺くんに未夢の想い、伝わらないよ」
「いいんだ・・・もう、何かどーでも良くなっちゃった」
彷徨の周りには美人の子達ばかり。
自分なんか伝えたって玉砕するだけだ、と思ってしまった。
だから、紗枝ちゃんのチョコとして自分のチョコをあげられるのなら・・・。
「彷徨、これ」
人だかりを掻き分けて彷徨のところにたどり着いた未夢はチョコを差し出した。
「・・・未夢?オマエの・・・?」
「違う、よ。後輩から、渡しておいてくれって」
押し付けるようにして彷徨にチョコを渡すと未夢は走り去った。
涙をこらえながら、でも誰にも見せないように・・・。
走り去った未夢を見た彷徨は唖然としていた。
いつもと様子が違う未夢。
不思議に思った彷徨はななみに尋ねた。
「天地、未夢に何かあった、か?」
「西遠寺くん!・・・未夢に言うなって言われたけど・・・」
◆◇◆◇
バカ未夢。
どうしてそんなにお人よしなんだ。
自分の思いを隠してどうして人のことばかり考える?
オレはオマエのチョコがほしいのに。
オマエの気持ちを直接聞きたいのに・・・未夢・・・。
木陰に人影があった。
蹲っているがすぐ分かる。
黄色の長い髪。
「未夢」
肩を震わせ振り向いた未夢の顔は涙でボロボロだった。
「な・・・何?」
「どうして、泣いてるんだ」
「なっ、泣いてなんかない、よ。それに、関係ない、じゃない」
否定になってない。
だったらその顔は一体何だよ。
どうして泣いてるんだ。
「どうして自分の想い殺すんだ、未夢。これ、オマエが作ったチョコだろ?」
「何で知って・・・っ」
瞳が揺れる。
「どうして私にばっかり構うの?本当は嬉しいんでしょ?女子に囲まれて、チョコ貰ってっ・・・それで十分じゃない」
「十分なわけねぇだろ。本命の人からは違う人のチョコとして渡されるし、泣きたいのはオレの方だ。いー加減、気づいてくれよ・・・」
言ってしまってからはっとする彷徨。
これでは自分から告白してしまってるようなものだ。
未夢は訳が分からないという表情をしている。
「か、彷徨・・・?それ、どーいう意味?」
「・・・オマエが好き、そう言ってるんだよ」
想いが通じた。
しかし、未夢は彷徨から告げられた言葉が信じられず混乱している。
「・・・私も、好き、だけど、いいの?」
「オマエがいいんだ。未夢しか、いらない」
やっと未夢が笑みを浮かべた。
涙は既に止まっていた。
再UPAです。