作:瑞穂
―ザザーン‥
暗闇の中、淡くはかない月明かり。
心地よく、一定のリズムで繰り返される波の音。
昼間はみんないたのに、今は未夢ただ一人。
浜に座り、押し寄せては引き返す、波を見つめていた。
―ザザーン‥
*+.゜・
「「「プライヴェートビーチ!?」」」
金曜日の昼休み。
二年一組の教室に、ななみ・綾・未夢・三太・彷徨の声が響いた。
「ええ。」
特に慌てる様子もなく、にっこりと微笑みながらクリスがうなづいた。
「クリスちゃんプライヴェートビーチまで持ってるの!?」
興奮したように未夢が詰め寄る。
ななみ、綾も未夢と同じように前のめりになりながら、目を輝かせている。
「はい。で、明日と明後日は学校もお休みですし、よろしければ彷徨君とみなさんも
ご一緒に‥と思いまして‥」
ちらちらと彷徨を見ながら、頬に手を当て、瞳を伏せ赤くなるクリス。
「いいね〜!いっぱい遊ぶぞー!」
「ホント!プライヴェートビーチなんて、さすがクリスちゃん。素敵だよ〜」
「うんうん!これは、次の劇のネタも満載ね!」
ななみ、未夢、綾の三人は、楽しそうにはしゃぎながら、それぞれ明後日の方向
を見ている。
気分はもうビーチなのだろう。
「行く行く!行きま〜すっ!彷徨!お前も行くよな?な?」
三太も興奮しながら彷徨の周りで騒いでいる。
「そうだな〜。・・・ま、いいか」
微笑みながら、了解した彷徨を見て、満足そうに微笑んだクリス。
その横で、未夢がはっとした顔をした。
(そういえば!ルゥ君とワンニャーのこと忘れてたよぉ‥どうしよ)
そっと彷徨に近づき耳打ちする。
「(彷徨、ねぇ、ルゥ君たちどうしよう?)」
「(いけねっ!忘れてた‥。どうするもなにも、連れて行けねーしな‥)」
「(きっと、二人とも拗ねちゃうよぉ〜)」
「未夢ちゃんと彷徨君がくっついてる…未夢ちゃんと彷徨君が…」
クリスが目の色を変え、背後に不穏な空気を漂わせながら未夢と彷徨を見ている。
「ちっ!違うの、クリスちゃん!」
「‥何が違うんですの?」
「そ‥それは・・・」
慌ててクリスに歩み寄った未夢だが、言葉に詰まる。
そんな未夢にクリスが目を光らせた。
その時。
「あ・・明日!」
慌てて彷徨がクリスに話しかけた。
椅子を振り上げた体勢で、怒りで光らせた目を彷徨に向ける。
「‥明日?」
「そ、そう!明日、未夢の親戚のお兄さんがうちに来ることになってたんだ!な!」
焦ったように未夢に同意を求める彷徨。
「う、うん。そうなの」
未夢は、それに何度も何度もうなづいた。
「そ、それに、ルゥ君も置いていけないねって話してただけなの!ね!」
「あ、ああ!そうなんだよ、花小町!」
引きつった笑顔の彷徨と未夢。
そんな二人を見て、クリスの怒りの色が消え、いつものおっとりとした雰囲気に戻る。
「なんだ、そうでしたの。わたくしったら‥申し訳ありませんでした。」
クリスが落ち着いたのを見て、顔を見合わせてため息をつく未夢と彷徨。
「あの、よろしければ、みたらしさんもしくは親戚のお兄さんとルゥ君も
ご一緒にどうですか?」
もう、すっかり元に戻ったクリスが、未夢に提案する。
「え!?いいの?」
「はい。大勢のほうが楽しいですし。」
微笑んでうなづいたクリスを見て、未夢が顔を輝かせる。
「(おい、あいつら連れて行くきか!?またなんか大変なことになるんじゃないのか?)」
「(きっと大丈夫だよ!私たちもついてるし!)」
不安そうに顔をしかめている彷徨に対して、未夢は握りこぶしを作ってみせる。
そんな未夢に、彷徨は諦めたようにしょうがないかと呟き、微笑んだ。
「それでは、みなさん。明日十時にわたくしの家にいらしてくださいな。」
「「「はーいっ!」」」
微笑みながら時間を告げるクリスに、みんなで楽しそうに返事を返した。
*+.゜・
―ザザーン‥
未夢は三角座りをしているひざの上に、顔を乗せた。
昼は少し痛いくらいに、ぎらぎらと輝く太陽の光もとで。
浜で思いっきり遊んで、海にも入って、みんなで楽しく遊んだ。
日焼け止めは塗っていたのだが、少し焼けた肌がヒリヒリする。
昼間。ルゥとワンニャーは、はしゃぎっぱなしだった。
ルゥが飛ぼうとするのを、彷徨と焦って隠しはしたが、
みんなも楽しんでいたので、誰も気付いてなかった。
最初は、ルゥとワンニャーが心配で、ハラハラしていた未夢と彷徨だったが、
大丈夫だとわかると二人も、安心して。
砂遊び、ビーチバレー、水のかけあい。
もちろん皆で泳ぎもした。
出された料理も美味しくて。
大きな露天風呂にも入った。
皆はもうクリスが一人に一つずつ用意してくれた(ルゥはワンニャーと一緒)部屋で
眠っているはずだ。
未夢は一人で、何となく浜辺まで歩いてきた。
そして今、心地よい夜風に当たりながら夜の海を見つめている。
月明かりだけの薄暗い中、聞こえてくるのは波の音だけ。
辺りには人っ子一人居ない。
世界にただ一人になったような気さえする。
世界中にただ一人‥‥未夢だけ‥‥‥
パパもママも居ない。
ルゥもワンニャーも‥
みんなも‥‥
彷徨も‥‥。
急に胸の中に孤独感がよぎる。
顔を上げて月を見上げた。
*+.゜・
「何してんだよ。こんなところで。」
(‥え?)
不意にかかった声に、辺りをキョロキョロ見回した。
すると、さっきまでは誰もいなかった未夢の斜め後ろの木に、もたれかかるように
彷徨が立っていた。
「彷徨‥。彷徨こそ、どうしたの?」
こちらに歩み寄ってくる彷徨を見つめながら、首をかしげた。
「‥散歩。」
座りながらそれだけを言った彷徨に、ふ〜ん。と返して。
「あたしも散歩。」
「‥そうか。」
沈黙が流れる。
二人で月を見上げる。
聞こえてくるのは相変わらず波の音だけ。
照らす光も、淡くはかない月の光だけだ。
だが、先ほどとは違い、心細くはなかった。
未夢の隣には、彷徨がいるのだから。
いつもこの人と共にありたいと思う。
未夢には未来のことなんてわからないけれど、
これから先もズット‥‥‥
彷徨と共に‥‥
END
読んでくださった方、ありがとうゴザイマスw
瑞穂です^^
短い小説が書きたかったんですが、終わってみるとなんだかチョットって感じになっちゃったです・・・;;季節外れだし((汗
もっと、頑張らないといけませんね^^;
こんなやつですが、これからもどうぞよろしくお願いしますm(__)m