ヤケだんごをしたくなるとき

作:山稜

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2003年クリスマス〜2004年初春の冬企画参加の作品です。
もうちょっと手直ししてから再公開しようと思ってたんですが、春企画もはじまっちゃうしね(^^;


 すみわたった、冷たい空気。
 重く、低くふるわせて。
 小高い丘の中ほどから、町のすみずみまで、
 108回目がゆっくりと行きわたったころ。

 その出どころ。

「で…なんだよ、これ」
「なにって…おそばの、ダシ」
「…この、あやしげなニオイがかっ?」

 未夢さんが、くびをかしげてます。
「そーなんだよねー、なんかヘンなニオイ、するよねー…っ」
 彷徨さんが、ためいきをついてます。
「なんか、じゃねーだろ…なに入れたんだ、おまえ…」
「かつおぶし混合ぶしでしょ、しょうゆにお酒にみりん…」

 彷徨さんは、未夢さんがさしたビンのひとつをつまみあげました。
「…これが、しょうゆか?」
「へ?」
「ソースじゃないか、これ…」
「わっ、うそっ!?」

 未夢さんが、くんくんとビンのくちのにおいをかいでます。
「やだホントだ…こんなトコおいといたら、まちがうじゃないっ」
 彷徨さんは、あきれてます。
「みろこれ」
「…なによ」
「このビン、ちゃんと『ソース』って書いてあるだろっ!」
「こんなトコ、書いてあったっけっ!?」
「おまえの字だろ、これは…」
「し…しってたんなら教えてくれたらいーじゃないっ、彷徨のバカっ」
「なにいってんだ、おれは今の今まで除夜の鐘、つきに行ってたんだぞっ」

 もうこうなると、なんで言い合いになったのやら。
 ”ぎゃいぎゃい”という字で書くのが、ぴったりです。
 こちらにきてから半年以上、毎日こんなちょーしです。

 しかたありませんねぇ…。
「まぁまぁ、おふたりともっ」
「ワンニャーは、だまっててっ!」

 …ひとことで、おわりですか。
 しおしおのわたしの背後から、声がとびました。

「んもう、パパもママも…っ」

 ここの娘さん、未宇さんです。
 仁王立ちです。
「わたしもルゥも、おなかすかせて待ってるんだからっ、けんかしてないで早く作ってよっ」
 ルゥちゃまも、苦笑いです。

「ん?」
 舌をだしてた彷徨さんも、耳の穴から指を抜きました。
「…そうか、じゃパパが作ってやる」

 彷徨さん、未夢さんにはああですが、未宇さんには甘いですね♪
 わたしが作ってさし上げようかとも思いましたが、とりこし苦労のようでした。



 そんなわけで、無事おいしそーな年越しそばが、食卓にならびました。
「いただきまーす!」
 テレビがカウントダウンを、始めました。
 3…2…1…
 盛大に、花火があがってます。

「まぁ…うちぐらいよねっ、ホントに年がかわるときに『年越しそば』食べてるのなんて」
 未宇さんが、ためいきをついてます。
 ルゥちゃまが、おそばをすすり終えました。
「そうなの?」
「そうなんだ、パパが『除夜の鐘、打ち終わってからでないと落ち着かない』って」

「ん…でも、毎年はもっと早く食い始められるんだけどな…」
 彷徨さんがちらっと、未夢さんのほうを見ました。
 あんのじょう未夢さん、怒りはじめました。
「あ〜ん〜た〜ね〜え〜っ…」

「ほらっ、またっ!」
 未宇さんが、あきれかえってます。
「もうっ…しらないからねっ、いこっルゥっ」
「あ…うん」
 ルゥちゃまももう、笑顔がひきつってます。

「どこ、行くんだ?」
「どこって…初もうでだけど?ルゥに見せようと思って」
「中学生が、こんな夜中に出かけなくてもいいだろ…」
「アラ、でもルゥくんもついてることだし…ねぇルゥくん」
「うん、何かあっても未宇はまもってみせるから、心配しなくていいよ、パパっ」

 自信、というよりは、無邪気というような笑顔ですが…。
 この笑顔には、ながいことおつかえしているわたしも、まいってしまいます。

「…そうか、じゃ…でもくれぐれも、気をつけるんだぞ」
「はーい、いってきまーすっ!」

 おふたり、先にいっちゃいましたね…。
「さて…ではわたしもっ」
 いつもの青年姿に、変化しておきます。

「えっ、ワンニャーもついていくのっ!?」
 未夢さん、目を丸くしてます。
「だってお祭りのときのような夜店、出るんでしょう?きっとみたらしだんごの屋台も、あるにちがいませんもんっ」
「そりゃそうだけど…ワンニャー、あのね…」
「そ…そうだワンニャー、檀家の宮原さんからもらった、宮崎のいい焼酎があるんだ、いっしょにのまないか?それとも栗田さんからもらった、新潟の地酒のほうがいいか?」

 せっかくの彷徨さんのお誘いですけど、わたしはお酒はニガテです。
 あんなフラフラになるものより、みたらしだんごがわたしを呼んでます。

「いーえけっこうですっ、ではいってきますっ!」

 また止められてしまうかもしれません。
 そう思って、全速力でルゥちゃまたちのあとを、追いました。

「あ〜あ、おじゃま虫…」
「しょーがないっ、わたしたちだけで開けましょっ」
「おまえ…酒、弱いくせに、好きだよな…」
「へっへ〜」


 神社の境内まできて、ようやくルゥちゃまたちの姿が目に入りました。
 …でも、なんだか様子がヘンです。
 高校生ぐらいの男の子たちに、からまれてるようです。

 ひとりがなぐりかかってきました。
 ルゥちゃまはそれを後ろにかわして、ひじうち。
 次のコがまわしげりしてきたのを、下にかがんでよけました。
 まわってしまってガラ空きになった背中に、ジャンプしてひざげり。
 でもあとのひとりが、よこからタックルしてきたのは、よけられませんでした。
 上に乗られてしまって、ほっぺを一発なぐられちゃったみたいです。

 あっ、ルゥちゃまだめですよっ、超能力で浮かせちゃっ…。
 相手のコが目をまん丸にしてる間に、ルゥちゃまは起き上がってパンチ一発。

 おぼえてろよ〜とか捨てゼリフをはいて、みんな行っちゃいました。
 一応、なんとか超能力もバレない程度でしたし、未宇さんも無事なようで。

 未宇さんが心配そうに、ルゥちゃまのほっぺに手をそえてます。
「だいじょうぶっ、ルゥっ」
「☆※&@¢◆↓←○∞@℃!」

 えっ?

「&@¢☆※○℃∞◆↓←@…#<>@*+!」
「ちょっとっ、どうしたのルゥっ」
 わたしも思わず、かけ寄りました。
「どうしたんですかっ?」
「なんか、ルゥがなに言ってるのか、わかんなくなったのっ」

 これは…ひょっとして…。
「ちょっとルゥちゃまっ、おくちをあけてくださいっ」
 そう言っても、わからないようです。
 しかたないので、そおっとおくちに手を当てて、ゆっくり開かせていただきました。

「やっぱり…」
「どうしたのっ」
「こわれてます…自動翻訳装置…」
「えっ…自動翻訳装置って、そんなところにあったのっ」
「はい…昔のように、体の外につけるタイプではなくて、いまは歯の中に埋め込んでしまいますから…オット星でもヒューマノイド族とシッターペット族では、発音できる音が全然ちがいますから、自動翻訳装置をとおして話をしてるんです」

「…じゃあ、ルゥが何を言ってるか、わたしたちが何を言ってるか、お互いにぜんぜん?」
「…わからないでしょうね…」

 ルゥちゃまも頭のいいかたです、すぐに事情はのみこめたようです。
 未宇さんの顔は、心配でいっぱいになっていました。

「ワンニャーさんっ、自動翻訳装置のスペアって、あるのっ?」
「ええ…それは、西遠寺に置いてありますからだいじょうぶですが…交換は、ここではむりですね…」
 未宇さんが、心配そうにルゥちゃまのお顔をのぞきこみました。
「じゃあ、しかたない、初もうでは中止して、かえりましょ…っ」

 そう言ってきびすを返した未宇さんのうでを、ルゥちゃまがつかみました。
「£@¢★※&§£#▽□∪⊆∋…※☆¢◆&@↓∞@℃←○」

 …なにを言おうとしているか、さっぱりわかりません。

 でも未宇さんは、ルゥちゃまの目をじっと、見ていました。
「えっ…このまま、行くのっ?」
 ルゥちゃまは、うなづきました。

 …なにが起こったんでしょうっ?


 そのあと、神殿で参拝をして、おみくじをひいて、夜店で射的をして…もちろん、みたらしだんごも買いましたが…、帰るまでの間、わたしはルゥちゃまのおっしゃることがまったくわかりませんでした。
 でも未宇さんは、ずっとルゥちゃまのおっしゃることが、わかったみたいなんです。
 おふたりとも、楽しそうに過ごされてました。

 わたしは不思議に思って、西遠寺につくなり、未宇さんにきいてみました。
「どうしてルゥちゃまのおっしゃることが、未宇さんにはわかったんですかっ?」
「わたしにも、はっきりわかったわけじゃないけど…」
 未宇さんは、ちょっとかしげた首を、また起こしました。
「でもなんとなく、ルゥならこういうんじゃないかな〜って、わかったからっ」

 そう言っている間に、ルゥちゃまは翻訳機を取りかえてこられたようです。
「はぁっ…まったく、ヒドイ目にあったねっ」
「でも、楽しかったよっ?」
「う〜ん、でも、やっぱり翻訳機にたよらないでいいように、ちゃんとこっちのことば、話せるように勉強するよ…」
「さすがっ、ルゥって頭いいもんね〜っ」
「それに…やっぱり、自分のことばで言いたい気持ち、っていうのも、あるしね…」
「えっ…」

 こういう場面、おじゃまをしては、いけませんねぇ…。
 せっかくみたらしだんごもありますし、お茶を一杯いただきましょうか…。
 え〜と…お茶の間、でしょうか…。

 おっと…。
 未夢さんも彷徨さんも、こたつに突っぷして、ねちゃってます。
 彷徨さん、未夢さんにしっかり、毛布をかけてあげたんですねぇ…。

 後ろから、未宇さんが入ってきました。
「もうっ…けっきょく仲いーんだから、余計なこと言って、けんかしなきゃいーのにっ」
 そう言って、彷徨さんに未宇さんの毛布の残り半分をかけました。

「ねぇルゥ…やっぱり、そんなにがんばらなくっていーよ?」
「どうして?」
「だって…気持ちって、ことばだけじゃないもんっ」

 未宇さんは、にっこり笑いました。
 ルゥちゃまも、満足そうに笑ってらっしゃいました。



 なんだかわたしも、奥さんと子どもたちの待ってる家に、帰りたくなってきましたぁ〜っ…。
 こうなったらひとり、ヤケだんごしちゃいますよっ!だれにも、あげませんからねっ!


 っておなかいっぱいおだんご食べちゃって…。
 翌朝のお雑煮が、あんまり食べられなくてくやしかったですぅ。

愛する奥さんへ
ワンニャーより


は〜い、というわけで山稜的新だぁ(相変わらずシリーズ名未定(汗))第2弾♪
今回はめったにみなさんが書かないもののオンパレードです〜なんてチャットで言ってたんですが、ワンニャーの語り、大晦日から元旦へかけての話、そして何より新だぁってことで、まずこんな話はネタかぶらないだろう(笑)

時間があったら、初詣をしてる途中の未宇とルゥの様子を、もうちょっと書き足したかったですねぇ。気が向いたら書くと思いますが…当分ムリだろうな(汗)
単身赴任のワンニャー、ちょっとさびしい思いをしてますねぇ…かわいそうに(^^; そのうちミニニャーとかも出してあげようね、うんうん♪

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